MY TIME〜私の時間術〜 Vol.9 “小さい主語”で届けるために、 現場取材を欠かすことはできないー堀 潤(ジャーナリスト/NPO法人8bitNews代表)
時間は誰にでも平等。だからこそ1日24時間、その限られた時間をどう使うかが「人生を楽しむ」ための鍵となります。様々な業界で活躍する人物から「時間術」を聞く本連載。第9回はジャーナリストであり、NPO法人8bitNews代表を務める堀 潤さんにお話を聞きました。
撮影/高橋敬大 文/赤坂匡介
ニュースキャスターの仕事は「小さい主語を探す」こと
――堀さんは現在、朝の報道番組でMCを担当しています。毎日何時頃に起床しているのですか?
「大体、朝の5時頃ですね。そこから深夜の1時くらいまでが僕の稼働時間です。とはいえ、1日4時間の睡眠では身体が持ちませんから、移動時間に仮眠を取るようにしています。乗ったと思ったら、次の瞬間には寝ていますね(笑)。今はそれが、月曜から日曜まで続いているような状態なので、とにかく時間が足りません」
――その中で、いつジャーナリストとして取材活動をしているのですか?
「それでも時間をこじ開けて、現場に行きます。やはりメディアで発信する立場として、「◯◯らしいですよ」とか、「◯◯みたいですよ」とは言いたくないんです。それは僕にとって責任を放棄することと同じです。だから熊本で地震が起きたときも、発生から半年間は毎週、現場へ通い取材していました。今でも毎月通って取材を続けています。また、事件などがあれば韓国や台湾の日帰り取材もしばしば。先日は3日間番組を休んでパレスチナで紛争地域を取材しました」
――無理をしてまで、現場取材にこだわる理由は何ですか?
「僕は自分の仕事を『小さい主語を探す仕事』だと思っているんです。“日本は”とか、“若者は”とか、大きい主語は使いやすいですし、何となく何かを言ったよう気にもなるのですが、それが全てではありません。たとえば震災が発生した際も、人によって状況は異なります。だからこそ、“◯◯県◯◯町で商店を営んでいた◯◯さんは、現在こうなんです”という事実を伝えることが重要なんです。そういう愚直な積み重ねが大切だと僕は信じていますし、それが今、メディアに求められているものだと思っています」
――現在もそうですが、NHK時代から取材熱心な印象です。辞めてから変わったことはありますか?
「忙しさは当時と同じくらいですが、NHK時代よりも現在の方が疲労感は少ないです。NHKにいたときは、自分が発信できる長さは決まっていました。ニュースリポートなら長くても3分半。日々のニュースで届けられるのは極わずか。4時間分撮影テープを回しても、放送に使うのは3分、なんてことが当たり前の日常でした。しかし、残りの3時間57分の中には、「堀さんを信じて話します」と言って取材に応じてくれた人もいたんです。つまり、放送しないということは、その人たちの思いを裏切ることでもありました。それがいつも申し訳なかった。それは僕だけでなく、ディレクターやカメラマンも同じ気持ちだったと思います。しかし今なら、その4時間をフル活用して、ネット上で動画を公開することもできますし、記事にすることもできます。発信への自由度が高まったことで、心が軽くなり、おのずと疲労感も軽減しました」
――そうしてアーカイブされていく、様々なニュース動画は、誰のために残しているのですか?
「独立してからは、取材も経費ではなく自腹ですから、現場へ行くことの意味をさらに考えるようになりました。たどり着いたのは、『未来の人たちのために残す』ということです。10年後、振り返ったときに何もないことのないように、僕が残しておこう。それが未来の役に立つことを願って」
腕時計は共に時を刻む相棒のような存在
――日々お忙しい堀さんが、腕時計に求めるものは何ですか?
「遅れない、止まらないということですね。僕は毎日、時計の針を見ているんです。スタジオに行くと、常に秒針が動いていますから。時計という物は、常に未来なんです。次の1分とか次の1時間とか、それがあるからがんばれる。もしその時計が止まってしまったら、自分まで見失いそうで怖いですね。だから腕時計は、一緒に時を刻み続ける相棒というか。『お前も未来を刻むためにがんばっているから、オレもがんばるか』。そんな風に思える存在です。それに、歩みと共に、傷なり、くすみが刻まれていくのも、自分の過去まで一緒に刻まれていくようで好きですね」
堀 潤(ほりじゅん)
ジャーナリスト/NPO法人8bitNews代表
1977年生まれ。NHKアナウンサーを経て、2013年に独立。現在は「8bitNews」主宰、フリーキャスター・ジャーナリストとして活躍中