日本に精通するブルガリ時計部門のリーダーに超薄型「オクト フィニッシモ」など話題作を連発する極意を尋ねる
いま最も勢いのあるブランドのひとつに挙げられるのが、【ブルガリ(BVLGARI)】だ。銀細工職人ソティリオ・ブルガリがローマに初の店舗を構えてから今年で140周年という節目であり、存在感を高めている。魅力溢れる新作も然りだが、ユニークなコレクションはどう生み出されているのだろうか。時計部門のリーダーを務めるアントワーヌ・パン氏へのインタビューを通し、その極意を探る。
〈ブルガリ 時計部門マネージング・ディレクター〉アントワーヌ・パン氏
フランス生まれ。パリのHEC経営大学院を卒業後にタグ・ホイヤーでキャリアをスタートし、プロダクト・マネージャーに就任。ブシュロンに籍を置いた後、LVMHグループに復帰してゼニスでの要職を経て、LVMHウォッチ&ジュエリー UKのマネージング・ディレクター、タグ・ホイヤーにて日本と韓国のジェネラルマネージャー、ブルガリで中国エリアのマネージング・ディレクターといったポストを歴任。2019年より現職。
140年の歴史と技術がラグジュアリーピースを進化させる
―― ウオッチズ&ワンダーズで筆者に強烈なインパクトを与えたのが、「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」だった。薄さへの挑戦に加えてクロノメーターを取得する困難さを、アントワーヌ氏は次のように表現する。
(アントワーヌ氏)「時計の技術において、精度は最も重要なスペックです。しかしながらウルトラシン(極薄)では当然サイズに制限がありますから、最終的なプロダクトは初期設計に極めて正確であることが理想となります。これを実現するには、時計を構成するすべてのコンポーネントが適合していることが不可欠で、完璧なツールと最高峰の技術が求められました」
―― ブルガリ オクトコレクションの10周年となる2022年に「オクト フィニッシモ ウルトラ」が発表された時点で、「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」は開発段階にあり、精度の追求も同時に行われていたという。2022年モデルは8度目のケース最薄レコードを成し遂げたわけだが、本機は1.7mm厚とさらに薄くなり、COSCによるクロノメーターを取得。スリムさを極めるだけでなく、実用性を重視する姿勢に時計ファンは共感を覚えるはずだ。
「オクト フィニッシモ ウルトラ COSCのキャリバーは、ラ・ショー・ド・フォンに拠点を置くConcepto社との共同開発により完成しました。両社はこの分野のオーソリティを目指す、同じ価値観を共有するファインジュエリーのエキスパートパートナーです。また、キャリバーとケースが一体化していることもあって、COSCによる厳格な精度テストは時計本体ごと行っています。キャリバー単体よりも精度を出すことが難しくなりますから、オクト フィニッシモ ウルトラ COSCが極めて優秀なことがお分かりになるでしょう」
↑ブルガリ「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」 Ref.104081 価格要問い合わせ
2022年発表作のケース厚1.8mmから、突き詰めてさらに0.1mm薄くするとともに、高精度の証明であるCOSC認定クロノメーターの取得を達成。ケースバックとメインプレートに超硬質タングステンカーバイトを採用し、実用的な強度を確保している。ケースバックに刻まれたQRコードは小型データマトリックスだ(※香箱にからケースバックへと仕様変更)。
スペック:手巻き(Cal.BVL180)、毎時2万8800振動、約50時間パワーリザーブ。チタンケース(シースルーバック)&ブレスレット。直径40mm、厚さ1.7mm。非防水。世界限定20本。
―― 超薄型ラグジュアリーウオッチの代表格であるオクト フィニッシモは、デザインにおいても数々の革新をもたらしてきた。こちらも新作の「オクト フィニッシモ スケッチ 限定モデル」は、まさにアートピースと呼ぶに相応しい。
「ブルガリが誇る美しいタイムピースを生み出すスタートとなるスケッチは、ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニが毎回担当しています。今回はブルガリ創業140周年という記念すべき年ということもあり、特別なデザインとしてシースルーバックから見えるキャリバーを文字盤に描くことを思い付いたそうです。スケッチとは、アイデアを最初に投影したものであるため不完全なもの。芸術家たちが、弟子や生徒とイメージを共有するために描くもので、作品を再現するための拠り所ともいえます。その歴史は古く、最も古いスケッチとなるとイタリア・ルネッサンス期まで遡るのです。こうしたルーツやイタリア語の「Schizzo」が転じて「スケッチ」となったことからのインスピレーション、ローマ生まれのブルガリとの親和性もあり、この独創的な“身に纏うアート”が生まれました」
↑ブルガリ「オクト フィニッシモ スケッチ 限定モデル」 Ref.104163 250万8000円
ブルガリ140周年アニバーサリーコレクションのひとつ。ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏による緻密かつ芸術的なスケッチをそのまま文字盤に描いており、同色系のグレー針はスケルトン仕様で、インデックスをあえて省くなど、デザインへのこだわりが垣間見れる。
スペック:自動巻き(Cal.BVL138)、毎時2万1600振動、約60時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)&ブレスレット。直径40mm、厚さ6.4mm。100m防水。世界限定280本。
コラボレーションはブルガリに革新をもたらすもの
―― オクト フィニッシモシリーズからセルペンティまで、近年のブルガリの時計は実にユニークだ。とりわけコラボレーションモデルは、登場する度に人気を博している。尽きることのないそのアイデアはどこからやって来るのだろう?
「ブルガリは伝統的にコラボレーションを重視してきました。その理由のひとつが、それまでにない豊かな経験をもたらすことにあります。私の好きな日本の言葉に『open your mind』(心を開く)があります。先入観を持たず、新しいものを受け入れるという意味ですよね。そうした自由な体制のもとにパートナーに敬意を払って向き合うことで、インスピレーションが刺激され、我々のクリエーションのクオリティをさらに高めることに繋がるのです」
↑ブルガリ「セルペンティ トゥボガス 安藤忠雄 限定モデル」
左/Ref.104007 254万1000円 右/Ref.104003 644万6000円 上/Ref.104002 259万6000円 下/Ref.104004 167万2000円
ブルガリと安藤忠雄氏がタッグを組んだコラボレーションモデル第2弾。セルペンティ トゥボガスをベースに、春夏秋冬をテーマとする4型のエディションが揃えられており、グリーンアベンチュリンの夏(上)は6月、タイガーアイの秋(右)は8月、ホワイトマザーオブパールの冬(下)は10月、ピンクマザーオブパールの春(左)は来年3月の発売予定。
スペック:クォーツ。ケース&ブレスレットは各、上/ステンレススチール+18Kイエローゴールド、右/18Kピンクゴールドケース、下/ステンレススチールケース、左/ステンレススチール+18Kピンクゴールド。直径35mm。30m防水。
―― オクト フィニッシモを筆頭に、ブルガリのタイムピースは常にチャレンジングで、新たなデザインや機能が採用されてきた。これは140年というブルガリの長い歴史が可能にしている。
「コレクションのひとつ一つがブルガリのアイデンティティを表現しており、ブランドが掲げるデザイン的要素を満たしています。我々はそれらの力を熟知しているからこそ、多くのプロジェクトを同時的に進行できており、近い将来予定しているものには非常にエキサイティングなものもあります。ちなみに来年はブルガリ・ローマがデビュー50周年です。どうぞ期待していてください(笑)」
↑左/ブルガリ「オクト ローマ スティールDLC」 Ref.103927 125万4000円
右/ブルガリ「オクト ローマ クロノグラフスティール DLC」 Ref.103932 152万9000円
古代ローマの建築原理に触発された幾何学的なフォルムのコレクションに、黒にこだわった3針モデル&クロノグラフが登場。ステンレススチールケースにDLC加工を、クル・ド・パリモチーフの文字盤はラッカー仕上げで深いブラックを実現した。両モデルともにインターチェンジャブル式のアリゲーターストラップが付属。
スペック:自動巻き(3針/Cal.BVL191、クロノグラフ/Cal.BVL399)、毎時2万8800振動、約42時間パワーリザーブ。DLC加工ステンレススチールケース(シースルーバック)、ラバーストラップ。3針/直径41mm、クロノグラフ/直径42mm。100m防水。
問い合わせ先:ブルガリ ジャパン TEL.0120-030-142 https://www.bulgari.com/ja-jp/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。
Text/山口祐也(WATCHNAVI編集部) Photo/嶋田敦之