開発陣が明かす新型G-SHOCK「MT-G」に初採用されたデュアルコアガード構造の革新性
G-SHOCKの上位機種「MT-G」の最新作が11月より発売される。それに先駆けて、編集部では本作の開発陣にインタビューする機会を得た。今季の注力商品となっている本機については、9月24日にプレス向けウェビナー形式で発表されたものの、筆者が実物に触れるのは今回の取材が初めてだ。果たして、いまも好評を博しているという2018年発表のMTG-B1000からどのように進化したのか。詳細を聞いた。
素材と構造の進化から生まれた洗練のG-SHOCK
––MT-Gは2013年のMTG-S1000発表からよりメタルの上質な仕上げを強調したデザインに生まれ変わり、ハイブリッドGPSソーラーのMTG-G1000(2015年)、ダウンサイジングしたBluetooth対応のMTG-B1000(2018年)と歴史を重ねてきました。店頭で聞くと既存機種はいまも人気のようですが、いまさらにMT-Gを進化させる必要があったのでしょうか?
牛山:G-SHOCKは絶えず進化を続けることがアイデンティティですから、私たちはつねに新たな可能性について研究しています。今回のMTG-B2000の開発に関していえば、昨年に別モデルで発表している「カーボンコアガード」構造が深く関わっています。この技術を使ってMT-Gならどんなことができるのか。最新作となるMTG-B2000が、その答えです。
–今回の新構造でG-SHOCK特有の耐衝撃性能を確立するために苦労したことを教えてください。
牛山:MTG-B2000は、これまでMT-Gに使っていたメタルコアガード構造自体の進化に、カーボンコアガード構造を融合させた「デュアルコアガード構造」となっています。外観に占めるメタルの割合が増えているので、よりMT-Gらしい上質さを感じていただけると思います。この形状にたどり着くまでに苦労していたのが、デザインと設計でした。
松田:進化したMT-Gの姿として、はじめにカーボンとメタルの2重構造を考えてデザインをスタートしました。まず内側に入るカーボンファイバー強化樹脂のモノコックケースを複数のメタルパーツが支えるようなデザインを構想してみたのですが、そんなすぐにはまとまらなくて……。メタル製アウターフレームについては、本当に試行錯誤しましたね。
中塚:理想は、従来機種よりもメタルのバリュー感をアップさせること。とはいえ、比重の大きい素材の使用率を増やせば、当然、落下衝撃で受ける時計本体のダメージも増しますよね。G-SHOCKの基準を満たすスペックが得られるバランスの見極めには、かなり時間がかかりました。
松田:これほど難しい問題になったのは、サイズに制約を設けていたから。ダウンサイジングした現行機種のMTG-B1000が現代のスタンダードサイズだと考え、新作も同様のサイズ感を継承することにこだわったんです。
1983年の初号機以来G-SHOCKは「すべての形状に意味がある」
––カタログにも掲載されている構造の展開図(本稿上から3枚目の写真)を見るとかなりシンプルに見えますが、その裏には多くの苦労があったんですね。
牛山:MT-G独自のメタルコアガード構造の進化は、4本の柱で強化樹脂のインナーケースを守る構造から始まり、バンドを取り付ける上下のラグと一体化した壁型を経て、最新作で360度をメタルで囲むカーゴ型に行き着きました。さらにカーボンコアガード構造のおかげでボタンガードを設ける必要がなくなり、これまでにない形状の進化を果たしています。
松田:そのボタンを置くために空けたメタルケースの大きな穴が強度面でネックになったんですけどね(苦笑)。結局、限られたスペースで大きな穴を開けるとベゼル側と裏ブタ側にどうしても薄肉の部分ができてしまう。それでどうしたかというと、答えは裏側にあります。実物を見た人に「裏側もかっこいいね」なんて言われたりもしますが、実際は強度を持たせるための苦肉の策から派生したデザインなんですよ。多角形ベゼルと韻を踏んで12面をとっているのは後付けで、本来の目的はボタン部分のメタルに厚みを持たせて強度を高めるために必要なことだったんです。
中塚:サイズに制約があるため、外装のすべてがG-SHOCKの性能基準を満たしながらもギリギリまでコンパクトで、さらに軽くなるような設計になっています。搭載しているモジュールが現行機種に比べて直径が2mm大きい最新世代だったことも、設計の条件をシビアにした要因でした。
牛山:モジュールに関してご説明すると、MTG-B2000はフルアナログ表示のフロッグマンやオシアナスのカシャロといった高額機ですでに使われているものと同じモジュールを搭載しています。最大の特徴はそれぞれの針が独立して高速運針するデュアルコイルモーターを3つ備えていること。これにより、ホームタイムとローカルタイムの表示切り替えも迅速に行えるんです。また、これまではスマートフォンとの連携が1日4回定期的に自動接続する方式でしたが、このモジュールではスマートフォンが近くにあれば自動で時刻を修正するシステムとなっています。スマートフォンの時刻が渡航先の現地時間になったタイミングで時計の時刻も自動修正されるわけですから、海外渡航の際にはかなり便利だと思います。ただ、いまのご時世ではちょっと活用しにくいですけどね。
12角形ベゼルを採用した経緯と必然性
––……そろそろ新作の特徴となっている多角形ベゼルの話を聞いてもいいですか?
牛山:語りたいところが多すぎて(笑)。
松田:ベゼルの形状については、最初はラウンド型もトライしたのですが、裏面のカーボンの張りのある形と対比してメタルのシャープなイメージをデザインに落とし込んだ結果、12角形にたどり着きました。時計好きの方によく8角形と間違えられますけど、MTG-B2000のベゼルは12角形ですからね(笑)。
中塚:デュアルコアガード構造を成立させるためにベゼルは重要なパーツになっています。というのも、このモデルには裏ブタがないので、文字盤側からのアクセスで組み立てを成立させる必要があります。メタル製アウターケースの文字盤側からモジュールの入ったモノコックケースを収め、これらすべてをカバーするのがサファイアガラスを嵌め込んだベゼルとなるわけです。
ベゼルの対角線上にある4つのビスはアウターケースのみと連結しますが、同時に上から押さえ込む形でモノコックケースも固定しているんです。この3ピース構造は、アウターケースが受けた衝撃を各部に分散させてモジュールへのダメージを低減させる「ダブル受け構造」になっています。ちなみにボタンの取り付けなどを含めた、一連のケース組み立ては山形カシオの技術者がほとんど手作業で行います。
松田:私たちがヒーローモデルと呼んでいるタイプでは新色となるボルドーIPをベゼルに施し、これまでとは違った印象に仕上げています。実は、このようにベゼルだけ色を分けたりするのはベゼルとガードやビスの台座が一体型になっていた従来機では難しかったので、MTG-B2000では色々なことができるようになりました。
牛山:すでにG-SHOCKはCMF(編集部注/色:Color、素材:Material、仕上げ:Finishing)デザインに力を入れており、MT-Gでも多層カーボンやレインボーIPなどを展開してはいますが、これからさらにその幅を広げられるようになります。
–先日のウェビナーでも説明がありましたが、MTG-B2000はバンドにも進化のポイントがありましたよね。
中塚:メタルバンドにMIM(編集部注:金属粉末射出成形法Metal Injection Moldingの略)を使い、軽量化を図っています。MIM自体は10年以上前からある技術でしたが、金属から結着剤を除く過程でスができてしまっていたんです。最新技術では品質が高まり、MT-Gで採用することができました。これまで高密度の金属塊だったメタルパーツが中空化できたことで、現行機種から約15%も軽量化を実現。ちなみにこのレイヤーコンポジットバンドの組み立ても手作業と、手の込んだ作りになっています。
牛山:さらにバンドの着脱を簡単にするスライドレバー構造をMT-Gに初採用するのみならず、これを初めてダブルにしました。ただ、G-SHOCKのタフスペックを持たせるために太めのレバーで硬めの操作感に設定しているので、交換バンドをお求めいただいた際の付属品として専用のピンセットもご用意しました。指先でも着脱できなくはないのですが爪を痛める恐れがありますので、ぜひピンセットをお使いください。
–実際に触れることができなかったので、ウェビナーでダブルスライドレバーの話題になったときに耐衝撃、耐振動、耐遠心重力の「トリプルGレジスト」は大丈夫なのかな、と思った記憶があります。
松田:モノコックケースの裏側に記載はしているんですけど、CARBON MONOCOQUEのロゴを優先させたらトリプルGレジストのロゴまで入れる余地がなくなってしまい……。Bluetooth対応機器には色々と記載しなければならないことも多く、ご心配をおかけしました。
牛山:ちゃんとMTG-B2000も、「トリプルGレジスト」です。G-SHOCKに後退はあり得ませんから、ご安心を(笑)。
正直、筆者は話を聞くまでは好調なモデルがあるなかでの進化に懐疑的だったが、開発陣からすれば新しい技術や素材、構造がある限り挑戦をし続けるその姿勢こそがG-SHOCKということなのだろう。実際に完成したMTG-B2000は、10万円を超える上位機種としての正統進化を果たし、ヒット作と同等以上に快適な装着感さえ実現した。特徴的な多角形ベゼルは、角型からはじまったG-SHOCKの本来の姿。よりエッジを立たせた2005年のGW-056や近年の2019年のGA-2100などの前例もあり、すぐに馴染むことだろう。それより気になるのは、やはりMTG-B2000のCMF展開。これから本機でどのような挑戦が始まるのか。開発陣の次なる一手は、きっとまた私たちG-SHOCKファンにサプライズを提供してくれるに違いない。
問い合わせ先:カシオ計算機 お客様相談室 TEL.03-5334-4869
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