ダイバーズウオッチって何が凄いの? 時計技術の集大成である潜水時計を簡単攻略【ヒストリー編】

高い防水性を極めたダイバーズウオッチは腕時計ビギナーからプロフェッショナルまで幅広い層から支持を受けています。なぜ、それほどに愛されるのか? まずは偉大な功績を残した名門5ブランドからその歴史を紐解いていき、潜水時計の魅力に迫ります。

 

ロレックスが画期的な完全防水ケースを開発したのが始まり

20世紀初頭、懐中時計から腕時計に移行すると、時計は湿気や埃に直面しました。当初は故障も多く、信頼度は低かったのです。そこに目を付けたのが、当時は後発ブランドのひとつに過ぎなかったロレックスでした。1926年に特許を取得したオイスターケースは、それまで のようにパーツを組み上げるのではなく、金属の塊からケースを削り出すもの。その実力を最初に証明したのがグライツ嬢によるドーバー海峡横断。このとき初めて、腕時計は実用品として広く認知されたといえます。

 

写真上/1926年製ロレックス。金属の塊をくり抜いて成型し、ねじ込み式のリューズと裏蓋で完全に密閉したオイスターケースを採用。下/グライツ嬢とオイスターモデルの偉業をアピールすべく、ロレックスはロンドンの大衆紙『デイリー・メール』に全面広告を掲載しました。

 

名作シーマスターの原型となる時計が誕生

オイスターケースが実用一辺倒だったのに対し、当時流行していたアール・デコ調の角型ケースで巻き返したのがオメガのマリーンです。二層スライド式ケースによって温度差と圧力から時計を保護し、シーマスター誕生への道を切り開いたともいえます。このロレックスとオメガは以後もサブマリーナー、シーマスターという偉大な潜水時計によって、海の男たちの人気を二分することになります。

写真上/二重ケースで特許を取得したオメガのマリーン(1932年)。135m防水を誇ったが、リューズ操作のたびにケースから出す必要がありました。下/シーマスターは1948年の誕生当初は日常生活防水程度でしたが、1957年に200m防水へと大幅にスペックアップしたシーマスター300が誕生。

 

戦争によって実用性が一気に向上

こうして誕生した防水時計は、一般的な工業製品と同じく、皮肉にも戦争によって大きな技術的革新を遂げます。最初の潜水ミッションウオッチといえば、パネライがあまりにも有名です。当時、イタリア海軍は潜水特殊部隊の創設に伴い、真っ暗な海中でも視認できるダイバーズウオッチを必要としていました。過酷な環境下でも耐える防水性と堅牢性、 瞬時の判読性を備えた防水時計を、パネライは1936年の試作品を経て、1938年にラジオミールとして納品しています。

写真上/1936年にパネライが手がけた世界初の潜水ミッションウオッチ。視認性を高めるため、バー、ローマ数字、アラビア数字を使用したインデックスが特徴的でした。下/敵国を震え上がらせたイタリア海軍特殊潜水部隊。パネライからの供給を受けて、より高度な作戦が可能となりました。

 

回転ベゼルと蛍光インデックスが登場

第二次世界大戦後1953年には、フランス海軍の要請を受けてブランパンがフィフティ ファゾムスを開発。潜水経過時間を計測するのに便利な回転ベゼルや暗所でも視認できる蛍光インデックスを備え、1960年代に盛り上がった海洋探検や海洋生物保護プロジェクトでも活躍。映画『沈黙の世界』の撮影時に、アクアラングを発明したジャック・イブ・クストーが着用したことでも有名になりました。

1953年にブランパンがフランス海軍ボブ・マルビエ中佐の求める回転ベゼル付きのダイバーズウオッチを開発。フィフティ ファゾムスとは防水性の「91.45m」を意味します。

 

傑作が次々と生まれる発展期から現在へ

この時期、IWCのアクアタイマーなど現在につながる傑作が次々と生まれ、ダイビングの レジャー化に伴って、人々のライフスタイルに広く浸透していきました。また、1965年に国産初のダイバーズを完成させたセイコーは、10 年後、L字型パッキンにより、ヘリウム排出バルブなしでも飽和潜水に対応する画期的な高密度技術を開発。こうしてダイバーズ用に開発された技術は、腕時計全体の性能向上に大きく貢献していったのです。

写真上/1967年に誕生したアクアタイマーは、経過時間計測用の回転リングを風防の内側に装備するインナーベゼルの先駆けとなりました。中央&下/1975年にセイコーはL字型パッキンを開発して、高度な気密性を実現。排出バルブなしで飽和潜水に対応しました。