11月13日に発表された時計界で最も栄えある賞「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ」にて、IWCの「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」が2024年の最優秀賞に相当する「金の針賞」に輝いた。この新作「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」は、最も高精度な月齢表示のギネス記録を更新したエポックメイキングなモデルである。ウオッチナビ編集部は今回の受賞に先立ち、去る10月某日にシャフハウゼンから来日したIWCミュージアム館長のデイヴィッド・セイファー氏にインタビューを実施しており、IWCの永久カレンダー開発史などについて話を聞いていた。
IWC初の永久カレンダーは1977年に発表したポケットウオッチ
今回、IWC銀座ブティックのオープン10周年のために駆けつけたデイヴィッド・セイファー氏。彼は自身の来日に先駆け、特別展「スペシャル・ギャラリー」のために永久カレンダーを搭載した複数のアーカイブピースを日本に送り込んでいた。永久カレンダーに限定した理由はもちろん、今年の新作に「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」があるからだ。そもそもIWCの155年以上に及ぶ歴史の中で、永久カレンダーモデルは1977年発表のポケットウオッチで初登場したのだという。
「1977年のポケットウオッチは、今年で90歳を迎える“IWCの頭脳”クルト・クラウスが手がけたものです。これがIWCの歴史上、初のパーペチュアル(=永久)カレンダーです。当時の彼はポケットウオッチの開発を好みましたが、すでに世の中では腕時計が浸透していましたし、他社からパーペチュアルカレンダーウオッチも出ていた時代。IWCも腕時計でのカレンダーウオッチ開発をするようクルト・クラウスに要請したのです」(セイファー氏)
そして1985年に披露したのが、時計史に名を残す傑作「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー」である。 「ダ・ヴィンチは、あらゆる点でユニークでした。カレンダーの調整はリューズひとつで行うことができ、4桁の西暦表示も備えています。クロノグラフとムーンフェイズカレンダーを有していながら、他社に抜きん出て魅力的なプライスまでも実現したのです。これは汎用ムーブメントをベースに永久カレンダーを載せる構造を実現させたクルト・クラウスの功績。大好評を博したダ・ヴィンチにより、IWCはラグジュアリーブランドとの認知を得るようになっていったのです」(セイファー氏) そのダ・ヴィンチを含め、一般的な永久カレンダーの構造は2099年までは調整不要で正確な日付表示に対応する。これは2100年、2200年……と100年周期で「閏年がない」ルールが現在のグレゴリオ歴にあることに起因する。一方、この問題さえもクリアした「セキュラー・パーペチュアルカレンダー」と呼ばれる発展型もあるのだが、これまでに数社しか作り得ていない。それほど数世紀にわたる正確なカレンダー表示は難しいのである。対して、IWCの2024年新作「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」は、400年で1周するギアを組み込み、さらなる例外となる400年周期での「閏年になる」ルールさえも考慮。4000年のときの閏年の扱いはまだ決まっていないため、理論上は3900年までの正確なカレンダー表示を可能してみせた。 「クルト・クラウスが礎を築いたパーペチュアルカレンダー開発は、今も変わらずIWCの重要なコンプリケーション。22兆通り以上のシミュレーションを経て完成させ、4500万年の精度を実現したダブルムーンフェイズ表示をも組み込んだエターナル・カレンダーの発表をとても誇らしく思っています」
シャフハウゼンのIWCミュージアムとIWC銀座ブティックについて
今回、複雑時計について色々と教えてくれたセイファー氏は、自身の卒業論文のテーマにIWCを選んだことがきっかけとなって現職に就任したのだという。現在も日々IWCについての研究を続けながら、ミュージアムの館長として多くの来館者に歴史を伝えている。IWCの公式ホームページの歴史パートが非常に充実しているのは、間違いなくセイファー氏の貢献である。 「卒業論文のテーマを決めるとき、あらゆる企業に断られる中でIWCだけが情報をオープンにしてくれたのです。このブランドには創業者の時代にさかのぼれるほど多くの資料が残されていました。私から見たらまさに“宝の山”で、これらの内容をまとめ、次の世代に伝えていくことが自分の使命だと思ったのです。おかげさまで現在のミュージアムには日々多くの方が世界中から来館されています。IWCを愛用されている方も多く、大切に使われている時計を見せていただくと嬉しくなりますね。私の大好きな時間です。ミュージアムは日本語にも対応していますので、ぜひスイスへお越しの際はシャフハウゼンまで足を伸ばしてミュージアムにお越しください」
取材の最後、初来日だというセイファー氏にブティックのある銀座の印象を聞いてみた。 「銀座のことはもちろん知っていましたが、写真でしか見たことがなかったので来ることができて感激しています。いろいろな都市を訪れては街の雰囲気の中にIWCのブティックがどのように溶け込んでいるのかを見て回ることは、とても楽しい経験です。銀座ブティック10周年のイベントを終えたら色々と回ってみたいと思っています」
取材後記
本当に楽しそうにインタビューに受け答えするセイファー氏からは、終始IWCに対する愛が伝わってきた。まさしくIWCの伝道師であり、筆者もまた彼に会いにミュージアムを訪れたいと思う。その際、ポルトギーゼ・エターナル・カレンダーは展示されているのか。彼に聞いてみると、「いずれ展示することになるでしょう。それに値する時計ですから」との答えが返ってきた。ミュージアムの収蔵品になったならば、ぜひカレンダーやムーンフェイズの精度を観測してほしいものだ。「私も見届けたいけれど、そのためにはまず健康であり続けないといけませんね(笑)」(セイファー氏)
TEXT/Daisuke Suito(WATCHNAVI) Photo/Kensuke Suzuki(ONE-PUBLISHING)
- TAG