<取材協力>
ブライトリング
初代レオン・ブライトリングがスイスのサンティミエに時計工房を開いた1884年以来、【ブライトリング(BREITLING)】はクロノグラフの進化を牽引し、歴史に残る数々の傑作ツールウオッチを生み出してきた。ブランド創業140年にあたる2024年を通じて連載する本企画では、30年にわたってブライトリングを見続け、自身もブライトリングユーザーであるベテラン時計ジャーナリスト・大野高広が、ニューモデルの魅力とともにブランドにまつわる歴史をひも解いていく。その第1話は、ブライトリングを象徴する航空時計「ナビタイマー」を深掘りする。
新しい「3針モデル&GMT」の誕生で、70周年を機に始まったナビタイマーのリニューアルが完了
ブライトリングは創業140周年を記念して、140年の間に起きた“初めての物語”を伝える年間プロジェクト「140 YEARS OF FIRSTS」を進めている。その第1弾が、クロノグラフと計算尺を組み合わせた世界初のパイロットウオッチ、ナビタイマーである。
今春第1弾として鮮烈なデビューを飾った新作は「ナビタイマー オートマチック GMT 41」と「ナビタイマー オートマチック 41」。ナビタイマー70周年にあたる2022年に始まったナビタイマー コレクションのリニューアルプロジェクトは、これをもって完了したことを意味する。
両モデルとも適度な存在感を主張する41mmケースで、アイコニックな回転計算尺を備えながらクロノグラフを省き、バランスの取れたダイアルとドーム型サファイアクリスタルが、モダンレトロな雰囲気を強調している。タキメーターのない回転計算尺は、既存の32mmや36mmのようなビーズ装飾ではなく、モダンな刻み入りの滑り止めとし、サテンとポリッシュを交互に施すことにより、立体感あふれる生き生きとした仕上がりだ。
アイスブルー、グリーンといったトレンド色や、ブラック、シルバーといった定番色など、多彩な文字盤カラーから選ぶ楽しさもある。マットな質感のアリゲーターストラップか、装着感のいい7連ブレス(バタフライ・フォールディング・クラスプ付き)を組み合わせて、自分好みの一本を手に入れたい。
■2024年新作「ナビタイマー オートマチック GMT 41」
6時位置にデイト表示、インナースケールに24時間表示を備えたGMTモデル。その知的なデザインは、グローバルに活躍するビジネスパーソンによく似合う。ケース素材はステンレススチールのほか、18Kレッドゴールド、スチール&ゴールドの3タイプを用意。
↑Ref.A32310251B1A1 81万8400円/自動巻き(ブライトリングCal.32)、毎時2万8800振動、約42時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース&ブレスレット、ドーム型サファイアクリスタル風防(両面無反射加工)。直径41mm、厚さ11.65mm。3気圧防水。
■2024年新作「ナビタイマー オートマチック 41」
GMT機能とデイト表示のない、よりすっきりとしたルックスが、回転計算尺の精緻な意匠を際立たせる3針オートマチック。文字盤カラーやケース素材によって、腕元を華やかにもアクティブにも格上げしてくれる。
↑Ref.U17329F41G1U1 130万6800円/自動巻き(ブライトリングCal.17)、毎時2万8800振動、約38時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(18Kレッドゴールドベゼル)、ステンレススチール&18KRGブレスレット、ドーム型サファイアクリスタル風防(両面無反射加工)。直径41mm、厚さ11.65mm。3気圧防水。
歴史に敬意を払いながらモダンレトロにアップデート
ナビタイマー コレクションで最初にリニューアルされた中核モデル「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43」を例に、最新世代の魅力とディテールを掘り下げてみよう。
2022年に一新された現行モデルの外装は、まずケースが丁寧なサテン&ポリッシュ仕上げとなり、初代ナビタイマーRef.806にならってタキメーターが外され、回転計算尺の角度はやや平らに近づいて、ダイアルがドーム状に。つまりアイコニックな意匠を大切に受け継ぎながら、ヴィンテージ感を打ち出したわけだ。
文字盤の12時位置にはAOPA(世界最大のオーナーパイロット協会)ロゴが復活し、70年前と変わらないオリジナリティと風格を漂わせている。しかも、歴史的アーカイブを単に再現したのではない。開発チームが一丸となって“完璧”を目指し、現代の技術を駆使して、できること全てを革新したという。
■「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43」
航空クロノグラフの不朽の名作が、70周年を機にアップデート。遠くから見ても一目でナビタイマーとわかる回転計算尺や端正なシンメトリー文字盤など、歴史的なデザインコードを継承しながら、細部を見ると、現代的な洗練が加えられたことは明らか。サイズは41mm、43mm、46mmの3サイズ展開で、文字盤カラーはブラック、シルバーのほか、アイスブルー、ミントグリーン、カッパーなど、新しいカラー展開も話題に。
↑Ref.AB0138211B1P1 118万8000円/自動巻き(自社製ブライトリングCal.01)、毎時2万8800振動、約70時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、アリゲーターストラップ、ドーム型サファイアクリスタル風防(両面無反射加工)。直径43mm、厚さ13.6mm。3気圧防水。
↑ベゼル側面の接触面積が広がり、操作感が向上。ドーム型サファイアクリスタルのレンズ効果によって計算尺の緻密な目盛りも視認しやすい。
↑文字盤12時位置に、歴史的なAOPAの翼のエンブレムが復活。そのほか日付の位置変更やタキメーターの廃止、インデックスの多面形状化など、ダイアル構成を整理・改善した。
↑約70時間のパワーリザーブやCOSC認定の高精度、時間帯を気にせず日付早送りが可能な使い勝手など、高い完成度を誇る自社製キャリバー01を搭載。
世界で初めて航空用回転計算尺を搭載した伝説的ヒストリー
創業者の孫にあたるウィリー・ブライトリングが3代目に就任したのは、学業を終えたばかりの19歳のとき。2年後の1934年には、リセット専用の第2プッシュボタンを開発して特許を取得した。リューズの両側に独立したふたつのプッシュボタンを装備する近代クロノグラフの原型が、ここに完成したのである。
1938年、ブライトリングは社内に航空計器担当部門を新設し、高精度な航空用計器とパイロット用クロノグラフのメーカーとして揺るぎない地位を築いていった。そして世界初のジェット旅客機がロンドン-ヨハネスブルグ間の定期運航を開始した1952年、世界最大のパイロットクラブであるAOPAのために、航空用回転計算尺付きの腕時計型クロノグラフの開発に着手する。
本来の航空用回転計算尺は、かつてパイロットたちが“コンピュータ”と呼んだ板状のもの。コクピットで膝の上に置いて回し、クロノグラフ計測と併せて飛行データを計算しながら空を飛んでいた。1952年当時の航空界で標準となっていた「タイプ52」と呼ばれる航空用回転計算尺を、そのままクロノグラフに搭載するというアイデアを採用したのがナビタイマーである。
↑1954年、最初のナビタイマーRef.806がAOPA会員に独占的に納品された。文字盤の12時位置にAOPAロゴを掲げ、回転計算尺の周囲には滑り止めとしてビーズ装飾が施され、バルジュー社製のCal.72を搭載していた。
モデル名は、ナビゲーション(航法、目的地までの経路)とタイマー(計時装置)を組み合わせた造語。初代ナビタイマーRef.806は、簡易計算や単位換算はもちろん、燃料消費量から地上速度計算、1分あたりの飛行マイル数、平均上昇・下降速度、上昇・下降距離など、あらゆる航空計算を即座に行うことができた。その信頼性の高さが評価され、AOPAのオフィシャルウオッチにも採用された。
↑1950年代のナビタイマーの広告。メインコピーは「for the plane-for the pilot」(飛行機、そしてパイロットのために)
世界のパイロットたちがナビタイマーを歓迎したのは言うまでもない。唯一無二の「計器」としてスタイルが評判を呼び、各界の才能豊かな著名人を魅了した。宇宙飛行士のスコット・カーペンター、ジャズトランぺット奏者のマイルス・デイビス、音楽・映像アーチストのセルジュ・ゲンズブール、F1チャンピオンのジム・クラークのほか、世界中のスタイルアイコンがナビタイマーを愛用した。
↑モダンジャズの“帝王”マイルス・デイビス。ナビタイマーを装着してステージに立つ写真が数多く残されている(写真は1965年)
現在のジェット機は自動操縦機能が高度に発達しているが、燃料計を含めてアナログ計器に命を預ける小型プロペラ機も多い。そこで頼りになるのが、航空用回転計算尺だ。プロペラ機だけでなく、万が一にも計器が故障したとき、ナビタイマーはパイロットの最後の命綱になりえる。ちなみに回転計算尺は掛け算や割り算、為替換算なども簡単に行えるため、ユーロ、ポンド、スイスフランなどの煩わしいレート計算が必要な欧州周遊旅行の際など、日常でも便利に使える。
ナビタイマーを軸にブライトリングとAOPAの信頼関係は現在も続く
1950年代に航空時計界のゲームチェンジャーとなったナビタイマーは、その後も基本スタイルを継承しながら、パフォーマンスのみを進化させていった。風防は傷の付きにくいサファイアクリスタルとなり、高高度の太陽光下でも瞬時の視認性を確保するため両面を無反射コーティング。ケースのステンレススチールには、磁気を帯びにくく強度に優れた316Lが使用されている。そして現行クロノグラフは、ブライトリング初の自社開発・製造ムーブメントであるCal.01を搭載。つまり外装にも中身にも、ブライトリングの強烈なアイデンティティと時計作りへの情熱が凝縮されている。
ナビタイマーは現在でもAOPAのとパートナーシップを継続しており、そのWEBサイトに表示されているブライトリングのGMTアイコンをクリックすると、「ナビタイマー B01 クロノグラフ」がポップアップして、ローカルタイムを表示してくれる。両者の信頼関係は、70年を超えて未来へと続いているのだ。
そしてまた、2016年にはスイス航空(SWISS International Air Lines)の公式タイムキーパーに就任。同航空会社の全てのフライトに“搭乗”しているほか、あらゆる空港で深い関係を示すポスターやムービーに出会うことができる。なお一部路線の機内では、特別な限定コラボレーション・ナビタイマーが購入可能だ。こうして航空界では、いまなおナビタイマーが名実ともに航空ツールのマスターピースとして認知されている。その歴史と実績を知れば、航空ファンならずとも、ナビタイマーの時代を超えた機能美を愛さずにはいられないはずだ。
問い合わせ先:ブライトリング・ジャパン TEL.0120-105-707 https://www.breitling.com/jp-ja/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。
Text/大野高広 Photo/大泉綾平
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