文字盤に描かれた滝に何を想う…千住 博氏×ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏対談
日本画家の千住博氏とブルガリが共同製作した「オクト」のスペシャルバージョンが6月より順次発売されます。この特別限定モデル製作の当事者である千住博氏とブルガリのウオッチデザイナー、ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏にインタビューすることができました。イタリアンデザインと日本画の融合は、果たしてどのように作り上げられたのか。製作秘話が明らかに!
ダイナミックに流れる滝の濃淡から緻密なしぶきまで表現
ボナマッサ氏:今回のコラボレーションは、私たちからのオファーで実現したものです。博の代表作である「滝」を、オクトのために描いてもらいました。現在制作中のコンプリケーションについては、文字盤に直接描いてもらっているんですよ。
千住氏:時計の文字盤に自分の作品を描くのは初めてだったので、非常に良い経験をさせてもらいました。もう米粒に文字を書くことだってできます(笑)。
いま描いている作品では絵具に、スイスのラスコーを使っています。直感的に「これだ」と思いましたね。「オクト フィニッシモ オートマティック」の方は、スイスの文字盤のメーカーに作品の転写を依頼しています。さすが時計の本場らしく、その再現性には驚かされましたね。
ボナマッサ氏:はっきり言って、これまで手がけてきた文字盤のなかで最も難易度が高いといえるでしょう。ダイナミックに流れる滝の濃淡から緻密なしぶきまで表現するために試行錯誤を繰り返しましたよ。
千住氏:「滝」を文字盤に転写する作業はプリントというより、版画といった方がニュアンスが近いですね。刷るたびに細かな違いが生まれる北斎の版画のような繊細さが、文字盤の「滝」にもあるんです。
流れ続ける「滝」と「時間」
千住氏:私が描く「滝」は風景画ではないので、特定のモチーフはありません。なので、今回のコラボレーションで描いた作品にあえて名前をつけるなら、「ブルガリの滝」と言えるでしょう。といっても、制作中はブルガリのことを考えたり、時計のことを考えたりはしませんでした。特定のイメージに寄ると作品がいびつな仕上がりになってしまう。だから、制作中は無心になるよう心がけているんです。
ボナマッサ氏:博の作品は非常にスケールが大きいのですが、それを腕時計で表現するというのが非常にユニークな試みだと思ったんです。しかも世界最薄記録を持つ「オクト フィニッシモ オートマティック」で。
たとえば料理でも、意外な組み合わせの食材がいざ調理してみると驚くほど美味しい、ということがありますよね。今回のコラボレーションは、まさにそのように仕上がっていて非常に嬉しく思っています。
千住氏:何年にもわたって彼とやりとりするなかで、大体100パターンぐらいは提案したんじゃないでしょうか。その中で一貫してキーワードになっていたのが「五感に訴えかける時計を作りたい」ということ。それを感じられるものが、最終的に文字盤に採用した作品になります。
私は地球が地球たり得るためには、3つの重要な要素があると考えています。それは「水」と「重力」と「温度」。これが一体になっているものこそ、まさに「滝」なのです。また、滝は一瞬たりとも同じ状態に留まることがありません。絶えず流れるのは時間も同じですよね。だから、私は滝と時計というのは、非常に相性の良いものだと考えていました。逆に、なぜそうしたテーマの時計がないのか不思議に思っていたぐらい。
今回の「オクト」は、身に着けて時間を読むだけでなく、文字盤に描かれた「滝」から水の流れや音、匂いなどまで想像を巡らして楽しんでもらえたらと思います。