パーツの徹底分解でわかったユリス・ナルダンのフラッグシップ「マリーン クロノメーター」が秘める驚異の作り込み【外装編】
ユリス・ナルダンは、言わずと知れた創業170年を数えるスイス時計界の名門。2017年から新作発表の場をSIHHに移すなど、新たな局面を迎えている老舗の本領を、フラッグシップモデル「マリーン クロノメーター」から紐解いていきます。今回は、外装について詳しく見ていきましょう。
複合パーツの融合が実現したシャープかつ滑らかな造形美
ユリス・ナルダンの正規アフターサービスを担当する技術者は、マリーン クロノメーターは非常に手の込んだ造りになっていると言います。
伝統の航海用マリンクロノメーターのデザインを汲み取った外装は、ベゼルの幅を狭くして文字盤面積を最大化。視認性に配慮した設計となっています。
一方で、サイドから見たときにはしっかりとしたボリュームが感じられます。これは、ベゼルサイドに施されたコインエッジの刻みが柔らかくもしっかりと彫り込まれているから。彫り込みの絶妙なさじ加減もまた、こだわりを感じさせるポイントです。
外装パーツを徹底分解
マリーン クロノメーターのケースは、大きく「ミドルケース」「ラグ一体型ケースバック」「ベゼル」「リューズガード」で構成されています。
それぞれを仕上げ切ってから組み上げることで、完成品ではケースのキワまで完璧に整った状態を作り上げているのです。
この状態を一体成型で作り上げるのは至難の技。もし仮に作ることができても、その価格はとてつもなく高額になるでしょう。
「面白いのは、リューズガードにヘアラインを入れている点。一般的にフルポリッシュの方が手間は抑えられるはずですが、マリーン クロノメーターではあえて手を加えているんです。これは正面から見たときに光の反射を防ぎ、時計の最大の魅力である視認性を損なわないための工夫と言えるでしょう」(カスタマーサービス責任者・田澤さん)
安心して着けられる様々な配慮
細かな配慮は素材の使い分けにも見られます。一見しただけでは違いがわかりませんが、実はSSケースのモデルでも、肌に触れる部分はチタンが使われているのです。こうした金属アレルギー対策まで含め、ユリス・ナルダンは時計をデザインしているのです。
ちなみにストラップの固定はビス止めですが、これも手が込んでいます。ビスは長いものと短いものの2種類を組み合わせており、長い方の根元には外側にネジが切ってあり、ここでケースとストラップを固定。さらに先端の内側にもネジを切り、短い方を合わせるという構造になっています。
もし仮に短い方のネジが脱落しても長い方のパーツだけでストラップが支持されるので、突然の時計落下が防げるでしょう。
デザインだけではないユーザーファーストな設計に感服
パーツを分解してわかったのは、至るところに実使用を想定した構造が盛り込まれていたこと。それも、長い時計製造の経験がなくては気づくことができない心配りばかりでした。
航海用マリンクロノメーターを想起させるフェイスが魅力のマリーン クロノメーターですが、世界で高い評価を得ている本当の理由は、クラシックなフェイスに秘められた「ユーザーファースト」なブランドの姿勢にあると言えるでしょう。