2025年の新作はいい感じ?? アンジェラスとアーノルド&サンを仕切る重要人物に直撃!

2月中旬、WATCHNAVI編集部は日本市場を視察するために来日したアンジェラスとアーノルド&サンのマネージングディレクターの、パスカル・ベシュさんにインタビューする機会を得た。今回の取材では、4月1日からジュネーブで始まる世界最大の時計見本市、「WATCHES & WONDERS 2025」で発表する新作のヒントを教えてもらった。とくにアーノルド&サンは、創業者であるジョン・アーノルド260周年の偉業を祝うアニバーサリーを締めくくる重要な節目。果たしてどのような新作が出てくるのか!?

アンジェラスはクロノグラフとトゥールビヨンから新作が登場

パスカル・ベシュ(Pascal Béchu)さん。タグ・ホイヤーやモバードグループのスイスブランド、ハリー・ウィンストンの時計部門などでキャリアを重ね、2021年1月よりアーノルド&サンとアンジェラスのグローバルセールスのバイスプレジデントに就任。2024年5月よりマネージングディレクターに任命され、現在に至る

パスカル・ベシュさんは、25年以上にわたり時計業界のマーケティングやセールス部門で重役を歴任してきた大ベテラン。インタビューの最中も人の良さが滲み出る話し方の中に、時計への情熱が伝わる人物だった。最初に話してくれたのはアンジェラスについて。「これは昨年に発表したモデルですが」と言いながら目の前に出した時計は、「インストゥルメント・ドゥ・ヴィテッセ」の新色。インディアナポリス・ブルーとシルバーストーン・グレーという文字盤のカラーからも、これがレーシングウオッチにインスピレーションを得たモデルだとわかる。

アンジェラス「インストゥルメント・ドゥ・ヴィテッセ」右/(シルバーストーン・グレイ)Ref.0CHBS.G01A.V010S 左/(インディアナポリス・ブルー)Ref.0CHBS.U01A.V010S 各352万円 手巻き(キャリバーA5000)、毎時2万1600振動、42時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)。直径39mm、厚さ9.27mm。カーフヌバックストラップ。各色世界限定25本

「リューズと同軸にプッシュボタンがあり、このボタンだけでクロノグラフの操作を行います。計測できるのは1分のみ。ダイアルの外周のタキメーターにより、1分以内の計測で時速が算出できます。この時計は、私たちの重要なコレクションの柱であるラ・ファブリック・シリーズの新作で、それぞれ限定25本となります」

アンジェラスには、「クロノデート」「トゥールビヨン」「ラ・ファブリック」の3つの柱がある。パスカルさんの言うとおり、「インストゥルメント・ドゥ・ヴィテッセ」は、1891年から続くアンジェラスの歴史における古典的作品を復刻し、再解釈したシリーズに属する。

「このクロノグラフが搭載するキャリバーA5000は、1990年代にカルティエやフランク ミュラー、ユリス・ナルダン、ドゥ べトゥーンなどといった高級時計ブランドが採用していたTHA社製の手巻きムーブメントがベースになっています。このTHA社は、ヴィアネイ・ハルター、F.P. ジュルヌ、ドゥニ・フラジョレの3者が共同で設立したムーブメントメーカーで、現在はラ・ジュー・ペレ社がAキャリバーA5000製造の権利を手に入れたため現在は同社のものとなっています」

ラ・ジュー・ペレにて製造が続く手巻きクロノグラフキャリバーA5000

ご存知のない読者に説明をしておくと、現在、アンジェラスとアーノルド&サン、そして高級ムーブメントメーカーのラ・ジュー・ペレの3社は、シチズングループに属している。とはいえ、グループシナジーはあるものの各ブランドは独立性が保たれており、それぞれに自社の歴史を重んじる姿勢を貫いている。

「WATCHES & WONDERSの会場では、ブランドを支える3つの柱のうちトゥールビヨンから新作を展示します。と言いつつ、実は間もなく発表するので、ぜひ日本の皆さんにご紹介したく今回の来日に合わせて持ってきてしまいました(笑)。

フルスケルトンのフライング・トゥールビヨンです。搭載するキャリバーA-310は、ブルーPVDを施したブリッジ越しにあらゆるパーツの動きを楽しんでいただけます。トゥールビヨンですが、毎時2万8800振動のハイビートでスモールセコンドのサブダイアルを持っている点でも珍しいと思いませんか? このキャリバーをカーボンコンポジットのコンテナで保護し、それをさらに複数のチタンパーツを結合させたパーツでカバーしています。チタン製のブレスレットは簡単に取り外しでき、付属のブルーラバーストラップと簡単に付け替えられます。ラバーストラップについているDバックルも取り外せるので、ストラップと一緒に買い増す必要はありません」

アンジェラス「フライング トゥールビヨン チタニウム ブルー」Ref.0TSZF.U01A.M009T 896万5000円 手巻き(キャリバーA-310)、毎時2万8800振動、90時間パワーリザーブ。チタンケース(シースルーバック)&ブレスレット。直径42.5mm、厚さ11.45mm。30m防水。世界限定25本。ラバーとアリゲーターストラップ付属

ジョン・アーノルド260周年の偉業を祝うアーノルド&サンからはサプライズがありそう!

創業260周年のアニバーサリー関連の話題を昨年から提供し続けてきたアーノルド&サンの方でも、パスカルさんは新作を持参してきたのだが、こちらは残念ながら情報解禁前につき、このタイミングでは掲載不可。だが、それでは引き下がれないため、どのような新作になるかをパスカルさんの説明から予測していただきたい。

「この時計は、ジョン・アーノルドの偉業の260周年の歴史を物語るのに相応しいモデルとなっています。創業者のジョン・アーノルドは、イギリスの時計職人でした。彼が仕事をしていた当時のヨーロッパは大航海時代。海の上で船の位置を割り出すことは極めて重要なことでした。ただ、太陽や北極星の高さを測ることで緯度を知ることはできても、経度を知る術がなかったのです。そのような状況では深刻な海難事故が発生してしまいます。
それを防ぐ目的で、1714年にイギリス議会は海上で経度を知ることのできる有効な手段を見つけたものに賞金を与える「経度法」を交付しました。賞金を手にしたのはイギリス人のジョン・ハリソンでしたが、それをより使いやすいサイズにし、今もよく知られたマリンクロノメーターの形にしたのがジョン・アーノルドなのです。
彼はまたジョージ3世のためにリピーターウオッチを製作するなど、確かな技術力が宮廷にも認められた時計師でもありました。そして、1864年に“時計の歴史を200年早めた”とも称されるフランスの時計師アブラアム=ルイ・ブレゲとも親交が深く、ブレゲはアーノルドから贈られたポケット・クロノメーター N°11に、アーノルドの死後、ブレゲ初のトゥールビヨンを搭載してジョン・アーノルドの息子であるロジャーに贈りました。その時計は、いまも大英博物館に収蔵されています。時計産業はスイスが盛んですが、世界最初のトゥールビヨンがイギリスにある、という事実が時計の発展の歴史を物語っているとは思いませんか?」

ということで、おおよその新作の検討はついただろうか? ちなみに筆者は予算があるなら是が非でも手に入れたいと思った次第である。さて、パスカルさんはこの新作のほかにも昨年に発表して話題を呼んだモデルを見せてくれた。

「先ほどのお話にも出てきた『経度』を意味するモデル名を冠したロンジチュード チタンは昨年の発表からとても好評をいただいています。ダイアルデザインは、かつてジョン・アーノルドが手がけたマリンクロノメーターのデザインに着想を得ています。ケースやブレスレットは人間工学に基づいて装着感を追求しながら、モダンなカジュアルシックなテイストに設計しています。もちろんスイス公式クロノメーター検定機関COSCの認定を受けたキャリバーA&S6302を搭載し、時計のコンセプトに相応しい高精度を有しています。このキングサンドゴールドのカラーは限定88本ですが、オーシャンブルーとファーングリーンは限定製造ではないので、もし店頭で目にする機会があればぜひ試着していただきたい一本です」

アーノルド&サン「ロンジチュード チタン」Ref.1LTAT.J01A.N001U 451万円 自動巻き(キャリバーA&S6302)、毎時2万8800振動、60時間パワーリザーブ。チタンケース(シースルーバック)&ブレスレット。直径42.5mm、厚さ12.25mm。10気圧防水。世界限定88本。ラバーストラップ付属

取材後記

スイスのプロサー社傘下のアーノルド&サン、アンジェラス、ラ・ジュー・ペレ(旧ジャケ)がシチズングループに入ったのは2012年のこと。そこからブランドの再編も徐々に進み、アーノルド&サンとアンジェラスは少量生産の高級ブランドへと移行。時計を知る人ほど舌を巻くモデルを毎年発表してきた。少量生産ゆえ広く全国の時計店で見られるというわけではないが、それも含めて常に刺激を求める熱心な時計愛好家からの支持を集める理由となっている。

今回の取材の前、パスカルさんはとある時計店の顧客に筆者が見たものと同じ新作を説明してきたそうだが、かなり良好な反響が得られたという。もちろん、4月1日からのWATCHES & WONDERSでは、今回パスカルさんが持ってきた時計とは異なる新作も披露されることだろう。とはいえやはり個人的にはアーノルド&サンのサプライズウオッチが明かされたときの愛好家の反響が気になるところ。筆者の目に狂いがなければ、あの時計は2025年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリの賞を獲得する可能性は大いにあるので、ぜひ注目していただきたい。

Text/Daisuke Suito (WATCHNAVI) Photo/Katsunori Kishida

問い合わせ先:アーノルド&サン相談室 TEL.0570-03-1764 https://www.arnoldandson.com/ja