8月末より約1週間にわたり高級時計製造の中心地であるスイス・ジュネーブにて、複数のブランドが合同で新作発表を行う「GENEVA WATCH DAYS」が行われた。参加ブランドは、ブライトリングやジラール・ペルゴ、ユリス・ナルダン、H. モーザーらが中心となり、これに関連ブランドとしてオリスやフレデリック・コンスタント、モーリス・ラクロア、パルミジャーニ・フルリエなどのブランドが続く。昨年に立ち上がった本イベントの旗振り役はブルガリ。2年目を迎えたGENEVA WATCH DAYSで発表した新作とともに、イベントの反響についてブルガリ・グループ ウォッチ部門ディレクターのアントワーヌ・パン(Antoine Pin)氏にオンライン取材を行った。
Text/Daisuke Suito(WN)
「GWDは非常にポジティブな効果が出ているフェスティバル」
–ジュネーブ ウォッチ デイズは、ブルガリ社CEOのジャン-クリストフ・ババン氏が昨春に受けたTVインタビュー中に構想が明かされましたね。コロナ禍で新作発表の場を失った複数の時計ブランドと手を取り合って行われたイベントは、記事のネタに飢えていた私たちメディアにとっても重要なトピックになりました。昨年に続いて今年も実施されましたが、来年以降も継続していく予定はありますか?
(A.P.)いままで時計の新作発表の場は、年に1度大規模なイベントを行うだけでした。でも、その慣習は世界的な緊急事態という外的な要因も加わり急速に変化しましたよね。もはや規模の大小を問わず誰もが必要なタイミングで必要な情報を広く発信できますし、年間を通して適切なタイミングに分けて新作を発表するスタイルが主流になるでしょう。
一方で、このジュネーブ ウォッチ デイズのような、複数のブランドが足並みを揃えてフィジカルでの新作発表を行う場も継続していく意義があると考えています。今年のジュネーブ ウォッチ デイズの会場にはおよそ350のリテーラーと300名のメディア関係者が実際に足を運んでくださり、さらに一般の方にも多く来場いただきました。ジュネーブ市街にある参加ブランドのブティックも会場になるなど、今後も続けていくことで、ただの新作発表のフェアではなく、ジュネーブ市街地を使った時計の「フェスティバル」として定着していくでしょう。
アクティブルックのモダンなワールドタイマー
–今春の新作では世界最薄パーペチュアルカレンダーなどを発表されていますが。今年のジュネーブ ウォッチ デイズの新作を教えてください。
(A.P.)まず最初に、オクト ローマ ワールドタイマーがあります。この時計の持つ58面からなるモダンなスタイルに相応しい、現代的なファンクションを取り入れたタイムピースとなります。サンレイフィニッシュの文字盤の緻密さと豊かな表情とともに、その外周にある世界各地の時差を表すための都市名にもご注目を。こちらの表記は従来とは異なり、社内の若手に「行きたい都市」をヒアリングし、それを反映したものとなっています。
–海外旅行が難しい時代にワールドタイムウオッチを出すことに抵抗はありませんでしたか?
(A.P.)この時期を狙って作ったわけではなく、コロナ禍に入るより前の2年半前から用意をしてきました。結果的に難しい時代での発表とはなりましたが、私たちは物事を悲観的に捉えるブランドではありません。いま世界を包んでいる霧が晴れれば必ず求められる時計ですので、なにも心配することはありませんでした。時計に記された都市の名前を眺めながら、想像の翼で自由な世界旅行を楽しんでください。
ため息の漏れるハイジュエリー×オートオルロジュリー
–レディスウオッチには複雑機構を搭載したハイジュエリーウオッチがありますね。これは機械式時計に対する需要の高まりを受けての判断でしょうか?
(A.P.)女性が特別な機械式時計、オートオルロジュリーに高い関心を持っているかということであれば、答えはYESです。私たちは、現在の市場で最小のトゥールビヨンウオッチを女性に向けて過去2回、限定で製造しましたがいずれも完売しました。同じくミニッツリピーターも完売しています。マーケットの調査を受けて新しい時計を開発するばかりではないのですが、必要とされる方がいれば製造を続けるのも大切な役割だと考えています。それが最新作をレギュラーモデル化した理由でもありますね。
神秘的に時を示すブルガリ流センタートゥールビヨン
–複雑時計で言うとメンズからはオクト ローマ セントラル トゥールビヨン パピヨンが出ています。この時計、2015年にダニエル・ロートで出していたモデルと同じキャリバーを積んでいますか?
(A.P.)オクト ローマのケース形状に合わせたプレートになったり、パワーリザーブ表示を背面にしたりといったマイナーチェンジはありますが、基本設計は共通です。センターにフライングトゥールビヨンを持った時計はそれだけで希少ですし、独創的なパピヨンの表示と合わせて非常にアイコニックだと思いませんか? 個人的にもとても好きなコンプリケーションウオッチですし、今後もブランドを象徴するコンプリケーションとして継続的に製造していくことになりました。
ミッキーマウスが描かれたコレクターズウオッチが復活
–そして、話題性という点ではジェラルド・ジェンタのミッキーウオッチを聞かずには終われません。150本のみの製造でEコマース限定ということが発表されていますが、あっという間に完売しそうですね。
(A.P.)世界中で愛されているミッキーマウスは、ジェラルド ジェンタにとっても重要なキャラクターです。とくにレトログラード分針を腕に見立てたオートマタウオッチは有名で、多くのバリエーションがあります。今回発表した久しぶりの新作は、ミッキーの腕が210度の角度で運針を行い60分になると同時にすぐ00へ戻り、小窓のデジタル表示も1時間進むという「レトログラード・ジャンピングアワー」ウオッチとなっています。150本の限定本数が必要なエリアに適切に配分できるよう、このモデルについては流通を本社管理にするためEコマース限定としました。また、世界中に広がるジェラルド ジェンタのファンのコミュニティのために新しいウェブサイトの開設も進めています。これについては私自身が、担当者に「いつ頃できそう?」とつい毎日聞いてしまうほど楽しみにしています。実際には11月ぐらいにオープンできる予定ですので、もう少しだけお待ちください。
ブルガリがかざした希望の灯
今回のインタビューを通じ、ブルガリがいかにこの長いトンネルをポジティブな姿勢で進み、その出口の後の未来まで考えているかが伝わってきた。さらに自社のことだけでなく周囲を鼓舞し、時計界の活性化にさえ貢献している。姿を見るだけで明るい気分にしてくれるミッキーウオッチは、暗くなりがちな世の中にあっていままさに発表すべきタイムピースだったのかもしれない。リアルも、ファンタジーも、ラグジュアリーも、あらゆる世界のそれぞれに新たな時代が到来する日が待ち遠しくて仕方がない。
問い合わせ先:ブルガリジャパン Tel.03-6362-0100
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