1年間の時計製作の集大成 ヒコ・みづのジュエリーカレッジで行われた卒業製作展に行ってきた
ヒコ・みづのジュエリーカレッジで、1年間オリジナル時計の製作に挑んだ学生たちの成果を確かめるため、卒業制作展に向かった。会場はヒコ・みづのジュエリーカレッジの青山校舎。時計以外にもジュエリー、自転車、シューズやバッグなど各コースの学生の作品が展示されていた。普段はカジュアルな服装の学生たちもこの日はスーツを身に纏い、来場者たちとの会話を楽しんでいた。
5人の学生たちが1年間で作業したオリジナルウオッチを紹介
WATCHNAVI本誌の連載で、ヒコ・みづのジュエリーカレッジの学生たちに1年間に渡り、時計の製作の様子を取材してきた。卒業前最後のイベントとして、卒業製作展が開催。完成した作品や1年間の時計製作コースを経験した感想を聞いた。
❶実用サイズのトゥールビヨンの製作に挑んだ中西風樹さん
卒業製作展までに外装を完成させたかったのですが、まだ終わっていないですね。キャリッジ以外は完成しています。脱進機周りの調整も途中で、ムーブメント自体は動かない状態です。ケースは木に漆を塗って仕上げています。卒業後も仕事と両立しながら、動ける状態まで進めたいですね。時計製作を実際にやってみて、修理よりは楽しかったですけど、辛いことの方が多かったですね。中々当初のプラン通りにはいかなかったです。実際に自分で組み立ててみると、やはり汎用ムーブメントは組みやすいように考えてあるなと思いました。
❷鍵巻きのトゥールビヨンの製作に挑戦した土田時也さん
駆動方式は、鍵巻きで、ケースは真鍮製です。ガラスはアクリルを旋盤で削って、面取りをしています。特にデテント周りが苦労しました。100分の3ミリの板バネを調整するのですが、その調整がうまくいかず動いていない状態です。時計製作を経験してみて、脱進機を作ることの難しさを改めて痛感しました。レバー脱進機がいかに優れているか。どんな本を読んでもデテント脱進機の製作は、優れた技術者に必要と書いてあるので、その理由が良く分かりました。やはり精度良く作らないと動いてくれないので難しいですね。今後は仕事をしながら、新しいデッキウォッチの製作にも挑戦したいです。
❸カルーセルを搭載した懐中時計の製作に挑んだ田中天晴さん
現在完成していないのは、香箱と歯車2本です。パーツ自体は完成しているのですが、キャリッジの軸が製作途中で、組み合わせることができない状態です。素材は真鍮で梨地やメッキ加工を施しています。キャリッジの部分は、繊細なパーツが多くて、特殊な組み方をしないと組めなかったので、苦労しました。ケースのイメージは懐中時計のケースに入れて、木のボックスに収納する予定です。まずは設備を整えて、就職後も休みの日に作業をしていきたいと思います。動くまでだったらあと1カ月、半年あれば完成までできると思います。製作した感想は当初の予定通り、自分が学びたかったCNCの使い方とか設計の方法が深く学べて良かったです。実際に使ってみて難しさも良く分かりました。今後の目標は、脱進機が好きなので、脱進機模型か、カルーセルなどを積んでいない3針時計を作りたいです。
❹天文時計の製作に挑んだ宇津原仁さん
完成形ではあるのですが、今は巻き穴を折ってしまって動かせない状態です。自分でデザインしたものはすべて入っています。苦労した点は、自分で買った旋盤を使いこなすまでに時間がかかったことです。中心を出さないと回ってくれないとか、途中で止まっちゃうとか歯車の製作が難しかったですね。その他に苦労したのは、歯車の組み合わせとか英語の文献を見て理解するのが大変でした。来年も学校に残るので、歯車の切り直しなど次の設計を始めています。最低でも針を1本増やして、月齢の機能を増やす予定です。来年は、天文時計のガリレオガリレイにより近づけるかなと思います。
❺コラムホイール式クロノグラフの製作に挑んだ肥後直弥さん
クロノグラフは動くのですが、オペレーティングレバーが折れてしまったので、ボタンを押したら返ってこないため、現状は動いていません。がんぎ車も折れたので、持っている2つのムーブメントからがんぎ車だけを交換しようとしたのですが、それぞれのムーブメントの製造誤差が大きく、交換しても動きませんでした。なので、このムーブメントに合ったがんぎ車に当たるまで同じムーブメントを購入して、組み付ける作業を繰り返すしかないですね。ちなみに9時位置はフドロワイヤントになる予定です。フドロワイヤントもピラーを作れれば組み込めると思うので、働きながらCNCを購入して、3~5年の内に完成を目指します。
それぞれ個性を持った作品に仕上がっており、話している学生たちの表情がやわらかく、1年間の学びが充実したものであることが伺えた。ヒコ・みづのジュエリーカレッジで学んだことは、仕事や今後の時計製作に活かされていくはずだ。学生たちの今後の活躍に期待したい。
Text・Photo/平野翔太(WN編集部)