【SIHH2017】ケース/ムーブメントの最新コンプリケーション事情【リシャール・ミル/グルーベル フォルセイ】
SIHH2017で発表された新作を取り上げていきます。今回は、リシャール・ミルとグルーベル フォルセイ。SIHHに出展する非リシュモン グループの独立ブランドは、どちらも少量生産体制で作られるコンプリケーションウオッチが特徴です。2017年も、両社から驚きの製品が発表されました。
リシャール・ミルは世界一軽いクロノグラフでまたしても1億円の大台突破
2017年のリシャール・ミルは、SIHHのブースにマクラーレン・ホンダのF1マシンをドーンと展示。新作のメインも、これにちなんだモデルとなっています。
ちなみに、リシャール・ミルとマクラーレンは、2016年2月に長期パートナーシップ契約を締結しています。その契約から1年を待たずして、2017年のSIHHでコラボレーションウオッチの第1号がお披露目されたのです。
最新作「RM 50-03 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ ウルトラライト マクラーレンF1」は、世界一軽い機械式クロノグラフ。
その質量は、ブラックラバーストラップを含めてもたったの40g。1億2171万6000円。1g=304万2900円。見てのとおり、贅の限りを尽くした宝飾仕様ではありません。
最も価格に反映されていると思われるのが、ケース。裏蓋とベゼルには、これまでのTPT™カーボンにナノ素材「グラフェン」を注入した進化形となる新素材「TPT™グラフ」が使われています。
グラフェンは、2004年に物理天文学院のアンドレ・ゲイム博士によって初めて特定されたものだそう(2010年には、この先駆的な研究により同博士とコンスタンチン・ノボセロフ博士はノーベル物理賞を受賞)。
2015年にマンチェスター大学に開設された国立グラフェン研究所の研究から誕生したTPT™グラフは、時計業界でリシャール・ミルの独占使用。これを実現したのは、マクラーレン・アプライド・テクノロジーによる数多くのコントロールと検証テスト、そして生産へのアドバイスによるところが大きいと、ブランド側は説明しています。
スチールに比べて重量は6分の1、強度は200倍という特性をもつTPT™グラフをミクロン単位の精度で加工するために、リシャール・ミルは切削ツールの製造とプログラミングに膨大な時間を費やしたそう。
こうした背景まで全部まとめての価格ですが、リシャール・ミルの時計が「腕時計のF1マシン」に例えられることを考えれば、より本物のF1マシンに近い最新作はむしろ安いと言えるかもしれません。
リシャール・ミルが過去に発表してきた、TPT™カーボンやサファイアクリスタルケースなどの革新的な素材は、その後、複数の時計ブランドにも出てきたモデル。ただ、TPT™グラフに関しては他者には出すことができないはずです。このほどのエクスクルーシブ感があってこそのリシャール・ミル。世界限定75本も、世界のVIPはこぞって争奪戦を繰り広げることでしょう。
グルーベル フォルセイは絶対的な安全性を誇るソヌリを開発
ロベール・グルーベルとステファン・フォルセイという二人の天才時計師から誕生したグルーベル フォルセイをもってして11年の歳月を要したという、驚愕のソヌリウオッチがSIHH2017に披露されました。
このタイムピースの総部品数は実に935個に及び、特許申請は2件。澄んだ音色を生み出す共鳴ケージの開発、11の安全機能という圧巻のコンプリケーションは、ミニッツリピーターさえも付加機能と言ってのける驚愕のグランドソヌリです。
ケースバックから確認できるマイクロローターはソヌリのためのもの。グランドソヌリモードで最長20時間のパワーリザーブを有しています。
モード選択はプッシャーで行い、グランドソヌリ、プチソヌリ、サイレントの3モードに切り替え可能。左側のレバーを操作すればミニッツリピーターが鳴ります。
このモデルが備える安全装置は、パワーリザーブが十分でないときやリューズ操作中のソヌリ機構の制御など、11種類あるそう。
個人的には、これほどの禁則行動が従来のグランドソヌリにあったのかと思いました。確かに圧倒的に緻密な作業が要求される複雑機構ですが、これをいかに壊さず安全に使ってもらうか。こういうところに注目するあたりがグルーベル フォルセイらしさといえるでしょう。
ケースはチタン製で直径43.5mm、厚さ16.13mm。30m防水と、サイズ感や基本スペックもかなり実用性を重視したものとなっています。
少量生産を旨とする独立ブランドの製品は、ビッグブランドにはない刺激がありますが、SIHH2017は特にインパクトの強い新作と出会う事ができました。コンプリケーションウオッチ開発は、ひとつの時代が終わると同時に、新たな時代の幕が開けたような気がします。