腕時計にも搭載! 世界最小のボールベアリングを製造するミネベアミツミ軽井沢工場を訪ねた
ウオッチナビ編集部は、腕時計にも使われているボールベアリングなどを製造する日本を代表するメーカー、ミネベアミツミの軽井沢工場を見学できる機会を得た。東京駅から軽井沢駅までは、新幹線で1時間ほど。軽井沢駅に到着すると、雪が積もった雄大な浅間山(標高2568m)が姿を現した。そこから、最寄り駅である御代田駅まで移動し、さらに車で5分、あっという間に軽井沢工場に到着した。
日本初のミニチュアボールベアリング専業メーカーとして創業したミネベアミツミ
1951年に創業したミネベアミツミは、ベアリングなどの機械加工品事業に加え、小型モーターや半導体、電子デバイス、センサー、コネクタなど、多岐にわたる部品を手掛けている部品メーカーである。グローバル拠点は28カ国あり、生産・研究開発拠点は129拠点、営業拠点は102拠点と、世界各地に展開している。主に4つの事業本部から構成されており、ボールベアリングなどの機械加工品を製造するプレシジョンテクノロジーズ事業本部。モーター、液晶バックライト、センサー製品を取り扱うモーター・ライティング&センシング事業本部、自動車部品を展開するアクセスソリューションズ事業本部。アナログ半導体を中心とした電子部品関連事業を展開するセミコンダクタ&エレクトロニクス事業本部だ。製品の特長としては、精密技術を強みとするグローバル企業として、世界トップクラスのシェアを誇る製品を数多く展開。ミニチュア・小径ボールベアリング、HDD用ピボットアッセンブリー、1直リチウムイオン電池用保護ICが世界シェアNo.1を獲得している。
機械加工品の製品・技術開発に特化した軽井沢工場
事業を拡大し、世界各国に工場を構えるミネベアミツミだが、マザー工場は1963年に設立された軽井沢工場である。従業員は現在1368名で、総敷地面積は15万5000平方メートル、建屋面積は5万4000平方メートルとなる。敷地内には従業員社宅や厚生棟(従業員用のレストランやクラブハウス、フィットネスフロアなど)が併設されている。
主に軽井沢工場は、機械加工品関連の製品・技術開発および製品設計に特化しており、海外の量産工場に対する生産支援や、生産・製造技術の開発を行っている。さらに、海外工場の従業員を軽井沢工場に招いて教育・研修を実施するなど、グローバル拠点との人材育成面での連携も、この工場の重要な役割となっている。
軽井沢工場では、ボールベアリング(全体の99.8%を海外工場で行っており、残りの0.2%を軽井沢工場で担っている)、航空機用のロッドエンド・スフェリカルベアリング、航空機用部品、ハードディスクドライブ用のスピンドルモーター、冷却用のファンモーター、ベアリングを組み込んだ精密組立品(サブユニット製品)、ロードセルやひずみゲージといったゲージ関連製品、さらに内製の金型や治工具などを製造している。
主力事業のボールベアリング
ミネベアミツミの主力事業であるボールベアリングの製造は、製品を一貫して生産できる垂直統合型の生産体制を構築している点が特徴だ。ボールベアリングに必要な部品だけでなく、その部品を製造するための治具や工具なども自社内で製作している。加えて、それらを加工するための専用設備も製作しているのだ。この自社一貫生産体制によって、海外生産においても、精密な部品加工に不可欠な治具工具や金型などを軽井沢工場から技術展開を受けた海外工場で製作できるため、高品質な均一なものづくりを海外でも実現できている。これが、グローバル展開を支える大きな強みとなっている。
ボールベアリングの製造工程を紹介
ボールベアリングとは、摩擦を減らし、軸が滑らかに回転するようにするための精密部品である。大きく分けて外輪、内輪、リテーナー、ボールの4つの部品から構成される。まず、外側の部品である外輪の製造工程について説明する。棒状の材料を旋盤で削って、リングの形状を削り出す。その後、鉄を硬化させるために熱処理を施す。この工程は、柔らかい鉄をそのまま使用するとすぐに摩耗し、寿命が短くなるからである。熱処理後は仕上げ加工に入り、幅と外径を砥石で削る研削工程を経て、ボールが転がる溝を加工する。この面には滑らかな磨き加工が施される。内輪の製造工程も基本的には外輪と同様で、部品の加工が完了する。
最終の組み立て工程では、まず外輪と内輪のボール転走溝の直径を計測し、内輪と外輪の間にボールを組み込んだ際に指定されたミクロン単位のラジアルすき間が得られるように各部品を組み合わせて組み立てる。ラジアルすき間はベアリングの寿命、振動などの性能に大きく影響する為、各部品を高精度で組合わせることは非常に重要な作業である。次にボールを等間隔に配置して、ボールを保持するリテーナーを組み込む。続いて洗浄工程に入る。軸受内部に異物が残っていると、回転時に異常振動が発生するためである。洗浄後、潤滑油(グリース)を封入し、防塵用のシールド(蓋)を組み込み、組み立て工程が完了。最後に音響性能と各寸法及び、外観の検査を行い包装して出荷する流れとなる。
世界最小のボールベアリングへの挑戦
ミネベアミツミは、技術力にさらなる磨きをかけるため、ボールベアリングの優れた技術力を活かして、外径1.5mm、内径0.5mmという世界最小のボールベアリングを開発した。当時は、外径2mmまでのベアリングを主力で作っており、それらを作っている量産設備と同じ設備で、世界最小の外径1.5mmのベアリングを作るという制約があるなかで挑戦したため、開発には困難を極めたそう。2009年に完成、現在では量産体制も整っている。多くの試行錯誤を得て完成した、世界最小のボールベアリングを組み立てている4人の職人さんに話を伺った。
――世界最小のボールベアリングを作ると聞かさせれた時の感想を教えてください
「世界最小のボールベアリングは、ミネベアミツミの技術の挑戦として、世界最小に取り組んだものです。部品の図面を見た時、まず本当にこれを組み上げられるのか、部品から作れるのかというところから始まりました。完成したベアリングがゴミのように見えるとすれば、部品はゴミにも見えず、塵のように見えると言っても過言ではないかと思います。やはりスケール違いの部品の小ささだったので、試みはしたものの、部品がどこかへ飛んでいってしまいます。触ったつもりがなくても、いつの間にか部品がないという状態が続きました。そこで、照明を工夫し部品を見え易くしたり、他のゴミと誤認しないように環境作りから始めました」
――どのようにパーツを組み上げていくのでしょうか
「パーツを組み上げるために使用するピンセットは、一般に市販されているものでは到底掴めないため、自分たちで形状を調整するなど、手作業で専用の道具を作りました。顕微鏡を覗きながらの作業には当然慣れていましたが、顕微鏡を使って組み立てるという経験はこれまでありませんでした。顕微鏡を覗きながら遠近感を掴み、ボールなどは、部品に焦点を合わせるとぼやけてしまうほど小さいため、その感覚を磨く為に最初は顕微鏡に頼ることをやめて真っ白なテーブル上で裸眼で組み立てることに挑戦してみました。その結果、最初の試作分では裸眼で組み立てるスキルが身に付きました。さらに感覚でボールを拾い上げることもできるようになりました」
――量産体制はどのように整えたのでしょうか
「これから量産体制に入るにあたり、個人の視力差などがあっては量産に適さないため、組み立て用の電子機器なども徐々に充実させていきました。そのための治具も確保できるようになり、機材も次第に揃ってきました」
――どのように技術を継承してきたのか
「現在、この世界最小のボールベアリングを扱えるのは4人です。この小さなボールベアリングに挑戦し、『やってやるぞ、組み上げてやるぞ』と意欲を持って取り組んでくれる人材が、次第に集まり始めました。それが2代目、3代目、4代目と続き、現在に至るまで、この技術を持ったメンバーの継承ができています。一子相伝で技術の継承を行っている状態ですが、ここからは4代目から枝分かれして、もっとメンバーが増えていくのではないかと考えています。そのためには、やはり注文が入らないといけません(笑)。注文が入れば、万全の体制がありますので、いくらでも製造できます」
4名の精鋭によって組み上げられる世界最小のボールベアリングは、日本の時計ビルダー・片山次朗氏が手がける大塚ローテックの「5号改」にも採用され、緻密な機械式時計の世界でも活躍している。一般的な機械式時計の自動巻きムーブメントでは、ローターの軸にボールベアリングが使われているため、メカ好きにはおなじみの存在だろう。表には出ないパーツだが、スムーズな動作を支えてくれる“縁の下の力持ち”といえる。身近なところではマウスのホイールにも使用されるなど、ミネベアミツミの製品は世界中のあらゆる場面で活躍している。精密部品は日本の得意分野であり、その技術力の高さを肌で実感した工場見学となった。
Text/平野翔太(WN編集部)