【FASHIONスナップ】Vol.3「カルティエ(Cartier)」中里 彩のWatch × Fashion Conscious

 

おかげさまでご好評いただいている連載の第3回目は、フランスの高級ブランド「カルティエ(Cartier)」のタンク。カルティエのタンクといえば世界中で男女ともに人気が高く、おしゃれな人なら誰もが憧れるような時計です。

華奢で繊細な薄い四角いケースやレザーベルトがどこか貴族的な雰囲気をもっているためか、ひとたび手首に巻くと魔法のように艶やかな大人の色気を醸しだしてくれます。ディテールだけ見るとクラシカルでドレッシーなのですが、ビジネスからカジュアルまで幅広いスタイルに合わせることができるのも、堅過ぎないフランス的なエレガントさを兼ね備えたカルティエだからこそ。普段のコーディネートの格をぐんと上げてくれます。

 

前回に引き続き、今回のPittiスナップでは、スタイルの異なる2つのスーツコーディネート×カルティエ タンクを見ていきましょう。

 

英国スタイルのスーツ × カルティエ「タンク フランセーズ クロノリフレックス」

 

 

こちらの男性はカルティエの「タンク フランセーズ クロノリフレックス」。おそらく2000年前後の時計で、クロノグラフクオーツムーブメントを搭載したもののようです。現在では、タンク フランセーズというとレディスのイメージが強いですが、この頃まではこのようなメカ色の強いメンズウオッチも存在していました。

このモデルは18金素材ということもあり、当時から感度の高いエリートビジネスマンに好まれていました。複雑機構を搭載しているにもかかわらず、クオーツのため薄い作りであることも、スーツスタイルに選ばれる理由のひとつです。

 

 

スーツはグレーストライプのダブルブレステッド。ラペルの位置が低く、肩から胸にしっかりと入った芯地が体型をより立体的に見せています。また、細身でテーパードが定番であるイタリアスタイルのパンツとはうって変わって、幅は太め・裾幅も広く・股下も長い、とてもクラシカルな着こなしです。

実は、メンズファッション業界では2018年末から英国スタイルがトレンドとして復権しはじめています。そのためこの春からピッティや東京のファッション関係者が英国的なスーツを着こなす姿を見かけます。これまでトレンドとして主流だったイタリア系スーツはネイビーが基本でしたが、グレーというのも英国的な着こなしのポイントのひとつです。ピンクと白のクレリックシャツはロンドンのシティ(金融街)では珍しくはないのですが、流石に日本でここまできこなせる人はかなり少ないかと思います。

 

 

カフスや小指のシグネットリングも非常にイギリス的ですが、腕時計にフランスのカルティエを選ぶことでフル装備のブリティッシュスタイルではなく、パリ流の華やかさ・品の良さを醸しだしているポイントがお見事です。

日本ではビジネスマナーとして一般的なビジネスシーンで結婚指輪以外のリングを身につけることはNGとされています。しかし、もしプライベートなどカジュアルなシーンでアクセサリーを身につける機会があるなら、こちらの男性のようにアクセサリーと時計のケースをゴールド色(もしくはシルバー色)で統一することで腕まわりの色合いのバランスがとれるので意識してみてくださいね。

 

イタリアスタイル × カルティエ「タンク ルイ カルティエ」

 

こちらの男性は、おそらく1980年前後に誕生したアンティークの「タンク ルイ カルティエ」。現在アンティーク市場で見かけるタンクの多くはこちらの通称「マスト タンク」と呼ばれるタンクの普及モデルです。純金でなく金メッキのケースですが、スターリングシルバーに金をはりつけた、カルティエらしい高級感のある金色ケースになっています。ゴールドよりは安価のため、マスト タンク(必ず手に入れなければならないタンク)の意味のとおり、”多くの人が手に取れるもの”という役割を持つこととなりました。

この方が着用しているのはなかでも初期のモデルで、ローマ数字インデックスやレイルウェイ目盛など、初代タンクのクラシカルなエッセンスをもつデザインです。レディス人気が強かったマスト タンクなので小さめサイズですが、この方はアクセサリーと合わせることで程よくバランスを取っているようですね。

 

 

先ほどの英国スタイルのスーツとは異なり、こちらは典型的なイタリアンスタイルのスーツ。ラペルが広く、着丈も長めです。イタリアンスタイルとえいば今まではジャケットのラペルや身幅が細く、着丈は短め、パンツも太ももから裾まで細めと、とにかくタイトなものがトレンドでしたが、実は今年あたりからクラシックなオーダースーツのディテールが再注目されています。今まで日本のスーツの着丈があまりに短いものが多かったので、この丈感だと長いかなと思う方が多いかもしれませんが、実はヒップが隠れるくらいの着丈がスーツのスタンダードな長さなのです。

こうしたイタリアのオーダースーツによく見られる雰囲気が今ピッティの30〜40歳の若手のバイヤーやブロガーに人気がでているようです。モードのスーツを見て育った世代には、この感じが新鮮なのかもしれませんね。

 

 

ネクタイは、ニットタイで、赤いドット入り。あわせてペイズリーのポケットチーフとブレスレットの赤の挿し色がアクセントになっています。イタリアではブレスレットは一般的ですが、これは流石に日本のビジネスシーンではNGですね。もし日本でブレスレットをしているとしたら、ファッション系やクリエイティブ系のお仕事の方くらいでしょうか。

メンズの場合、アクセサリーは”程よく、さりげなく”つけることでコーディネートに華を添えてくれるもの。服や小物とのバランスも含めよほど高度な合わせ技がないかぎり、両腕にアクセサリーを重ねづけすると主張が強くやりすぎ感が出てしまうためおすすめしません。存在感のある時計を選んだときは、アクセサリーは控えめくらいのほうがちょうどいいかもしれません。

 

 

今回はこの連載で初めてスーツスタイルを取り上げてみましたがいかがでしたでしょうか。日本のビジネスパーソンの多くはブレスレットの時計を選びがちですが、ぜひカルティエタンクのようにエレガントな革ベルトの時計にも挑戦してみて欲しいと思います。今の時計に何か物足りなさを感じている方は、どうそカルティエのタンクで腕元に華を添えてみてくださいね。

 

 

▼ライタープロフィール

中里 彩(Aya Nakazato)

メンズスタイルデザイナー。コラムニスト。日本にて熟練の仕立て職人のもとでテーラリングを学んだ後、エグゼクティブの男性を対象に装いのコンサルティング・スタイリングを行う。WEBメディア「Aya Nakazato Official Medium」では、独自の目線からメンズファッション業界におけるものづくりの魅力やメンズ服の着こなし解説などを発信している。

 

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