『世界の腕時計』初代編集長が30年前に発見した、幻のロレックス製ダイバーズ「パネライ」に思うこと
現在では1000万円オーバーのパネライ×ロレックスのダイバーズ
1993年にブランドデビューするやいなや、世界中に大ブームを巻き起こした「パネライ」。いまではすっかりメジャーブランドへと成長したパネライだが、日本で初めて紹介したのは『世界の腕時計 第2号』(1990年5月発行)のアンティークカタログのページだった。某アンティークショップから「サブマリーナー」や「シードゥエラー」とは違う、まったく未知のロレックス製ダイバーズを発見したとの一本の電話が、そのきっかけだったのである。
文字盤に「ROLEX」の表記がなく、「PANERAI」と印されている。しかしムーブメントは明らかにロレックス製で、刻印も入っていた。ロレックスが他社へ自社製ムーブメントを提供することはありえない(と、当時は考えられていたため)ので、これはロレックスの知られざるダイバーズモデルに違いない、とショップのオーナーが息巻いて連絡してきたのだった。
仕入れ先は極秘なので詳細は不明だったが、イタリアの政府官給品、つまり軍用時計であることは間違いないとの見方だった。しかしながら「PANERAIが単にショップ名」のため、「ショップが勝手にカスタマイズした製品では?」という疑念もあった。であるから、その時は大々的に紹介することもなく、カタログページの端っこ4×6cmくらいの小さなスペースに「ロレックス パネライ入荷」と掲載。価格は、ロレックス製クロノグラフやバブルバックが80万円前後の相場だった当時、それらの約2倍にあたる150万円という強気の値付けだったことを記憶している。
あの希少ダイバーズを発見した感動を、いまでも鮮明に覚えている
パネライが世にデビューしたのは、その3年後のこと。日本の時計業界に同社の関連資料がまったく存在しなかった時代に、まさしくそれは“日本初のパネライ”だったのだ。あれから30年経ったいま、「あの時計はすぐに売れたのだろうか?」と、ふと思い出すことがある。ショップはかなり前に閉店してしまい連絡も取れなくなってしまったが、めずらしいロレックスだったのできっとすぐに売れてしまったことだろう。いま思えば、世紀の大発見だった。心残りと言えば、『世界の腕時計』に小さな写真で掲載してしまったことである。
その後、1990年代末から2000年代初頭にかけてパネライブームが到来。しかしその8~10年ほど前から、日本のアンティーク業界では静かに“謎のロレックス”として、注目を集めていたのだった。