ブラックセラミックスで彩られた、新しい「スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン」

人類初の月周回飛行から50年

文/鈴木裕之

現代的な高耐磁性能を前提にした新たな精度基準「マスター クロノメーター」を標準スペックとする近年のオメガの中で、“ムーンウォッチ”として知られる「スピードマスター プロフェッショナル」だけは、旧来のスペックのまま現在も生産が続けられている。NASAの公式装備品でもある“ムーンウォッチ”は、マスター クロノメーターやオリンピックオフィシャルタイムキーパーと並び、オメガのハイスペックを象徴するような存在だ。

数あるスピードマスター ベースのリミテッド エディションの中でも、アポロ8号関連のモデルはコレクター人気も特に高い。アポロ8号による人類初の月周回飛行から50周年を迎えた今年は、まったく新しいダークサイド オブ ザ ムーンが登場。これまでのモデルと異なるのは、公式装備品であるムーンウォッチをベースとする点だ。

オメガ スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン アポロ8号 104万円/1968年に行われたアポロ8号ミッションの50周年モデル。人類初の月周回飛行にちなみ、ダークサイド オブ ザ ムーン(月の裏側)の愛称が与えられている。直径44.25mm、厚さ13.80mm。48時間パワーリザーブ。50m防水。2018年8月発売予定

 

ムーブメント装飾で魅せる“月の裏側”

今年発表された「スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン アポロ8号」は、新たにオールブラックセラミックス製のケース&ベゼルを採用。加えてムーブメントパーツの一部に特殊加工を施し、月の表情を再現している。まずダイアル側は、バーインデックスとインダイアルを残してベースダイアルをカットアウト。スケルトナイズされた部分からムーブメントのダイアル側地板を見せ、そのオメガロゴの周囲にわずかに残された部分に、クレーター状の表面加工が施されている。これにより、これまでのスピードマスターコレクションとは一風変わった表情を生み出している。

対して“月の裏側”にあたるムーブメント側の装飾はさらに手が込んでいる。クロノグラフの輪列を受けるブリッジ部分は、同様にブラックコーティングしたうえに、クレーター状の表面加工が施されている。ムーブメントの心臓部であるテンプもブラックで染め抜かれている。さらにムーブメントパーツ全体をグレイッシュに仕上げることで、ダイアル側との統一感を生み出している。

ベースとなったのはNASAの公式採用機と同じCal.1861だが、こうした特殊加工が施されたことで、新たにCal.1869のナンバーが与えられた。ストラップはパンチング加工が施されたブラックレザー。スピードマスターロゴや各積算針に施されたイエローの挿し色は、ストラップのインナー部分にも踏襲されている。

もっともこのモデル最大の魅力は、オールセラミックス素材によるケース&ベゼルだろう。スピードマスター独特の左右非対称デザインに、ブラックセラミックスに特有のやや艶感を落とした質感が美しい。また、トランスパレント化されたバックケースに刻まれた“We’ll see you on the other side”(あちら側でまた会おう)の文字は、アポロ8号の司令船操縦士を務めたジム・ラヴェル船長が、月周回軌道に乗って、初めて月の裏側へと向かう際に、地上の管制センターに送った言葉として、特によく知られているものである。