開発陣が集大成と位置付けたカシオ オシアナス「24面カットサファイアクリスタルベゼル」開発秘話

カシオが手がける高価格帯ウオッチブランド「オシアナス」から、興味深い新作が発表された。最大の特徴は、サファイアクリスタルを塊から削り出したカットベゼルの採用。近年のカシオが注力してきたカラー、マテリアル、フィニッシュのCMF展開の中でもサファイア加工ではひとつの集大成に到達したとデザイナーも太鼓判をおす一本の開発秘話を聞いてきた。

Text/Daisuke Suito(WATCHNAVI) Photo/Katsunori Kishida

商品企画からは出なかった発想をデザイナーが2年半かけて実現した傑作ベゼル

オンライン取材に応じていただいた3名。左からデザイン開発統轄部の藤原 陽さん、開発推進統轄部の佐藤貴康さん、デザイン開発統轄部の鈴木貴文さん。※鈴木さんは後日公開のスクエアオシアナスの記事にて登場します。(写真提供:カシオ広報部)

–オシアナスの最新作OCW-S6000は、「オシアナスの集大成」だと聞きました。そう言い切った背景を教えてください。

藤原さん:まず、オシアナスの集大成ではありません(笑)。これは、オシアナスが長年にわたり力を入れてきたサファイアCMFの集大成です。ウオッチナビさんならご存知と思いますが、オシアナスは2015年のOCW-G1100からサファイアベゼルを特定のモデルに使い続けてきました。ですが、それらはメタルのフレームにサファイアのリングをはめ込んだ状態で、正しくはサファイアインサートベゼルというべきものです。今回のモデルは、完全な削り出しのサファイア塊のベゼルという点で大きく異なります。

佐藤さん:この発想は商品企画からは絶対でてこなかったと思います。藤原から話しが来たときも「ベゼルが全部サファイアになったからって、何が変わるの?」と思ったぐらい(笑)。でも、彼が提携企業と進めていたサファイアベゼルの途中経過を見せてもらったら、すぐに商品化に向けて動き出しました。

藤原さん:サファイアだけでベゼルが作れたら、光が乱反射してすごく綺麗に時計が見えるだろうなと思ったんです。それこそ歴代モデルの付き合いでサファイアガラスを作ってくれる企業との信頼関係は築けていたし、20回は工場見学をさせてもらっていて実現可能性が高いこともわかっていた。だから、「一度こんなのを作ってもらえないか」と、先方に持ちかけたんです。

佐藤さん:実際はそんな軽い言い方ではなく、かなり無理を聞いてもらっていたよね?

藤原さん:まぁ、高い壁を共に乗り越えて技術を高め合ってきた仲ですから(笑)。

美しさと耐久性を兼ね備える計算された24面カット

–ベゼルは腕時計の中でも一番ダメージを受けやすいパーツです。耐傷性に優れているとはいえ、使う側としてはサファイアの割れ欠けの問題が気になります。

藤原さん:まさにそこが苦労したポイントです。このベゼルの24面カットは、煌めきだけでなく耐久性能まで考慮したうえでカットする角度を決めていて、割れ欠けに強くなっています。G-SHOCKほどではないにせよ、日常生活における過酷な状況を想定した試験に耐えるだけの性能はあるので、安心してお使いいただけますよ。

佐藤さん:この24面カットは、OCW-S6000がオシアナスのレギュラー品としては最高額となった理由でもあります。正直、製造にかなり技術者の手がかかっているんですよね。まず側面を12面にカットして、そのエッジに完全に合うよう斜めに再び12面のカットを入れていくんです。都市名をレーザー刻印していく工程でも、サファイアが割れる恐れがあるため作業にかなり気を使います。

藤原さん:「紺碧の海」を表現したかったので、これまで培ってきた蒸着方法やスパッタリングなどの着色技法を組み合わせた新しい方法をベゼルの着色に取り入れ、12時から6時にかけて色が濃く、深くなるグラデーションとしました。この技術は特許申請中のため、まだ企業秘密とさせてください。ともあれ、サファイアガラスは耐傷性に優れた機能素材ですので、この輝く青いベゼルの美しさを長く保つことができます。

サファイアベゼルの試作品の一部。「紺碧の海」の世界を表現するために色調やグラデーションのバランスを繰り返し調整。特許申請中の技術もこの過程で考案された(写真提供:カシオ広報部)

スリムエレガンスな「オシアナス マンタ」史上最薄の秘密

–確かにサファイアベゼルにおけるカラー、マテリアル、フィニッシュ(=CMF)の3つの技術の集大成ですね。これだけでも魅力的ですが、OCW-S6000はオシアナス マンタ史上最薄というサイズも特徴ですよね。

佐藤さん:サイズについてですが、実は搭載しているモジュールは既存品のOCW-S5000と変わりません。ではどうして薄くなったかというと……

藤原さん:サファイア風防の形状をドーム形からフラット型に変えたんですよ。

–えぇ! 以前、OCW-S5000を取材したときは、ドームガラスの柔らかさがオシアナスのアイデンティティという話しを聞きましたよ!?

藤原さん:その通りです。が、OCW-S6000はサファイアの素材特性を最大限に活かすデザインにしたかったんです。数百万、数千万という舶来の高額時計に見られるフルサファイアの腕時計は、メタルの代替素材のようにデザインしているに過ぎないと思いませんか。そういうアプローチではなく、私はサファイアガラスが持つシャープな印象をそのままプロダクトデザインに落とし込みたかったんです。

佐藤さん:ディテールが風防とベゼルの間にわずかに見えるメタルのリングにも藤原のこだわりを見ていただけます。このわずかな幅の円に対してブルーIPを施すなんて、こんな手のかかること普通はしないんですよ。でも、ここをシルバーのまま進めていたら、きっと「紺碧の海」の世界には辿り着けなかったでしょう。

藤原さん:ベゼルから風防までの面と色の統一は譲れませんでしたね。さらに、この時計の8.7mmの厚さのうちベゼルが3.1mmを占めるという見た目の面白さを活かすべく、サファイアをジュエリーに見立てました。具体的には、宝石を固定する「爪留め」の技法をヒントに、ベゼルがラグに食い込むようにケースをデザインしたのです。これもデザインでこだわったポイントです。
サファイアを使った腕時計は他にも色々あると思います。けれども、ここまで手間ひまをかけながら30万円前後に留めた量産品はまずないと自負しています。もし読者の方でOCW-S6000を店頭で見る機会があれば、ぜひ様々な角度から眺めてみていただきたいですね。

最上位機種に相応しい価格も納得の一本

オンライン取材後に改めて実機をお借りしてあらゆる角度からチェックしたところ、確かに藤原さんのいう通りサファイアベゼルの存在感が際立っていた。光を受けてきらめく様は、さながら宝石のよう。しかもギラついた感じではなく、オシアナスの重要な要素である「エレガンス」な雰囲気に満ちている。サファイアリングの採用から、カラーバリエーションの変遷を経て、切り子・蒔絵という伝統技法との融合に進んだ先にたどりついた「サファイアガラスを美しく見せる」技術の集大成。OCW-S6000は確かに高額だが、その価格設定を納得させるだけの美と技が詰まった一本だった。

問い合わせ先:カシオ計算機お客様相談室 Tel.03-5334-4869(時計専用)
https://oceanus.casio.jp

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