ハイブランドがSSを使うことは、もはや当たり前の時代になりました。いま、新興ジュネーブ・ブランドは、新素材の新たな価値創造を目指しています。
素材加工の成熟を待って創られた次世代の時計
1970年代に興った「ラグジュ アリー・スポーツ」は、パテック フ ィリップ、ヴァシュロン・コンスタ ンタンというハイブランドが、実用素材であるステンレススチールでスポーツ・ウオッチを作り出した点で 革新的でした。加えて、いまほど精密な加工技術が成熟していなかった時代に、10㎜ほどにケースの厚みを抑えながら一定の防水性能を確保したことも語り草となっています。
一方、いままさにジュネーブでス ポーツ・ウオッチを手がける各社が 目指しているのは、厚みや防水性よりも〝軽さ〞である。ステンレススチールでは望めない軽量性を求めて各社が選んだのは、チタンやカーボ ンといった高機能素材。ただし、十分に加工技術が成熟しなければ挑む価値がないことを、ジュネーブのブランドは知っています。だから開発を本格化させるのは、厳選素材を最高の状態 にできる環境が整ってからなのです。
振り返ってみればフォージドカーボ ンケースが出始めた2000年代 に、外装のコンプリケーションとも称されるフランク ミュラーのトノウ カーベックスケースが出来上がるとは、誰が予想できただろうか。そして、その技術の成熟が同じウォッチ ランドに属する、クストスというモンスターブランドをさらなる高みへと導いたのです。
ジュネーブのブランドは必ずしも パイオニアを狙っていない。むしろ、 機が熟したときに徹底した作り込み で他者を圧倒することが本流と言えるかもしれない。先人が培ってきた伝統に、最先端の技術と素材を組み合わせ、さらに独自の感性を融合させて出来上がるジュネーブ・スポー ツ・ウオッチ。その定義は、孤高の天才時計師F.P.ジュルヌが証明したように、いくら軽く堅牢になろうと、エレガントさを失わないタイムピ ースだと言えるでしょう。
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