コラボによって生まれたハンドエングレービング&メティエ・ダールの限定ウオッチ【ルイ・エラール】

スイスの独立系時計ブランド【ルイ・エラール(Louis Erard)】が、伝統的な時計製造技法を用いた特別なコレクション「メティエ・ダール」のニューモデルを発表した。ケースやラグなど金属部品を総手彫り仕上げとした「グラヴェ・マン」と、2320 本に及ぶ純金ゴールドの糸による幾何学模様の文字盤を備える「フィル・ドール ルイ・エラール X ワイヤーアート」の2モデルがリリース。

 

ハンドエングレービングから生まれた「グラヴェ・マン」

世界99本限定で製作される「グラヴェ・マン」は、組み込まれる金属部品のすべてが熟練職人の手によって彫刻され、50時間以上にも及ぶ工程を経て完成する特別なタイムピースだ。2021年以来、ルイ・エラールはグラン・フー エナメルやギヨシェ、寄木細工といった伝統技術を通して“メティエ・ダール(芸術的な手仕事)“の領域を継続的に拡張。時計製造における最古の技巧のひとつ、ハンドエングレービング(総手彫り仕上げ)に対する純粋なオマージュである「グラヴェ・マン」も、その系譜に連なる。

「グラヴェ・マン」の核となる彫刻を手がけたのは、ウクライナ出身の時計師であり、アーティストでもあるマクシム・シャヴラクだ。アンティークウオッチを現代的なハイブリッド作品へと再構築する独自の作風で知られる彼は、自らの手で生み出した専用工具を操りながら、スチールに生命を吹き込む。本機ではブルイン、ドライポイント、ハンドシェーディングといった伝統的な手法を駆使し、ケース、ラグ、リューズ、ベゼル、バックルなど時計を構成するあらゆるパーツを作成。線一本ごとに深さを変え、形状や曲線に合わせて彫刻の動きが緻密に調整され、彫り上げた後、手と目によって陰影やテクスチャーの微細な調整を施している。ケースおよびラグは、18世紀のバロック様式に着想を得た花の彫刻をモチーフとしており、その繊細でありながら力強いデザインは本機の大きな見どころだ。

「ケースの彫刻は単なる装飾ではありません。金属に言葉を与える手段なのです。1年以上前に始まったデザイン上のやり取りが、やがて完全なクリエイティブ・パートナーシップへと発展しました。『グラヴェ・マン』はその結晶です。すべては出会いから、対話から、そして共有されたビジョンの火花から始まりました。私は自分の取り組みをルイ・エラールに示しました。彼らは私の作品にある生の感覚と真実性を見出しました。単なる視覚的装飾としてではなく、時計全体を彫刻を中心に再構築したいと望んだのです。空間を与え、スチールそのものに語らせるために」。シャヴラクは本機の制作過程について、こう振り返っている。

バロック様式のクロックへのオマージュとなる文字盤

ステンレススチール製の42mmケースに収められた文字盤にも、独自の美意識が貫かれている。バロック様式のクロックへのオマージュとして、光沢のあるブラックラッカー仕上げの文字盤に、ローマンインデックス、スモールセコンド、洋梨型のロジウム針をレイアウト。モノトーンでまとめられたクラシカルかつモダンな表情が何とも印象的だ。

本機は、完全なハンドエングレービングにより同一の個体は存在しない。通常、こうしたモデルは高額な時計の領域に属するが、ルイ・エラールはあえて価格を抑えることで、真のメティエ・ダールを限られたコレクターの領域から日常へと力強く引き寄せている。高いクオリティを持った腕時計をすべての人に届けようとする、ブランドの矜持も反映した一本ともいえるだろう。


ルイ・エラール「グラヴェ・マン」 Ref. LE34237GA82.BVAG170  139万7000円/自動巻き(Cal. SW261-1)、毎時2万8800振動、約38時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、グレインカーフレザーストラップ、サファイアクリスタル(両面反射防止加工)。直径42mm、厚さ12.25mm。5気圧防水。世界限定99本。

 

2320本の金糸で構築される立体的な文字盤

「フィル・ドール ルイ・エラール X ワイヤーアート」は、ワイヤーアートの創設者であるシルヴィ・ヴィラとマーク・ミールブラットとのコラボレーションによって誕生した。強烈な存在感を放つ幾何学模様の文字盤は、単なるプリントではなく、特殊な“配線”によって形成されたものだ。使用されるのは、人の髪の毛の3分の1という驚異的な細さを誇る、直径わずか25ミクロンの純金の糸。金糸2320本と3660の接点が、漆黒のラッカーダイヤル上にキューブ模様を描き出し、チャプターリングやインデックスまでも構築している。これらのパターンは2Dデジタル設計をもとにミクロン単位で補正され、地板には数千の微細なキャビティがレーザーで刻まれる。そこに電解メッキで金を流し込み、再プログラムされたボンディングマシンによって、すべての接点がマイクロソルダリング(高精度のはんだ付け)されることで、緻密かつ立体的な造形美が完成。本来はマイクロ回路を結線するための精密機械を用いて、このアーティスティックな文字盤が生まれているのだ。

ブランドの象徴であるモミの木型リューズ

直径39mmのステンレススチール製ケースは、3ピース構造を採用し、両面無反射コーティング付きのドーム型サファイアクリスタルと、ブランドの象徴であるモミの木型リューズを装備。ダイヤモンドポリッシュで角を施したソード型の針は、新たに制作されたものだ。このように「フィル・ドール ルイ・エラール X ワイヤーアート」は見どころが多く、さらに世界99本という希少性も魅力のひとつ。時計愛好家であれば、一度は目にしておきたい逸品となっている。


ルイ・エラール「フィル・ドール ルイ・エラール X ワイヤーアート」 Ref. LE34248AA52.BVA158  109万4500円/自動巻き(Cal.SW261-1)、毎時2万8800振動、約38時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、ベージュグレインカーフレザーストラップ、サファイアクリスタル風防(両面無反射コーティング)。直径39mm、厚さ12.82mm。5気圧防水。世界限定99本。

 

問い合わせ先:大沢商会 時計部 TEL.03-3527-2682 https://josawa-watch.com/louis_erard.html ※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。

Text/三宅裕丈