「ストラップの衣替え」でヴィンテージウオッチが一新。小さな幸福を添える手軽で贅沢な腕時計の楽しみ方

汗を気にせず腕時計を着用できる季節を迎え、いよいよレザーストラップが本領発揮となる。心豊かな腕時計生活を送るうえで、ぜひ取り入れたい習慣のひとつが「ストラップの衣替え」だ。季節に合わせて洋服を入れ替えるように、腕時計のストラップも素材や色を変えて楽しむ。お手持ちの時計のストラップを最後に交換したのはいつだろう? 購入時のまま、何年も同じものを使い続けている方も少なくないはずだ。それは確かに愛着の証しではあるが、ストラップ交換というのは「ただ古くなったから取り替える」だけでなく、時計と自分との関係を新たにするためのリフレッシュという側面もある。

ストラップ交換で愛用時計の新たな側面が見える

 

見慣れた時計が異なる素材や色、艶感のストラップをまとうだけで、「こんな表情を持っていたのか」と驚かされることがある。長年寄り添ったパートナーがふと装いを変えたときのような新鮮さ、そして惚れ直すような感覚。見た目の印象が大きく変わることでファッションとしての楽しみも広がり、さりげない“高見え”効果や、手元から湧き上がる高揚感も得られる。ストラップの衣替えは、日常に小さな幸福を添える手軽で贅沢な楽しみなのだ。

時計愛好家ならご存じのとおり、ワイヤーラグなど一部の特殊な仕様を除けば、多くの腕時計はストラップやブレスレットの交換が容易にできる構造になっている。近年ではクイックチェンジ式のストラップも普及してきたが、従来のオーソドックスな時計であれば、「バネ棒」と呼ばれる小さな金属パーツを外すだけでストラップを取り替えることが可能だ。ただし、作業には専用工具が必要であり、不慣れな状態で行うとケースを傷つけてしまう恐れもある。慣れるまでは、専門店に依頼するのが賢明だろう。

そこでおすすめしたいのが「石國商店 大手町店」。創業は1920年という日本最古のストラップメーカーとして知られる老舗だ。現在の取り扱い店は直営店を含めて全国14店舗となり、オンライン販売にも対応している。大手町店ではストラップの販売はもちろん、スイス製腕時計の販売や修理にも対応。東京メトロ大手町駅直結の「大手町ビル」内にあり、改札からすぐという抜群のアクセスを誇る。多忙なビジネスパーソンにとって、仕事の合間に立ち寄れる“駆け込み寺”的な存在でありながら、老舗の確かな技術とメイド・イン・ジャパンの品質を享受できる、そんな贅沢を味わえる一軒である。

大手町店では、自社ブランド「クニスタイン」と「ロコッテ」の2シリーズを中心にストラップを展開している。「クニスタイン」は、ベテラン職人が手掛ける最高峰ラインで、価格は1万3200円~約6万円。厳選された本革を使用し、表革を裏側に巻き込む“へり返し仕立て”で制作。装飾を控え、素材本来の質感を引き出した正統派の仕上がりだ。一方の「ロコッテ」は、素材やカラーバリエーションの豊富さが魅力で、価格は4400円〜約3万円。手軽にストラップ交換を楽しめるポジションながら、ヨーロッパ伝統の“切り身仕立て”を採用し、コバを塗り重ねて仕上げる本格派だ。

「ストラップの衣替え」を目的に訪れた筆者は、ロレックスの1930年代製ヴィンテージモデルを持参。店内で対応してくれたのは、時計修理技能士資格を持つ小売部部長・猪羽次郎さんだ。ストラップに関するあらゆる質問に、猪羽さんは即座に、しかも的確に答えてくれる。その知識の確かさに、自然と信頼感が湧いてくる。そこで今回は、猪羽さんにストラップの“お見立て”をお願いすることにした。膨大なバリエーションの中から自分で選ぶのは骨が折れるし、プロの審美眼に委ねれば間違いはないという魂胆だ。

猪羽さんが提案してくれたカラーリングは、どれも時計の印象をがらりと変える。それぞれに個性があり、どれも魅力的だ。

 

猪羽さんが選んでくれたのは、ワニ革素材の3本。クラシックに馴染むブラウン(クロコダイルレザー)のほか、ピンクとグリーン(いずれもアリゲーターレザー)という意外性のあるカラーが並ぶ。普段はどうしても無難な色を選びがちな筆者にとって、この鮮やかなトーンは新鮮で、心をくすぐられた。悩みに悩んだ末、最終的にやはり王道のブラウンを選んだものの、艶やかなクロコダイルを合わせただけで、時計が驚くほど華やかに、そして気品を帯びて蘇った。レトロなフェイスに光沢のあるストラップが映え、まるで新しい時計を手に入れたかのような高揚感がある。


この取材の場には別の編集者も居合わせており、ストラップ交換の予定はなかったものの取材しているうちに心が動いたようだ。左腕から愛機のオメガ「スピードマスター」を外し、猪羽さんの見立てのもと、カイマンのアッシュグレーに交換することに。オメガ純正のNATOストラップもスタイリッシュだったが、「少しフォーマルな印象にしたいと思っていた」という本人の希望が、思いがけずこの場で叶うことになった。


選んだストラップは、その場で猪羽さんが手際よく取り付けてくれた。正確な時間は測っていないが、作業はわずか数分程度だっただろう。筆者は尾錠穴をひとつ増やしてもらったが、それも即座に対応していただけた。熟練職人ならではの滑らかな手つきだ。

新しいストラップをまとった腕時計を眺めてうっとりしていると、ふと周囲から賑やかな声が聞こえてきた。編集者が選んだカイマンのアッシュグレーは、店内で最も人気の色で、偶然にも他の女性3名も同じものに取り替えていたのだ。「合わせる時計ごとに魅力が引き立つ!どれもドレッシーで素敵!」と皆さん興奮気味で、楽しそうにリストショットを撮影し始めていた。思いがけない一期一会の楽しいひとときだった。

手軽な価格帯と豊富なバリエーションを掲げ、“華やかな彩りで、腕元を美しく演出する”をテーマとするロコッテだが、品質は本格派だ。熟練の技を持つ職人が、厳選された国産レザーを丁寧に手縫いで仕上げている。素材はクロコダイルやカーフなどの定番はもちろん、オーストリッチ、リザード、コードバン、シャーク、パイソン(オーダーメイド)と幅広い。オーダーメイドにも対応しており、素材の基本料金にプラス約1万円で、納期は約3週間。ストラップのオーダーメイドは、上質な趣味として憧れを感じさせる魅力がある。

時計本体を何本も揃えるよりも、もっと手軽に時計趣味を豊かに楽しめるのがストラップ交換だ。ぜひ、お手持ちの腕時計でその魅力を体験してみてほしい。

 

【石國商店 大手町店】


住所:東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビルディング地下2階
TEL:03-3214-1492
営業時間:10:00~19:00
定休日:土・日・祝日(ビル閉館日に準ずる)

https://1492.co.jp/

 

Text/高井智世