スタイルに縛られないヘリテージの強み【SIHH2018/オーデマ ピゲ編】
ウオッチシーズンの幕開けとなるSIHH 2018が1月15日から19日にかけ、スイス・ジュネーブで開催されました。国際高級時計見本市と銘打つだけに、その動向は業界の1年を占うに十分。出展数は前年の30ブランドから35ブランドに増え、とくにエルメスがバーゼルワールドから移るなど話題性も盛り沢山なイベントとなりました。そのなかで注目したブランドの新作と方向性について、ライター柴田 充さんがお伝えします。
世界三大ブランドたらしめる強みを発揮
「ロイヤル オーク オフショア」は今年誕生から25周年を迎えました。クロノグラフと防水性を備え、エクストリームスポーツの世界を思わせる力強いメガサイズのケースは、斬新かつ新たなラグジュアリースポーツの登場を予感させました。アメリカズカップではチーム・アレンギの優勝を支え、先端素材のフォージドカーボンをいち早く採用するなどいまもブランドの革新性を象徴します。
新作「ロイヤル オーク オフショア・クロノグラフ」復刻版はその輝かしい軌跡を祝します。初代オリジナルを再現したスタイルはいまなお新鮮で、こうした時代を超越する魅力の理由は、名作「ロイヤル オーク」の高い完成度もさることながら、「オフショア」がそれに対するオルタナティブでありえたからでしょう。そこには偉大なヘリテージを越えるために、あえてそのカウンターカルチャーを目指す気骨が感じてならないのです。
それはさらなる進化形である「ロイヤル オーク オフショア・トゥールビヨン・クロノグラフ」からも見て取れます。サファイアクリスタルのオープンベゼルを採用し、シンボルである八角形はビスを残したフォルムのみという大胆さ。そこからはヘリテージにリスペクトするからこそ、その先へと向かう強い意思が伝わってきます。
「ロイヤル オーク」は、1972年に高級時計に初めてステンレススチールを採用し、硬質なスポーティテイストと、美しい面取りがされた薄型ケースのエレガンスという、相反する価値観を両立し、ラグジュアリースポーツという新ジャンルを確立しました。新作では初代と同じ超薄型キャリバー2121を搭載した「ロイヤル オーク オフショア・“ジャンボ”・エクストラシン」が登場し、永久カレンダーを搭載しながらもそれよりさらにケース圧を約2mm薄くした「ロイヤル オーク RD#2」も発表されました。
ここでも「ロイヤル オーク」に薄さとコンプリケーションを組み合わせ、ヘリテージをさらに後世へとつなぎます。そしてそれこそがオーデマ ピゲを世界三大ブランドたらしめる強みなのです。
初代オリジナルのスタイルを再現し、現行モデルではセラミックになったクロノグラフのプッシュはラバーに、文字盤のタペストリーもより控えめなプチタイプになります。42mm径もいまでは腕に載せても違和感なく、オーバルインデックスやカーブを描いた針は柔らかな印象とともに落ち着いた印象を与えます。大人の休日ウォッチにもお奨め。
25周年記念モデル。シリーズ初の45mmケースにサファイアケースのオープンベゼルを組み合わせます。エッジィなデザインに目がいきますが、手巻き式トゥールビヨンを搭載し、コンプリケーションの実力も秘めます。歴代の限定モデルには『ターミネーター3』コラボレーションなどもあり、エキセントリックな伝統も健在です。50本限定。
「ロイヤルオーク」誕生40周年モデルに、チタンケース&プラチナベゼルが加わりました。搭載するキャリバー2121は超薄型として設計され、「ロイヤルオーク」以外では複雑機構や高級機種にしか使われない稀少性と、秒針を持たない初代のスタイルがマニア心をそそります。ポリッシュベゼルのコントラストも美しく、名作にふさわしいエレガンスが漂います。
永久カレンダーの新開発キャリバー5133は、従来の三層構造を一層にすることで2.89mmという驚異的な薄さを実現しました。ケース厚も6.3mmに抑え、自動巻きパーペチュアルでは現在最薄を誇ります。手にすれば永久カレンダーであることを一切感じさせず、2針の初代モデル以上という薄さに、技術革新と進化を続ける名門の矜持が伺えます。
時代を切り拓く感性、そして揺らがぬヘリテージ
「ロイヤル オーク オフショア」の25周年を祝す MVにヒップホップDJとともに登場したのは、アンバサダーを務めるNBAプレーヤーのレブロン・ジェームス。そのテーマも“The future of first(最初の未来)”でした。トレンドの変化が激しく、競合ブランドも多いラグジュアリースポーツで、「ロイヤル オーク オフショア」は四半世紀に渡ってその基本スタイルを変えず、人気も衰えません。支持されるのはカテゴリーの先駆であると同時に、つねに時代を切り拓く感性にあります。そして揺らがぬヘリテージは、いまも創業一族による独立系ブランドであり続ける姿勢にも通じます。
オーデマ ピゲ https://www.audemarspiguet.com/