【連載】MY TIME〜私の時間術〜 Vol.1 時間効率を意識することが正しいとは限らない――青野賢一

時間効率を意識することが正しいとは限らない――

青野賢一(ビームス創造研究所 クリエイティブディレクター)

時間は誰にでも平等。だからこそ1日24時間、その限られた時間をどう使うかが「人生を楽しむ」ための鍵となります。様々な業界で活躍する人物から「時間術」を聞く本連載。第1回はビームス創造研究所 クリエイティブディレクターの青野賢一氏にお話を聞きました。

撮影/高橋敬大  文/赤坂匡介

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ビームス創造研究所は、個人のソフト力を主に社外のクライアントワークに生かすために生まれた、株式会社ビームスの社長直轄部門。そこでクリエイティブディレクターを務める青野賢一氏は、ボーダレスに“個の力”を発揮し、幅広いジャンルで活躍する人物です。

そんな青野さんに日々、どんな時間の使い方をしているのか聞いてみました。そこには、「こだわりを持たない」という青野流の時間術が。

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――仕事の幅も広く、日々クリエイティブワークに勤しんでいる印象を受けるのですが、青野さんが1日の中で“いちばん好きな時間”は何をしているときですか?

好きなことができている、という実感もあるので、仕事をしている時間も好きなんですが、それ以外だと、寝ているときでしょうか。もし無尽蔵に時間があったら、ずっと寝ていたいくらい、寝るのは好きです。私は就寝時間がすごく遅いんです。家に帰ってからも原稿を書いたり資料を読んだりするので、普段は夜型の生活をしています。とはいえ、それは仕事量が多いからではなく、私には夜型の方が合っているからそうしているだけなんです。

ビームス創造研究所という場所は、「これをやりなさい」という決め事はなく、自分で考えて働かなくてはならない、自由度の高い部署です。私は今、執筆や編集、講師、PRディレクション、選曲など幅広く活動していますが、「好きなことが仕事になっている」という感覚があるせいか、趣味という趣味もありません。公私の境も意識しませんし、オンオフという考え方もしたことがありません。気持ち的には、起きてシャワーを浴びたら、そこから眠るまで、ずっと“オン”ですね。

――それだけ忙しいと、仕事をする上では、時間効率を意識されますか?

正直、あまり気にしないですね。私は執筆もしますが、文章を書くことって、実は非常に時間効率が悪い行為なんです。事前に資料を読んだり、準備の時間もありますから。でもそれは必要な時間ですし、省略して効率的に執筆しようとは思いません。むしろ必要なことに関しては、しっかりと時間をかけることが大切だと思っています。

たとえば、食事を簡略化することも物理的には可能だと思います。ですが、それによってメンタルバランスが崩れてしまったら、何の意味もありませんよね。つまり、時間効率だけを考えて判断すると、良い結果を生まない場合もあると私は考えているんです。

――では逆に、青野さんが時間を意識するのは、どんなときですか?

約束があったり、誰でも時間を気にするようなときだけですね。それ以外だと、長さが決まっている勤務中の昼食くらいでしょうか。私からすると、時間ばかり気にしている人は、なんだか落ち着きがない人に見えてしまう印象があるんです。それもあって、「いつも時計を見ている人」にはなりたくないなと思っています。

腕時計も、「常にする」ということはありません。その日の服装に合えばしますし、合わないときは無理に着けることはしないですね。

腕時計の最大の魅力は、スタンドアローンなところ

――今日は腕時計をつけていますね。これはいつ購入されたものですか?

今日しているのは、20年くらい前に購入したハミルトンの時計です。小ぶりなところが気に入って買いました。上品でかわいらしくて、とても気に入っています。全然メンテナンスしていませんが、今日もしっかり動いてくれています。丈夫で、私にとって信頼の置けるプロダクトのひとつです。

腕時計の最大の魅力は、スタンドアローンな点だと思います。周りに左右されることなく、単体でその役割を果たすことができる。パソコンのようにアップデートも不要ですし、ソフトのバージョンを確認する必要もありません。国をまたいだからといって、使えなくなる心配もない。当たり前のことのようですが、デジタル時代の現代においては、非常に魅力的なことだと感じます。

青野氏とともに、ときを刻んできたハミルトンの腕時計。約20年前に購入した際、ベルトだけは交換したという、こだわりの一点
青野氏とともに、ときを刻んできたハミルトンの腕時計。約20年前に購入した際、ベルトだけは交換したという、こだわりの一点

――周囲に流されることなく、自分らしく活き活きと日々を過ごされている印象の青野さんですが、今後の目標は何かありますか?

私は子どもの頃から、「こうなりたい!」と思ったことがないんです。むしろ目標を作ってしまうと、その枠に自分がはまってしまいそうで怖いですね。もし自分としてのビジョンを掲げて、それに縛られて視野が狭くなってしまったら、それはむしろ損失ですよね。私はそれを避けたいんです。

「こだわり」も同じ理由で持ちません。むしろ「こだわりを持たない」ことが、私のこだわりです。

今後も、常にフラットに、広い視野を持ちながら、まだ見ぬ可能性と出会えることに期待しながら、日々の時間を楽しんでいきたいですね。

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青野賢一(あおの・けんいち)

ビームス創造研究所クリエイティブディレクター、ビームス レコーズ ディレクター

1968年東京生まれ。大学在学中に原宿「インターナショナルギャラリービームス」で販売のアルバイトを経験。卒業後、株式会社ビームス入社。販売スタッフ、店次長を経て、1997年より販売促進部プレスに異動。1999年、音楽部門「ビームス レコーズ」の立ち上げに参画。2010年より現職。執筆、編集、選曲、大学や専門学校の講師、DJ、PRディレクションなど幅広い分野で活躍中。『ミセス』(文化出版局)、『CREA』(文藝春秋)をはじめ連載も多数。

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