イーロン・マスク氏によるスペースXやホリエモンロケットなど、現在では民間でも盛んに宇宙関連の開発が進められている。だが、かつては国家を挙げての一大プロジェクトであり、1950年代~80年代までの冷戦下においては“宇宙開発競争”として激化していた。当時、宇宙飛行士が着用する腕時計のコンペティッションも実施されていたと聞く。今回、ウィリー・ブライトリングの子息としてその時代の【ブライトリング(BREITLING)】を近くで見続けたグレゴリー・ブライトリング氏への単独インタビューが実現。彼の父が抱いていた宇宙への憧れや、スコット・カーペンターとの知られざるエピソードを語ってもらった。
コスモノートは誕生前夜に語り継がれるべきエピソードがアリ!!
ソビエト連邦が行った世界初の人工衛星の打ち上げ(スプートニク1号)は、1957年のことだった。これを皮切りに“宇宙開発競争”へと突入する中で、NASA(アメリカ航空宇宙局)が腕時計を飛行士の装備品のひとつとして考えていた背景もあり、スイスやアメリカの時計ブランドがこぞって開発を推進した。そこで1958年から1963年にかけて行われた「マーキュリー計画」では、実際にいくつかの試作機が宇宙へと携行されたという。ちなみにこの有人宇宙飛行ミッションは、その後のジェミニ計画、そしてアポロ計画へと続く重要なターニングポイントだったのである。
(グレゴリー・ブライトリング氏)「私が8歳のときにスプートニク1号が打ち上げられ、父(ウィリー・ブライトリング)が子供のようにはしゃいでいたことを覚えています。望遠鏡で人工衛星の姿を観察したり、ラジオをつけて“プープープー…”という電波音を拾ったり。スプートニクをイメージしたテーブルクロックまで自作するなど、とにかく宇宙や宇宙船に対して胸を熱くしていましたね」
そんな折、ブライトリングに連絡が入る。マーキュリー計画に参加していた宇宙飛行士の候補、スコット・カーペンターからのスペシャルピースの製作依頼だった。
「納期までにあまり時間がなかったのですが、父は進んでこの仕事を受け入れました。宇宙開発に携われることを誇りに思ったのでしょうし、パイロットウオッチのリーディングブランドであるブライトリングにとって、必ずやり遂げるべきミッションだと感じたのでしょう」
スコット・カーペンターからのオーダーは次のようなものだった。
①ナビタイマーをベースとすること
②昼と夜が判別できる24時間表示
③シンプルで使いやすい回転計算尺
④グローブ着用中でも扱える回転ベゼル
⑤宇宙服の上から装着できるブレスレット
「1961年、スコット・カーペンターは、NASAの作戦の一環としてオーストラリアに滞在していました。彼はそこでオーストラリア空軍パイロットの腕にナビタイマーが装着されているのを見て、これこそがマーキュリー計画で必要なものだと感じたようです。彼はこのアイコニックな航空時計をベースとし、宇宙での使用に適した改造を施したクロノグラフを求めたのです。そして完成したのが、ナビタイマー コスモノートのプロトタイプです。完成品はすぐにカーペンターへと届けられました」
1962年5月24日、スコット・カーペンターはNASAのマーキュリー・アトラス7号に搭乗。地球周回軌道を3周し、無事に帰還した。コスモノートのプロトタイプが自身の元に届いたときのことを、ウィリー・ブライトリングに宛てた手紙でこう記していたという。
「“昨日、素晴らしい腕時計が届きました。とてもアイデアに富んでいて、理想的な回転計算尺を備えています。ここに、宇宙に連れて行くことを約束します”
そう綴られていたことに父は感動し、同時にこのタイムピースをいつか製品化したいと考えたのではないでしょうか」
カプセルは大西洋に着陸後、その回収作業は3時間続いたこともあってプロトタイプは水没してしまって故障。ブライトリングに返却されたものの修復不能のため、ずっと保管されていたという。動くプロトタイプの現物は失われてしまったかのように思えるが、ここで知られざるエピソードを同氏から聞き出すことができた。
「実はほかにも、コスモノートの同型プロトタイプは少なくても7本は製造されていました。いわゆるマーキュリー・セブン(マーキュリー計画に参加した7名の宇宙飛行士)に向けて製造されたものです。スコット・カーペンターにも帰還後、再び新しいものが渡されました。このグループの中のひとり、ジョン・グレンの所有していたプロトタイプが、2019年12月10日、ニューヨークのオークションハウス、フィリップスに出品されたのです。これは、これまで公に競売にかけられた中で最も高価なブライトリングの腕時計クロノグラフになったのです。ブライトリングが世界に先駆けて開発した初のスペースクロノグラフでありますし、父との想い出もある逸品。私が落札するのに理由が必要でしょうか(笑)」
およそ半世紀ぶりにブライトリング家に“帰還”することとなった、コンディションに優れるコスモノートのプロトタイプ。マーキュリー・アトラス7号の打ち上げから60周年を迎えた2022年、自社製造の手巻きムーブメントやヴィンテージスタイルのサファイアクリスタル風防といった最新技術を集結させた「ナビタイマー B02 クロノグラフ 41 コスモノート リミテッド エディション」が誕生した。復活を果たしたこのコスモノートについてグレゴリー・ブライトリング氏の評価は?
「ナビタイマーにも共通して言えますが、遠くからでもすぐにブライトリングの時計だと分かるスタイルが好きです。シンプルなことですがとても重要であり、ブランドの顔として認知されていることを示してくれています。コレクションのルーツを大切にしてくれるジョージ・カーンCEOに敬意を表しています」
問い合わせ先:ブライトリング・ジャパン TEL.0120-105-707 https://www.breitling.com/jp-ja/
Text/WATCHNAVI編集部