【ジラール・ペルゴ】躍進を牽引する経営キーマンに日本マーケット重視の姿勢や「ロレアート」の人気ぶりについてインタビュー
時は幕末。この激動の時代に【ジラール・ペルゴ(GIRARD-PERREGAUX)】は、スイスから正式なルートで持ち込まれた最初の時計となった。以来、日本でも知られる舶来ブランドとなったのだ。そのような経緯から絆を深めてきた日本のマーケットについて、ジラール・ペルゴのキーマンであるルック・デュクロワ氏に話を聞く機会を得た。世界的な人気のために完売状態が続いている「ロレアート」の現状についても尋ねた。
ジラール・ペルゴ チーフ・コマーシャル・オフィサー ルック・デュクロワ氏
1996 年、フランスのレンヌ大学で経済学の博士号を得て、翌年にはパリのESCP ビジネススクールにて監査&会計学を専門に博士号を取得。18年間在籍したタグ・ホイヤーでの実績を評価され、ジラール・ペルゴへ籍を移す。その後、ジュネーブや東京、ロサンゼルス、上海のオフィスで従事し、2019年よりコンテンツおよびクリエイティブにおける最高責任者(CCO)に就任。
「パンデミックを克服し、強化された体制のもとで生産が始まっています」
―― まず、今回の来日の目的についてお聞かせください。
(ルック・デュクロワ氏)「コロナ禍の影響により、各国のスタッフやディストリビューターとのリアルなコミュニケーションが取れていませんでした。オンラインを使ったミーティングは行ってきましたが、対面での会話以上のメリットはなかなか得られません。とくにラグジュアリーな商材は、現場、すなわちローカルなショップとの関係も重要であり、コロナが落ち着きつつあるこのタイミングでの来日が叶ったわけです」
↑ジラール・ペルゴ「ロレアート 42mm」 Ref.81010-11-431-11A 188万1000円/ジラール・ペルゴを代表するラグジュアリースポーツウオッチで、オリジナルは1975年に登場。クル・ド・パリ装飾を施した文字盤や、スタイリッシュさを際立たせる八角形ベゼルを備える/自動巻き(自社製Cal.GP01800-0013)。ステンレススチールケース(シースルーバック)&ブレスレット。直径42mm、厚さ10.68mm。100m防水。
―― 日本国内でもロレアートの人気に火が着き、正規取扱店の在庫が揃わないという事例が出ています。その理由は?
「多くの方のご期待に添えず、申し訳ないばかりです。おそらく日本の製造現場でも同じような状況に陥った分野があるかと思いますが、スイスでもコロナによって工場が停止したり、閉鎖されてしまったという例がありました。代表的な産業である時計界も例外ではなく、この3年ほどは人員の移動なども多数見られ、生産体制が整わないブランドも少なくありませんでした。そこでジラール・ペルゴでは、以前よりもさらに安定した生産体制を求め、自社の体制の再構築やサプライヤーとの新たな提携によって、ロレアートを増産する目途が立っています。近い将来、バックオーダーぶんも含めて皆さんのお手元や店頭に届くことでしょう」
―― ジラール・ペルコでは、以前からムーブメントに対してはマニファクチュールという体制を敷き、外装などについては本社工場を構えるラ・ショー・ド・フォンのエリアにあるサプライヤーで製造している。今後もこの“分業”は変わらないという。
「ケースにはケースの、ブレスレットにはブレスレットの、そしてダイアルにはダイアルの専門的な技術と知識を持ったメーカーがスイスには数多くあります。伝統的にこのような分業体制のもと、時計産業は成り立ってきました。こうしたプロフェッショナル企業とパートナーシップを結ぶことで、ハイレベルなタイムピースが生み出せるわけです。もちろんクオリティチェックや新開発のスピードを上げるために、我々の拠点があるラ・ショー・ド・フォンの8km圏内にあるメーカーとの提携がほとんどです」
―― デュクロワ氏は、ここにもコミュニケーションの重要性があると説く。
「良きコミュニケーションが生んだプロダクトとして、ヴィンテージ1945の日本限定バージョンがあります。日本のチームからのオーダーがあり、いくつかのディスカッションや試作を重ねた末に、スモールサイズで上品なカラーの日本的なヴィンテージ1945が完成しました。すぐに反響があり、取扱店の店頭では好意的な意見をいただいています」
↑ジラール・ペルゴ「ヴィンテージ1945 グレー 日本限定モデル」 Ref.25835-11-3127-3CC 163万9000円/1945年製のアーカイブピースを、モダンに甦らせた角型ドレスウオッチの日本限定仕様。英語のことわざ“Every cloud has a silver lining”(=どんな雲も裏側は銀色に輝いている)がテーマ/自動巻き(自社製Cal.GP03300)。ステンレススチールケース(シースルーバック)、アリゲーターストラップ。縦33.3×横32.46mm、厚さ9.66mm。30m防水。日本限定200本。
「日本の市場は特別。認められれば、世界各国でも通用する」
―― 各国や各地域に向けたリミテッドエディションには個別のこだわりが施されるが、日本限定はとくにその傾向が強い。理由をデュクロワ氏は、ホンモノ志向を納得させるために必要なことと語る。
「先進各国を見渡しても、日本ほどモノに愛情を注ぎ、大切に扱う文化を持つ国もめずらしいと思います。だからこそホンモノを選ぶ目が養われており、高級時計を見る目も厳しく鋭い。一方で、日本で認められれば、他国でも通用するというエビデンスになります。かつて私が日本で接客に携わった際、お客様が自前のルーペで時計の細部をチェックされたことがありました。しかもそのお一人ではなく、同様の機会がほかにもありました。他国ではあまり見られないシーンに、ちょっと驚かされた記憶があります(笑)。ですがそれだけ真剣に選んでくれているわけですし、作り手側としては嬉しい限り。そのときに、日本で認められる重要性を感じましたね」
―― 筆者がイメージするジラール・ペルゴといえば、とにかく細部まで美しく、風防内のダイアルのクリアさが際立っている点。このヴィンテージ1945 グレー 日本限定モデルにおいても、湾曲したケースに合わせて設計された美しいダイアル、曲げられた針などにより、時刻情報がスッと入ってくる感覚。ユーザーになれば、さらにそれを実感できることだろう。
「ジラール・ペルゴは230年以上続く歴史の中で技術を磨き、写真や数値では表しにくい時計の本質を追求してきました。そうした伝統はイノベーションやチャレンジのうえに成り立つものであり、過去のアーカイブにヒントを得たヴィンテージ1945やロレアートを揃える他方で、スケルトンデザインのブリッジのような前衛的なコレクションもラインナップしています。これからも独自の道を歩むブランドとして、日本の時計愛好家の方々にご注目いただきたいです」
ジラール・ペルゴは現在、信頼の置ける国内18の正規店とパートナーシップを組んで展開している。ロレアートの供給も改善される見通しのようであるし、驚くようなプランも進行中だとか。日本とスイスの絆の架け橋となった老舗ブランドの今後に、期待がかかる。
問い合わせ先:ソーウインド ジャパン TEL.03-5211-1791 https://www.girard-perregaux.com ※価格はすべて記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。
Text/山口祐也(WATCHNAVI) Photo/鈴木謙介