1世紀ブランドを徹底解説【オメガ】初めて月に降り立った腕時計「スピードマスター」を生み出したビッグネーム

時代の変化や流行に流されず、一貫してクオリティを提供する時計ブランドには、創業から1世紀を超える存在も少なくない。とりわけ機械式時計に対するこだわりの強いブランドは、ユーザーが求める厳しい基準を満たして信頼や安心を獲得してきたからこそ、現在の地位を確立しているのだ。本連載では、1世紀以上の歴史を持つ10の名門をピックアップ。第6回となる今回は、腕時計で初めて月面に降り立った「スピードマスター」で知られる【オメガ(OMEGA)】についてひも解く。


↑モータースポーツ向けに1957年に誕生した初代スピードマスター。ブロードアロー型の時針とタキメーターベゼルが特徴的で、レマニア製のキャリバー321を搭載している。

 

オメガを所有することで人類初の偉業を共有する

米アカデミー賞2部門に輝いた1995年の「アポロ13」は、事実に基づいたパニック映画。地球から32万キロ、月まであと6万キロという地点で宇宙船の酸素タンクが爆発し、トム・ハンクスやケビン・ベーコン扮する宇宙飛行士たちは、絶体絶命のピンチに追い込まれる。

アポロ13号は軌道制御エンジンと燃料電池が停止し、酸素圧力が低下、コンピュータにも支障が発生した。地上のヒューストン飛行管制センターからは、機能不全に陥った司令船に代わり、月面着陸船を救命ボートにして飛行を続けるよう指示される。電力節約のためコンピュータを切って手動制御に切り換え、ヒーターも使用せず寒さと水不足に耐えた。即席の二酸化炭素除去装置を作って呼吸を確保するなど、3人は地球へ戻るための努力を懸命に続けた。

しかし、ヒューストンから悪い知らせが入った。「アポロ13号は地球への再突入コースから外れつつある」というのだ。軌道がずれると、宇宙の彼方に吹き飛ばされるか、大気の摩擦で燃え尽きるか。コンピュータが使えない状況でこれを回避するには、ヒューストンの指示した時間に、14秒間だけロケットエンジンを噴射させ、軌道修正するしかない。そんな極限状態でアポロ13号の宇宙飛行士たちが命を託したのは、オメガのスピードマスターだった。彼らは腕の手巻きクロノグラフで14秒を計測してエンジン噴射のタイミングを図り、ついに地球への帰還を果たしたのである。

このアポロ13号救出をはじめとするオメガの貢献を讃えて、NASAの宇宙飛行士から栄誉ある「シルバー スヌーピー アワード」が贈られた話は有名だ。こうした〝語れる〞ストーリーの多さと面白さの点で、オメガは時計界でも群を抜いている。

 


↑1965年にNASAの公式装備品に認定されたスピードマスターは数々の任務に同行。1969年にアポロ11号が人類初の月面着陸に成功した際も、バズ・オルドリンの腕で時間を刻んだ。

 

人類にとって宇宙と同じく未知の世界だった“深海”では、1970年の油田探査を目的とする「ヤヌス計画」で、250mの海底を調査するダイバーはシーマスター600mを装着していた。また、1981年にイタリアのエルバ島沖で、101mの素潜り世界記録を達成したジャック・マイヨールも有名だろう。伝説のダイバーがそのとき着用していたのは、シーマスター120mだった。スピードマスターやシーマスターを腕にすることは、こうした人類史に残る偉業をオーナー自身が共有することと同義なのだ。

 


↑2023年、シリコンひげゼンマイの新緩急調整機構スピレート™システムにより、0.1秒/日の微調整が可能なCal.9920をスピードマスター スーパーレーシングに搭載。日差0~+2秒の超高精度を実現した。

 

オメガの挑戦は冒険だけにとどまらない。たとえば1999年、コーアクシャル機構の実用化に成功して脱進機革命の先駆者となった。2013年に1万5000ガウスの超耐磁性、2015年にマスター クロノメーター認定など、時代の先端を行く技術革新を成し遂げた。そして2023年、スピレート™システムの実装で、前人未到の精度領域に到達した。こうしてオメガは、先達たちが作り上げた誇り高き伝説を未来へつなぐため、さらなるΩ(究極)を目指して進化の道を突き進むのだ。

 

≪オメガ主要コレクション≫

ホワイトラッカーに絶妙な赤のアクセント

オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」 Ref.310.30.42.50.04.001 125万4000円

伝説的クロノグラフの新作は、オメガが1969年に手掛けた「アラスカプロジェクトⅠプロトタイプと宇宙服に着想を得た鮮やかなホワイトラッカーダイアル、そして赤いアクセントが印象的。アプライドインデックスや指針の縁をブラックとした高コントラストが高い視認性を実現。

スペック:手巻き(Cal.3861)、毎時2万1600振動、約50時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)&ブレスレット。直径42mm、厚さ13.18mm。5気圧防水。

 

問い合わせ先:オメガ TEL.0570-000087 https://www.omegawatches.jp/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。

◎本記事は『ウオッチナビ 2024 Autumn Vol.95』より抜粋・編集しています。

Text/WATCHNAVI編集部