製作期間は2年以上!G-SHOCK“カプセルタフ”2度目の復活劇の舞台裏を開発陣にインタビュー
2023年に誕生40周年を迎えるG-SHOCKから、いつも以上に力の入った新作が発表されている。現時点で発表されている中で筆者が最も注目しているのが、2010年の復刻以来、12年の歳月を経て発表された第3世代の“カプセルタフ”G-SHOCK、G-B001である。このモデルにまつわる開発秘話を、企画とデザインの担当者に聞いた。
基本デザインを変えずに進化させることの難しさ
WATCHNAVI編集部(以下、WN):先日行われた渋谷での発表会でもだいぶ説明いただきましたが、改めてG-B001について取材のお時間いただきありがとうございます。
濱上さん(以下、濱)/井ノ本さん(以下、井):よろしくお願いします。
WN:さっそくですが、新作G-B001は発表会でもご説明があったように2年前からプロジェクトが始まっていたそうですね。ベゼルを取り外して2種類の顔が楽しめる点が面白い発想だと思いました。これはどのような経緯で思いついたのでしょうか?
井:このモデルを復刻したいという思いはずっとあって、せっかくならG-SHOCKの40周年と連動して発表したいと考えていました。ただ、G-SHOCKは進化し続けるブランドですので、単なる復刻で終わるわけにはいきません。ちょうど2020年に発表したDWE-5600CCでベゼルとバンドの着脱可能な技術が確立できていたので、これを新作となるG-B001に活かすことにしたのです。
WN:素材と技術の発展した現代であれば小さくすることもできたとは思いますが、それでも1994年のオリジナルとほぼ同じサイズでベゼルの脱着を実現するのは難しそうな印象を受けました。
濱:1994年の誕生から多くの方から支持されているモデルなので、オリジナルの良さを踏襲することは必須条件でした。同時に、第3世代では樹脂とメタルの2種類の顔が楽しめる要素も不可欠です。さらに、私たちはCMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)に力を入れていますので、G-B001も「特別な1色だけでは終われないでしょう!」ということで、3色展開も初期段階から決まっていました。
WN:名作の復刻だけでもかなりプレッシャーがありそうな仕事なのに、すごく自分を追い込みますね(笑)。
濱:せっかく作るのであればメタルは定番のシルバーが欲しいし、そうなったらゴールドも作りたい。それぞれの組み合わせをあれこれ考える仕事は大変でしたが、楽しかったですよ。ただ、設計担当者は、難易度の高いデザインに対して非常に苦労しておりました。
井:G-B001で一番苦労していたのは、設計部門ですよね(笑)。でも、そんな不満を言いつつも納期までにきっちり仕上げてくれるので、本当に頭が下がります。彼らには感謝しかありません。
WN:設計の方がこの場にいらっしゃらない理由、お察しします(苦笑)。ベゼル開発では具体的にどのあたりが難しかったのでしょうか?
濱:すごく当たり前のことを言いますが、お客様が外したい時にちゃんと外せて、外れてほしくないときにはしっかり固定されていることですね。ベゼル脱着の技術はあってもG-B001のような曲面の多いモデルではやったことがないので、新規に設計する必要があります。柔らかすぎず、固すぎず、程よい感触で着脱できるよう樹脂ベゼルの検討を重ねました。
井:とてつもない数の試作品がありましたよね。G-B001に関しては数え切れないぐらいの打ち合わせをしましたが、その打ち合わせのたびに10型ぐらいの試作品がテーブルの上に並んでいたので……。
濱:今回のベゼルは色も重要で、メタルベゼルがシルバーのモデルは薄いスケルトングレーとソリッドブラック、ゴールドのモデルは濃いスケルトングレーと薄いスケルトングレーいう仕様。オリジナルと同系色のイエローバージョンは特別ボックス内にスケルトンのベゼルとバンドが付属しています。これらの色の再現と素材の適切な硬さを同時に検討していくので、かなり時間がかかりました。
井:2つの色を一度に成型することも大変でしたよね。
濱:とくに特別ボックスのスケルトンベゼルは、かなり苦労しました。オリジナルモデルが搭載していたサーモグラフ機能のオマージュとしてサーモグラフィーの画面に現れる温度の色をテーマにしたのですが、スケルトン仕様は素材が別物なので取り扱いが難しくて。薄いオレンジはまだ良かったのですが、グリーンの部分は最終仕様にたどり着くまで、とても時間がかかりました。それと……
WN:……すいません! ベゼルのこだわりだけで取材時間が終わってしまいそうなので、いったん違うポイントも質問させてください。
面白い発想を積極的に取り入れ続けた
WN:オリジナルモデルが搭載していたサーモグラフ機能を復刻させようというアイデアはなかったのでしょうか。
井:技術としてはあるのですが電池の消耗が激しく実用性に関わるので搭載していません。過去に戻るよりも今の技術を搭載する方が有益と考え、第3世代はBluetooth対応となっています。対応アプリの「CASIO WATCHES」と接続すれば、正確な時刻修正が行えるほかアラームなどの各種設定も簡単に行えます。
WN:なるほど。G-SHOCKらしく、進化を優先させたということですね。かつてのサーモグラフ機能に関連してもう1点、文字盤左上の楕円形の液晶について。5秒ごとにブロックが積み重なるように表示されるというぶっ飛んだ発想は、濱上さんが発案したのですか?
濱:確かに液晶のグラフィックのデザインも私が担当しますが、ブロックが積み重なるというアイデアの原点は大先輩からの助言でした。せっかく個性的なベースモデルなので、表示にも遊び心があっていいだろう、と。それでモノクロのレトロゲーム風なデザインはどうかな、となったわけです。これも四角の縦横比やパターンなど、いろいろ考えましたが、結果イメージに合う形になったので「やればできるもんだな」と思いました(笑)。
井:脱着ベゼルやスケルトン樹脂の採用を含め、G-B001については「とにかく面白ければなんでもあり」という感じが社内にありましたよね。G-SHOCKの中でも本当に唯一無二のデザインですし、他とは違う発想で考えられます。本当にやりがいのあるベースモデルができました。
WN:私たち使う側にとってもそうですが、開発する側にとってもプレイフルなモデルなんですね。
濱:今回の復刻に際して、オリジナルモデルをデザインした先輩はどのようなことを考えてバンドの後端にギザギザを入れたのかとか、バンドの裏側のカバーをなぜこんなにも長くしたのかとか、自分では考えつかないようなデザインと真剣に向き合う時間も楽しかったですね。そのデザインの是非については、今も多くの方に愛されていることが証明している通りなので、本当にすごいと思います。
スケルトン樹脂の採用などを前提にした“透ける”デザインへのこだわり
WN:さて、先ほど遮ってしまったのですが、ベゼルの話に戻させてください。まだメタルベゼルのことを聞けていませんでした。こちらは既存の「カーボンコアガード」と「メタルカバード」という耐衝撃構造の技術が生かされていますよね。
井:はい。それがオリジナルモデルからのダウンサイジングにもつながり2重ベゼルが実現できました。個人的には樹脂ベゼルを装着した状態でも文字板を縁取るようにメタルベゼルが輝く様子がG-B001の特徴をよく表していて好きですね。
濱:メタルベゼルは下半分をプレーンなままで行くか、スリットを入れるか、いろいろ考えました。結果、プレーンではやはり無難すぎたのでスリットを設けることにしたのです。こうなると今度は文字板が透けて見えるので、文字板の方にもかまぼこ型のパターンが見えるようにデザインする必要がでてきます。このあたりの幅やピッチについては経験上の感覚値で決定しています。
WN:濱上さん、どんどん自主的に自分の仕事を増やしていったんですね。G-B001は樹脂ベゼルが重なった状態とメタルベゼルの状態と、2本分のデザインをするようなものですよね。そして設計の方の仕事も……。
井:しかも、バンドの交換構造までありますからね。バンドの付け根の部分をよく見ていただくとわかるのですが、バネ棒が通っているパイプ部分と、かつてメタルプレートが入っていた部分が一体パーツになっています。スケルトンのバンドを見ていただくとわかりやすいと思います。
濱:このパーツはファインレジン製で強度を高めているのですが、バンドがスケルトンなので、本来なら隠れて見えない部分までデザインする必要がでてきます。こうした部分もスケルトンG-SHOCKをデザインするうえでの面白さですね。
WN:ちなみに第3世代を作るうえで、オリジナルや第2世代の金型などは流用できましたか?
井:ありませんね。すべて新規に作り直しています。オリジナルモデルは1994年から97年までの製造で4、5種類が発売されていますが、これほど以前のモデルになると型が残っていないでしょうね。第2世代は2010年に18種類を発売しましたが、これはもし型が残っていたとしても新作へのパーツ転用は不可能。G-B001は復刻版ではありますが、完全なる新作という位置付けです。
取材後記
日本でG-SHOCK人気に火がつき始めた1994年に誕生したDW-001は、それまでの無骨なG-SHOCKのデザインイメージに新風を吹き込んだ歴史的な名作だ。その強すぎる個性は決して万人受けするものではないが、それが熱心なファンに支持される理由にもなってきた。最新世代となるG-B001は往年のファンには懐かしい存在ではあるものの、G-SHOCKや腕時計に興味を持ったばかりの人にはかなり斬新なデザインに映ることだろう。開発陣が創意工夫と遊び心の限りを尽くして進化した1990年代デザインは、果たして現代にも通用するのか、1月の発売後の反響に注視したい。
TEXT/Daisuke Suito(WATCHNAVI) PHOTO/Katsunori Kishida