フランス生まれのミリタリーデザインウオッチ【ベル&ロス】の魅力をF-15戦闘機元パイロット・前川さんに語ってもらった
フランス発の時計ブランド【ベル&ロス(BELL & ROSS)】は、独自のコンセプトとスイスメイドのクオリティが高く評価され、世界80ヵ国で展開されている。その大きな特徴がミリタリーに由来するデザインだが、元航空自衛官でF-15パイロットとして活躍した前川さんは、同時に理に適った設計であると主張する。実際にBR-03のユーザーでもある“空のスペシャリスト”へのインタビューを通し、ベル&ロスの魅力に迫る。
本格的な機械式時計とミリタリーの世界観を融合
まず、ベル&ロスの基本に触れておこう。1992年、カルロス・A・ロシロ氏とブルーノ・ベラミッシュ氏という時計好きの友人2人によってパリで興されたブランドで、現在もロシロ氏はCEOとして、ベラミッシュ氏はクリエイティブ・ディレクターとして同社を牽引している。彼らはミリタリーの中でもとくに航空機の世界からインスピレーションを得て、これまでに「BR-03」や「BR-05」といったヒットシリーズを生み出してきた。スイス製の本格機械式時計ながら、その革新的なデザインで支持を集めているのだ。
↑〈ベル&ロス 福岡 ブティック〉住所:福岡県福岡市中央区天神2-4-7 TEL:092-753-9993 営業時間:11:00~19:30 定休日:火曜
そんなベル&ロスは日本での人気の高まりもあり、専門ブティックを東京・銀座(2021年)、大阪・心斎橋(2022年)、そして急速に都市再開発を進める注目の福岡・天神(2023年)にオープンした。いずれのブティックもベル&ロスのファンから時計好き、これから初めて機械式時計を購入しようと検討中の人までが訪れる人気店となっている。今回は国内で最も新しいベル&ロス 福岡ブティックにて、航空自衛隊のF-15戦闘機元パイロットで、現在は『【空の架け橋】〜チャンネルHachi8』(https://www.youtube.com/@Sora_Ch-Hachi8)で活躍中の前川 宗さんに、ベル&ロスの評価や日本限定のニューモデルについて話をうかがう機会を得た。
↑1981年3月生まれ、愛知県出身。高校卒業後、航空自衛隊「航空学生」に入隊し、戦闘機パイロット資格を取得。航空自衛隊でF-15戦闘機パイロットとして約20年にわたって勤務し、2019年に退職。現在は複数の会社の役員や顧問を務める傍ら、講演、自身のYouTubeチャンネルなどに活躍の場を広げている。
ファッションツールとしても機能する稀有な高級時計
戦闘機に搭乗するパイロットの写真が掲げられたファサードが目印のベル&ロス 福岡 ブティックには、ブランドのイメージに合致するモノトーンのインテリアが揃えられている。このシンプルで純化された内装は、“形は機能に従う”というベル&ロスのコンセプトを体現したもので、コレクションをじっくり見極める環境が整っている印象だ。ちなみに同ブティックの立地は、ショッピングエリアとして進化を続ける天神の中心。ということで、周りにはブランドの専門店やセレクトショップ、カフェなど、トレンドが集まった場所柄で、若年層からも支持されるベル&ロスにとって理想的なエリアに出店が叶ったわけだ。
そのような立地条件もあり、ファッションに敏感な人たちも訪れるというベル&ロス 福岡ブティックでは、“九州”と縁のある日本限定モデルに関心が寄せられている。それが伝説的な飛行機の物語を題材に作られた「BR-03 クロノ エル・ルージュ」である。パイロットウオッチではめずらしい鮮やかなレッドを纏ったクロノグラフは、日仏共同による「赤い翼プロジェクト」を讃える一本。このプロジェクトは、1936年(昭和11年)にフランスの航空省が企画したパリ→東京100時間飛行に挑んだ同国出身の飛行士アンドレ・ジャピーが、悪天候に阻まれて佐賀と福岡の県境に位置する脊振山に墜落してしまったという逸話に始まる。そのジャピーは、九州の人々の助けもあって九死に一生を得て、日本人飛行士に乱気流を切り抜けるテクニックを指南するなどし、親交を深めたという。
↑フランス航空界のパイオニア、アンドレ・ジャピー(1904年-1974年)。時計製造を行なっていたジャピー家の出身で、1936年にパリ→東京100時間飛行で香港から東京へ向かう途中、佐賀県の脊振山で墜落事故を起こし、重傷を負った。1938年には国際航空連盟(FAI)から「ルイ・ブレリオ・メダル」を受賞。
そして今回、飛行家、冒険家、人格者でもあったジャピーの“挑戦”を完結させるために、当時の飛行機「コードロン・シムーン」と同型機を復元し、惜しくも彼が成し遂げられなかった東京までの飛行を行う計画「赤い翼プロジェクト」が有志らによって始動。これに“同郷”のベル&ロスが賛同し、サポートすることとなった。そこから生まれたのが、機体カラーにヒントを得て鮮烈なレッドに染めたBR-03 クロノのリミテッドエディションである。
“空のスペシャリスト”の視点から見たベル&ロス
BRコレクションの中でも風変わりな「BR-03 クロノ エル・ルージュ」について、前川さんが語ってくれた。
(前川さん)「強烈なほど、インパクトのある腕時計ですね! BRコレクション全般に言えますが、航空機の計器から設計されただけあって非常に読み取りやすい文字盤が特徴です。だからこそ、ホワイトやブラックといったベーシックなカラーが基本となっています。これは他のミリタリーウオッチにも共通しており、場合によってはステルス性を狙ったカラーリングもあります。腕時計だけではなく、戦闘機も軍用アイテムもグレーや迷彩柄といった環境に合わせたカラーが施されていることがほとんどです。それらに比べてアンドレ・ジャピーが操縦したコードロン・シムーンは、外装が真っ赤に塗装されていたそうです。要するに、“平和な空”だからこそ実現したカラーの飛行機とも言えるでしょう。そこから生まれたBR-03 クロノ エル・ルージュは、空が穏やかであることを証明する腕時計とも言えますね」
無論、パイロットウオッチとしての機能も備えている。
「現役の頃、戦闘機のコックピット内でも腕時計を着用していました。特別な腕時計の支給品はなかったため、隊員たちは各々のミッションに支障が出ない正確な腕時計を使用していましたね。操縦中は重力加速度(最大で体重の7.5~9倍のG)や強い太陽光にさらされ、空間識失調(機体の姿勢や飛行方向を把握できなくなる状態)を引き起こしてしまう可能性のある環境にあるため、時間を瞬時に把握できる文字盤デザインは必須条件となります。だからこそ、私も含めて多くのパイロットたちは直感的に読み取りやすい針式の腕時計を選んでいるわけです。BRコレクションを初めて見たとき、厳しい環境下でも助けになってくれると感じましたし、このBR-03 クロノ エル・ルージュはその基本に則りながらファッションのアクセントとなってくれる迫力がありますね」
腕時計に限らず、前川さんは様々なことに対して“直感”を大切にしているという。腕にするBR-03 ブラック マットも、“直感”からセレクトされた。
「コックピットに設置されている計器をヒントに開発されただけあり、着けるとコックピットを感じることができる腕時計です。感覚的に好きになったことと、抜群の視認性に魅力を感じます。“四角の中に丸”のアイデアは航空の世界では見慣れたデザインですが、これを腕時計で再現できたことで、ベル&ロスは高級時計の中でも特別な存在になったと思います。そしてユニークなことから時計好きの方に気づいてもらいやすく、会話のきっかけとしても役立ってくれます」
現在、腕時計には時間を表す以上の役割が求められている。それは個人個人で異なるが、前川さんは次のように考えている。
「ヒトとヒトの繋げるアイテムもどんどん進化し、その大半がデジタル化されてきました。一方で、アナログ的なものが再評価される傾向もあります。その理由として、非デジタルの懐かしさを感じられるアイテムの方が感情を投影しやすい点にあると思います。そして“時間”は生活の基準であり、“共有”しているものです。たとえば自衛官も家族と離れて生活するケースが多々あり、家族と自由に連絡を取れない場合もあります。そのような時でも“時間”を意識的に“共有”することで、繋がりを感じることができるのではないでしょうか。その大切な“時間”を教えてくれる腕時計には、アナログな腕時計が相応しいと僕は思います」
腕時計は、趣味やアイデンティティを主張するものとして、さらには“時間”を“共有”するためのアイテムとしても機能する。ベル&ロスは、いずれにも合致するブランドであるはずだ。
「近年は腕時計も多様化していて、選ぶ際に迷われる方も多いはずです。自分もその一人(笑) ですが、これまでの経験やライフスタイルと重なるベル&ロスと出会って、腕時計の楽しみが広がりました。先ほどもお話しした“四角の中に丸”のデザインはどんどん進化しており、ミリタリー色の強いBR-03からスタイリッシュなBR-05、そしてBR-03 クロノ エル・ルージュのような鮮やかでストーリー性の豊かなモデルまで、それぞれ異なるコンセプトのもとに開発されています。だからこそ個性があり、“時間”を“共有”する腕時計として相応しいと感じます。ベル&ロス ブティックならコレクションをフルに揃えていますし、ひとりでももちろん、パートナーと訪れればペアウオッチやシェアウオッチも提案してくれます。“時間”を“共有”できる腕時計、ぜひ皆さんも探してみてください」
平和な空で偉業に挑戦した歴史を物語る深紅のクロノグラフ
ベル&ロス「BR-03 クロノ エル・ルージュ」 Ref.BR0394-AR-ST/SCA 90万2000円
フランス出身の飛行士アンドレ・ジャピーによるパリ→東京100時間飛行の冒険を讃えるBR-03 クロノの限定仕様。彼の飛行機に由来する鮮やかなレッドの文字盤、3時位置スモールセコンドに描かれたイラスト、操縦シートに着想を得たパターンを施したストラップなど、随所の特別なデザインが光る。
スペック:自動巻き(BR-CAL.301)、毎時2万8800振動、約42時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース、カーフストラップ。縦横42mm。100m防水。日本限定99本。
前川さんもツールとして選んだベル&ロスのアイコニックピース
ベル&ロス「BR-03 ブラック マット」 Ref.BR03A-BL-CE/SRB 60万5000円
飛行機のインストゥルメントにインスパイアされた「四角の中に丸、4本のネジ」のスタイルを確立したアイコニックコレクション。2006年の誕生以来、2023年に初のリニューアルを実施して縦横42mmのサイズを41mmにダウンサイジングし、54時間パワーリザーブの新キャリバーへと搭載変更された。
スペック:自動巻き(BR-CAL.302)、毎時2万8800振動、54時間パワーリザーブ。セラミックケース、ラバーストラップ(交換用ヘビーデューティー仕様シンセティックファブリックストラップが付属)。縦横41mm、厚さ10.6mm。100m防水。
問い合わせ先:ベル&ロス 銀座ブティック TEL.03-6264-3989、ベル&ロス 心斎橋ブティック TEL.06-6786-8993、ベル&ロス 福岡ブティック TEL.092-753-9993 https://www.bellross.com/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。
Text/山口祐也(WATCHNAVI編集部)