ウオッチナビ視点で読み解く、時計市場の最新動向――新たなプラットフォームを求めてバーゼルワールドよ、どこへ行く!?

いま思えば、2月初旬から時計界には不穏な空気が漂っていた。同月4日、編集部に届いた「TIME TO MOVE」中止の知らせ。すでにバーゼルワールドを離脱していた世界最大の時計製造グループ、スウォッチ グループ傘下6ブランドが、独自イベントを新型コロナウイルスの影響で取りやめたのだ。

在りし日のバーゼルワールド。世界中から時計の関係者や愛好家が集まる光景は、まさに祭典だった。

新たなイベントの概要は夏以降に発表される予定

ウイルスの影響はその後、全世界を巻き込んで拡大。時計界も御多分に洩れず2月27日には、新生SIHHとして行われる予定だった「ウオッチズ&ワンダーズ 2020 ジュネーブ」も中止を決定。それに続く形で、バーゼルワールド事務局から一報が届く。その文面には「2021年1月に開催を延期する」とあった。

だが、その決定があまりにも身勝手だったのか、4月14日になってバーゼルワールドの中心ブランドだったロレックス、パテック フィリップ、シャネル、ショパール、チューダーがバーゼルワールドを見限り、FHH(高級時計財団)と手を組んでジュネーブでの新たな時計見本市を発足すると発表。今年はデジタルプラットフォームでの開催となったウオッチズ&ワンダーズの開催に合わせ、2021年4月上旬に向けて準備を進めるという。さらにLVMHウォッチメイキングディヴィジョンとブルガリも離脱を表明。これらの知らせに、バーゼルワールド陣営は驚いただろう。

バーゼルワールドを運営するMCHグループは、時計バブルに湧いた2000年頃からイベントが規模を拡大するにつれ、様々な問題が生じていたようだ。一部の出展者から話を聞いた際には、高額な出展料やホスピタリティー皆無の運営姿勢など、不満をあげればきりがないといった様子だったのが印象深い。

さて、5月7日にMCHグループから届いた書面では、離れていった出展者とは和解し、バーゼルワールドは新たなプラットフォームを調査し、今後のスケジュールについて夏以降に発表する予定なのだという。本誌でも幾度となく取り上げてきた2大新作時計見本市。ジュネーブ勢は究極のアナログである機械式時計を最新のデジタルプラットフォームで紹介することで、この危機的状況にあっても時計ファンを楽しませてくれたが、一方のバーゼルワールドから明るい話題がでてこないのが残念でならない。私たちは、あの人生観を変えるような時計の祭典が、今度はいつ、どこで体験できるのか。MCHグループ、あるいは新たなる時計界の旗手の次なる一手に注視したい。