1995年の創業時からムーブメントの自社開発・製造を行い、そのほとんどに取得困難と言われる「ジュネーブ・シール」認定を受けてきた、超絶ブランド「ロジェ・デュブイ」。彼らが7月に発表した最新作から、機械式時計における「近未来デザイン」について考察する。
TEXT / Daisuke Suito(WN)
マニュファクチュールのスケルトンウオッチは驚異的
極限まで無駄を削ぎ落としたストイックなプロダクトを愛する人は多い。一方で、一定のテーマや主義・主張に則った装飾を持つものに対して共感を覚える人もいる。
昨今の機械式時計で、とくにハイプライスなブランド群の腕時計は「スケルトン」デザインがトレンドとなっている。文字盤を持たないばかりか、ムーブメントさえも肉抜きがほどこされたタイムピース。一般的に地板や受け板などの板状パーツは肉厚なほどムーブメントは堅牢とされるため、それらスケルトンデザインは頑丈さの対極にあるといえる。
またスケルトンデザインは、外部から仕入れたムーブメントをベースにした場合、かなりの確率で愛好家からそのベースムーブメントを言い当てられる。もちろんそれ自体は悪ではないが、ベースムーブという共通言語がある場合はどうしても価格設定とのバランスに話題が向きがちで、時計本来の魅力を語るところまで辿り着きにくい。
一方、自社で開発・設計・製造を行う生粋のマニュファクチュールは、ムーブメントをイチから設計でき、妥協なく時計のコンセプトに合わせたタイムピースを作り出せる。もちろん単価の決まったパーツを買い付けるわけではないので1つの腕時計を店頭に並べるまでに自社でかけた手間がそのまま販売価格に反映されるのだ。程度の大小はあるものの“スケルトン”デザインは仕上げる面が多くなるため高額になるのはやむを得ないし、それを購入する人も理解している。だからこそ価格を超越した時計の本質で気の合う仲間と語り合うことができ、価値観を共にする強固な時計愛好家のネットワークが築かれていくのだ。
さて、これらを踏まえてロジェ・デュブイである。このブランドは、10数年で30以上の自社製キャリバーを開発・製造してきた新興ハイエンドマニュファクチュールのパイオニアだ。歴代の自社製キャリバーの中にはダブルトゥールビヨンやミニッツリピーターなどのコンプリケーションも数多い。もちろん、スケルトンデザインも複数のバリエーションを手がけてきた。
そんなロジェ・デュブイは、2015年に「アストラル・スケルトン」のテーマとともに発表した「エクスカリバー スパイダー 」以降、スケルトンウオッチの開発によりいっそう注力していく。主ゼンマイが見える香箱を支えるのは星形のブリッジ。そこからさらに光の筋のように幻想的に伸びるいくつものプレートによって輪列が支えられる。まさしく機械式時計内部に作り出される「小宇宙」を描き切った「エクスカリバー スパイダー」の意匠は、「ルール無用=#NoRulesOurGame」を標榜するブランドにとってもはや欠かせないものとなった。
ピットイン時に行われるあの超高速作業を自分で行う愉悦
最新作となる「エクスカリバー スパイダー ピレリ」も、フラッグシップ機のデザインを踏襲。マイクロローター自動巻きと香箱、テンプの重要部を際立たせたデザインと、有名なピレリタイヤとのコラボレーションからなる本機は、“シリアルイノベーター”ロジェ・デュブイの新たな挑戦として、「ワンクリックチェンジ」機構が盛り込まれている。
この機構のインスピレーションの源泉は、モータースポーツでのピットイン作業。超高速でのタイヤ交換などと同じように一瞬でベゼルやリューズトップ、ストラップが変更できるという。無駄を削ぎ落としながらパワフルさを追求したデザインに、状況に合わせてチェンジできるカスタマイズ性など、まさしくモータースポーツの世界を封じ込めたような一本に仕上がっている。
主ゼンマイを動力とする機械式時計の伝統的な構造ではあるものの、そこに古臭さは微塵も感じられない。こうした設計、素材、パフォーマンスのすべてに革新性を漂わせる「エクスカリバー スパイダー ピレリ」のようなエモーショナルなタイムピースこそ、100年以上の歴史ある機械式腕時計の次の世代を支えていくのかもしれない。
問い合わせ先:ロジェ・デュブイ Tel.03-4461-8040
https://www.rogerdubuis.com