控えめなラグジュアリーを体現する時計ブランド「ローラン・フェリエ」の新CEOとムーブメント設計責任者が来日。イベント会場で気になった新作をまとめて紹介
2010年にスイスのジュネーブで創業した卓越したウオッチメイキングと現代的なデザインを融合した時計作りを行う【ローラン・フェリエ(LAURENT FERRIER)】のイベントが東京都内で行われ、その場にウオッチナビ編集部も招待された。会場には、新たにCEOに就任したフローラン・ペリション氏と創業者であるローラン・フェリエ氏の息子でムーブメント設計の責任者を務めるクリスチャン・フェリエ氏の姿があり、プレゼンテーションを通してブランドの歴史や新作モデルについての説明が行われた。本記事では、ウオッチナビ編集部が会場内で特に注目した2025年発表の新作2本を紹介する。
五大陸を文字盤に表現したGMTウオッチ
1本目は、2016年に発表された「ガレ・トラベラー グローブナイトブルー」を再解釈した新作、「クラシック・トラベラー グローブナイトブルー」だ。ブランド創業15周年を記念して登場したこのモデルは、ブランド初の“夜の地球”をモチーフにした歴史的なデザインを踏襲しつつ、現代的な感性でまとめたGMTウオッチとなっている。高度な手作業と卓越したデザインバランスにより、ローラン・フェリエの美意識を感じさせてくれる。
手間のかかるシャンルヴェ技法で仕上げた文字盤
ドーム型のホワイトゴールド製文字盤の中央には、ブルーエナメルで五大陸を描いた世界地図があしらわれ、その周囲をディープブルーの海が囲む。文字盤は、金属の土台に窪みを彫り、そこにエナメルを流し込んで焼成する「シャンルヴェ技法」で製作。完成には5回以上の焼成が必要で、膨大な時間を要する。夜の地球を再現するため、職人がエナメルゴールドで街明かりを手描きし、暗い海とのコントラストを際立たせている。外周部にはアンスラサイト・グレーの別体パーツを用い、手作業によりサーキュラーサテン仕上げを施している。
世界を飛び回る人々のために設計された「クラシック・トラベラー グローブナイトブルー」は、デュアルタイムゾーン機能にも独自の工夫が施されている。ケース左側に配置された2つのプッシャーで、時針によるローカルタイムを1時間単位で調整可能。分針の位置を変えることなく、上側のプッシャーで1時間進み、下側で1時間戻す仕組みとなる。さらに、3時位置の小窓に表示される日付は、ローカルタイムに連動し、午前0時に自動で切り替わるため、タイムゾーンの移動にも自然に対応。9時位置の小窓にはホームタイムが24時間表示で示され、昼夜の判別も一目瞭然だ。
高度な技術が求められるナチュラル脱進機を採用したムーブメント
「クラシック・トラベラー グローブナイトブルー」は、自動巻きキャリバーLF230.02を搭載。最大の特徴がナチュラル脱進機である。一般的なスイスレバー式と異なり、1回の振動でテンプに2度インパルスを与えるダブル・ダイレクトインパルス構造を採用。これにより、アンクルを介さず2枚のガンギ車が直接テンプにトルクを伝えることが可能となり、エネルギー効率が高く、摩擦も少ない。その結果、72時間のパワーリザーブを実現している。ナチュラル脱進機の実用化は非常に難しく、現代においても製造できるのは世界でもごく限られたメーカーのみである。このことからも、ローラン・フェリエの卓越した技術力がうかがえる。
もちろん、ムーブメントの装飾や仕上げにも一切の妥協はない。ブリッジにはコート・ド・ジュネーブ装飾、地板にはペルラージュ装飾が施されている。ブリッジの内角やネジには、職人の手によるブラックポリッシュ仕上げが採用されており、通常のポリッシュよりもはるかに手間がかかる技法である。サファイアクリスタル製のシースルーバックからは、こうした美しい仕上げが施されたムーブメントを鑑賞することができ、随所に施されたブラックポリッシュがさりげなくも存在感を放つ。まさに、ローラン・フェリエの伝統的な時計製造の精神を体現した仕上がりといえる。
「クラシック・トラベラー グローブナイトブルー」は、限定モデルではないものの、ナチュラル脱進機の製造には膨大な時間を要するためめ、特に年間の生産本数が限られている。そのため、手にすることができるのはごくわずかな顧客に限られる。ゆえに、オーナーとなった際の喜びは格別なものになるだろう。
ローラン・フェリエ「クラシック・トラベラー グローブナイトブルー」 Ref.LCF012.G1.NGE10 1683万円(ピンバックル)、1738万円(フォールディングクラスプ)/自動巻き(Cal.LF230.02)、毎時2万1600振動、72時間パワーリザーブ。ホワイトゴールドケース(シースルーバック)、レザーストラップ、ドーム型サファイアクリスタル風防。直径41mm、厚さ10mm。3気圧防水。
美しさと機能が調和した待望のレギュラーモデル
編集部が気になった2本目は、ホライズンブルーの文字盤を備えた「クラシック・オート」初のレギュラーモデル、「クラシック・オート ホライズン」だ。2024年に限定20本のセリエ・アトリエ コレクションとして発表された「クラシック・オート」は、瞬く間に完売。その成功を受けて、2025年4月にレギュラーモデルとして登場し、多くのファンが歓喜したことだろう。本モデルはクラシックウオッチでありながら、ブランドのスポーツモデル「スポーツ・オート」と同じ自動巻きキャリバーを搭載していることから、「オート」の名を冠している。ケースは、19世紀の懐中時計から着想を得たブランドを象徴するラウンドシェイプ。小石のように滑らかなフォルムは、「クラシック・コレクション」という名の由来にもなったデザインだ。
光の当たり方で変化するホライゾンブルー文字盤
目を引く爽やかなブルーの色調は、創業者ローラン・フェリエが日頃からオマージュを捧げる自然に着想を得たもの。柔らかく穏やかなホライゾンブルーは、光の加減によってパープルにも見え、文字盤に奥行きを与えている。地金を溶解液に浸してメッキ加工を施したガルバニック仕上げにより、高い耐腐食性と耐久性を実現。さらにその上に半透明のブルーラッカーを幾重にも重ね、垂直方向のサテン仕上げを施した。外周のミニッツトラックには、文字盤内側と異なるサーキュラーサテン仕上げを採用し、視認性を向上している。
3時位置の開口部にはスロープが設けられ、日付窓へと自然に視線を導く。白いディスクにスレートグレーで転写された日付は読み取りやすく、全体をダークブルーで縁取ることで存在感を高めた。文字盤中央には、ホワイトゴールド製のアセガイ(槍)型針とドロップ型インデックスを配し、すっきりとしたデザインに仕上げている。6時位置のスモールセコンドはスネイル仕上げで光の反射を抑え、ダークブルーの目盛りとホワイトゴールド製のバトン型針が組み合わされている。
ストラップには、フランス語で「もぐら」を意味するトープカラーの柔らかなゴートレザーを採用。茶色とグレーの中間色で落ち着いた印象を与え、裏地には同色のアルカンターラが使われている。
スポーツモデルにも採用される耐衝撃性も考慮された自動巻きムーブメント
搭載されるキャリバーLF270.01は、「スポーツ・オート」のためにローラン・フェリエが自社開発した2番目の自動巻きムーブメントで、すべての工程が自社工房で行われている。脱進機には、1754年にイギリスの時計師トーマス・マッジが開発し、現在も広く使われている伝統的なスイスレバー式を採用。高い耐久性や精度の安定性、メンテナンス性に優れていることから、数多くのスイス製ムーブメントで用いられている。自動巻き機構にはマイクロローターを採用。片方向巻き上げ式のラチェット式ボールベアリングによって、衝撃や振動への耐性が高められており、安心して日常使いできる設計となっている。また、マイクロローターをメインプレートとブリッジの間に挟み込む構造により、高い安定性と効率的な巻き上げを実現し、72時間以上のパワーリザーブを確保。ローターはプラチナ950製で、鳥の羽を思わせるエングレービングと回転方向を示す矢印のような杉綾模様が組み合わされている。
ムーブメントの仕上げには、139以上もの手作業による工程が必要とされる。なかでもローターブリッジには、熟練職人の手により複数の伝統的な仕上げが施されている。まず、部品のエッジを落として面に丸みを持たせる面取り加工が行われ、その面にはスイス時計製造の伝統技法に基づき、ジャンシャン(リンドウの茎から作られた棒)とダイヤモンドペーストを使ったポリッシュ仕上げが施される。さらに、地板の内角には、ポリッシュやサテン仕上げ、サーキュラーグレイン仕上げが幾重にも重ねられる。すべてのブリッジは、ロジウムメッキを施した後、湖の波模様を想起させるコート・ド・ジュネーブ装飾によって、美しい仕上げが施されている。
2024年にわずか25本のみの限定モデルとして登場した「クラシック・オート」に、ブルーをまとったレギュラーモデルが追加されたことは、嬉しいニュースである。日常使いに適したホライゾンブルーの文字盤に、独自の耐衝撃機構を備え、安心して普段使いできる点が魅力だ。シースルーバックからは、スイスの伝統技法による仕上げを存分に堪能することができ、クラシックな外観に高い実用性を兼ね備えたモデルに仕上がっている。
ローラン・フェリエ「クラシック・オート ホライズン」 Ref.LCF046.AC.CG1 841万5000円(ピンバックル)、869万円(フォールディングクラスプ)/自動巻き(Cal.LF270.01)、毎時2万8800振動、72時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、レザーストラップ、ドーム型サファイアクリスタル風防。直径40mm、厚さ11.94mm。3気圧防水。
問い合わせ先:スイスプライムブランズ TEL.03-6226-4650 https://laurentferrier.ch/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。
Text/平野翔太(WN編集部)