【商品開発責任者インタビュー】栄光の航空時計に捧げる新作「ロンジン スピリット フライバック」が備える“サプライズ”を教えてもらった

大空への冒険を時計でサポートしてきたロンジン(LONGINES)】が、積極的にパイロットウオッチのニューモデルを投入している。その理由や最新作の魅力を探るべく、同社の商品開発を指揮するジュゼッペ・ミッチオ氏へのインタビューを行なった。彼の発言から見えてきたのは、航空時計にも数多くの“レガシー”を持つロンジンの強みと、それを現代的に解釈する巧みさだった。


最新作「ロンジン スピリット フライバック」。ブロンズカラーを施した剣型の針のほか、アラビア数字インデックスや高精度を意味する5つ星といったロンジン スピリット コレクション共通の意匠を備える

 

復刻に対するファンの期待に応え、同時にモダナイズを成立させる難しさ

 

《ジュゼッペ・ミッチオ(Giuseppe Miccio)氏


2021年より、ロンジン ヘッド・オブ・プロダクト ディベロップメントとして商品開発部門を率いる

 

スイスに拠点を置く時計ブランドの数は底知れないが、創業から2世紀近い存在となるとごく限られる。その中でも1832年創業のロンジンは名門と呼ぶに相応しく、時計の歴史を切り拓いてきた一社として知られ、革新的な技術やタイムピースを数々生んできた。

 

(ジュゼッペ・ミッチオ氏)「ロンジンのパイロットウオッチというと、チャールズ・リンドバーグと共同開発したアワーアングルウォッチをイメージする方も多いでしょう。これは時計界にとっても、そして航空界においても時代を先に進めた“レガシー”であり、多くのパイロットたちに愛用されました。しかしこれだけではなく、ロンジンにはまだまだ脚光を浴びるべきモデルが存在します。そのひとつが、フライバック クロノグラフです」

―― 現在では複数社から発売されているフライバッククロノグラフだが、ロンジンは同分野のパイオニアとして主に1920年代~1960年代にかけて発展させた。まだクロノグラフを搭載する腕時計も少なかった時代に、すでにフライバック付きを完成させていたのだ。


1925年、ロンジンは2つの独立したプッシュボタンを持ち、フライバック機能を備えた初の腕時計型クロノグラフを発表。写真はフライバッククロノグラフムーブメント「キャリバー13.33Z」を搭載する1928年製モデル

 

「時間やスピードの計測が欠かせないパイロットにとって、フライバックの連続的に計ることができるストップウオッチ機能は理想的なツールでした。腕時計として世界で初めて特許を取得(1935年に申請し、1936年6月16日に登録)もしています。今回のロンジン スピリット フライバックは、こうした“レガシー”へのリスペクトを形として表したものです」


ロンジンは1935年にフライバック機構の特許を出願。翌年に登録され、同じ年にフライバッククロノグラフを備える最初のシリアル クロノグラフ(キャリバー13ZN搭載)を発表した

 

―― ロンジン スピリット フライバックに対する率直な感想は、パイロットウオッチに散見される装飾を省いた無骨なイメージではなく、むしろ美しく整っていること。このバランスの良さの秘訣とは?

「ロンジンにとってもファンにとっても、“キング・オブ・クロノ”であること。これが企画が持ち上がった段階からの開発陣の共通認識でした。そのうえで重視したのが、ロンジン スピリット コレクションがコンセプトとする“レガシー”への敬意と、現在のニーズを捉えたモダンさを取り入れること。常に革新を求め、陸・海・空の全方位に向けた優秀な時計を輩出してきたロンジンの哲学も投影しています。そして形づくられたのが、1925年のモデルや1929年のモデルに倣った2カウンターとする左右対称の文字盤デザインで、あえて日付表示を省くなどルックスにこだわりました」


「ロンジン スピリット フライバック」は、両方向回転式のセラミックベゼルを装備。簡易的に60分まで計れるスケールが付いている

 

―― 光の帯び方によって様々な表情を見せるサンレイ仕上げの文字盤のほか、光沢があり操作性も良いセラミックトップの回転ベゼルの上品さにも驚かされたが、同等レベルのサプライズがケースバックにあった。

「ロンジン スピリット コレクションでは初めてサファイアクリスタルバックを採用し、新開発のキャリバーL791.4を眺められるようにしました。こちらもこだわりのポイントで、ペルラージュ装飾を施した地板、翼を持つ砂時計のロゴを刻印した専用ローター、青焼きのビスとコラムホイールを用いて“魅せるムーブメント”としています。もちろんパイロットウオッチとしての精度条件を満たすため、COSCによるクロノメーター認定も受けています。このプライスゾーンではなかなか例のないスペックで、驚きのひとつといえるでしょう」


「ロンジン スピリット フライバック」のシースルーバック。同じグループのETA社と共同開発したロンジンエクスクルーシブのキャリバーL791.4を眺められる。その美しさもさることながら、約68時間のパワーリザーブやシリコン製ヒゲゼンマイを備えるなど、最新のニーズに応える実用的な自動巻きムーブメントである

 

―― 開発陣も会心の出来という「ロンジン スピリット フライバック」。これだけのブランドのエスプリとクオリティを誇りながら、60万円台という価格設定にも驚かされた。新しいクロノグラフムーブメントを手に入れたことだし、2022年にはロンジン ウルトラクロンの復活で毎時3万6000振動のハイビートキャリバーも実用化している。となると、次の展開にも期待がかかるが……。

「イイ質問です(笑)。ウルトラ-クロンは1968年製のダイバーズが題材で、高振動の高性能ムーブメントが魅力のひとつです。今回のフライバック付きクロノグラフムーブメントの開発で培った技術との融合も、将来的には考えられますね。また、ロンジンにはまだまだ歴史に隠されたアーカイブピースがたくさんあります。それらを掘り起こし、復刻したりモダナイズして蘇らせることは、手間のかかることではあるものの我々の使命ともいえます。それらが世界のマーケットで評価され、願わくはロングセラーとして愛され続けていくことを今後も目標としていきます」


「ロンジン スピリット フライバック」 Ref.L3.821.4.53.2 64万1300円/自動巻き(ロンジン専用Cal.L791.4)、毎時2万8800振動、約68時間パワーリザーブ、COSC認定クロノメーター、シリコン製ヒゲゼンマイ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、レザーストラップ、サファイアクリスタル風防(両面に複層無反射コーティング)。直径42mm、厚さ17.0mm。10気圧防水

 

問い合わせ先:ロンジン/スウォッチ グループ ジャパン TEL.03-6254-7350 https://www.longines.jp ※価格はすべて記事公開時点の税込価格です。

Text:山口祐也/Yuya Yamaguchi(WATCHNAVI) Photo:谷口岳史/Takefumi Taniguchi(時計イメージ写真)