1世紀半以上の歴史を紡ぐ【IWC】の類まれな構造美をアイコニックな腕時計「ポルトギーゼ」&「インヂュニア」から解き明かす

<取材協力>
IWCシャフハウゼン(IWC SCHAFFHAUSEN)

1868年創業の【IWCシャフハウゼン(IWC SCHAFFHAUSEN)】は、スイスの伝統技術とアメリカの工業技術を融合し、革新的な時計製造を確立した。当初から自社でキャリバーを組み立て、「パイロット・ウォッチ」、「アクアタイマー」、「ダ・ヴィンチ」といった代表作が評価され、名声を得たのだ。とくに直近2年のウォッチズ&ワンダーズで発表された「インヂュニア」&「ポルトギーゼ」の新作の反響は大きく、世界中で求められている。その理由について、IWCミュージアム館長の証言を交えながら改めて検証する。

誕生時点で完成形。最新世代はさらなる高みへ

IWCシャフハウゼンの時計を深く知るには、同社の歴史を把握しておく必要がある。起源は、アメリカからやってきたフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズがシャフハウゼンに時計工場を開いたことだった。

(デイヴィッド・セイファー氏)「彼がスイスへ渡った理由は、時計製造の技術があったことはもちろん、当時はスイスの労働賃金が安かったのです」

加えて、シャフハウゼンにはヨーロッパ最大の水量を誇るというライン川の滝があり、これを活用した水力発電の施設があったことも、その後の発展に大きく関係していた。創業者の帰国後、ブランドはシャフハウゼンの実業家、ラウシェンバッハ家が継承。この頃には、デジタル表示式「パルウェーバー」システムを搭載したポケットウオッチなどを製造していたという。

「IWCは、創業者の頃から現在まで品質を最優先に時計作りをしています。経営者が代わり、規模を拡大させていく中でも品質を落として大量生産を優先させることはしませんでした」

このように徹底した実用主義を貫いてきたIWCが、新しくコンプリケーション開発の名手となっていくのは1970年代以降。ブランドの生けるアイコン、クルト・クラウス氏が手腕を振るうようになってからだ。


↑IWCミュージアム館長 デイヴィッド・セイファー氏/IWCのヒストリー及びプロダクトに精通する歴史家、文学博士。シュトゥットガルト大学で研究者として活躍し、2007年からはIWCの歴史編纂に従事。2010年現職に就き、同社の企画にも携わる。

 

「私が今回の日本でのイベントのために用意した1977年製の永久カレンダーポケットウオッチは、IWC初のコンプリケーションとして、クルト・クラウスが手がけたものです。彼はポケットウオッチの開発を好んでいましたが、社内に腕時計化を望む声が多かったことから開発に乗り出し、永久カレンダークロノグラフを搭載した『ダ・ヴィンチ』を完成させたのです」

1970年代には、こうした機構面での飛躍があった一方で、デザイン面にも大きな変化が起きていた。耐磁時計「インヂュニア」のリニューアルに際して外部デザイナーのジェラルド・ジェンタを起用し、まったく新しいスタイルの時計を作り出す。

「IWCは創業時から長らく時計をリファレンスナンバーで管理していました。モデル名をつけるようになったのは1980年代から。現在のコレクションも、オリジナルにはモデル名の記載がありません。残っているのは、それが純粋に優れた時計であり、ユニークなエピソードがあるという事実です」(同/セイファー氏)

IWCは品質に妥協することなく、時代の求める時計を作り続けてきたブランドである。155年以上に及ぶ歴史の長さは、そのまま信頼の裏付けといえよう。そして、その時計作りの優秀さを物語る格好の例が、次から取り上げる「ポルトギーゼ」と「インヂュニア」の2大コレクションだ。歴代機と現行世代を見比べるだけでも、名機になるべくしてなった背景が理解できるに違いない。

 

「ポルトギーゼ(PORTUGIESER)」―― 85年の時を経てなお輝きを増すシンメトリースタイル

IWCが時計にファミリーネームを与えたのは、1980年代以降のこと。これは、当時のマーケティング&セールス・ディレクターだったハネス・パントリが深く関わっていたそうだ。

「IWCはダ・ヴィンチの成功を受けてから、ラグジュアリーブランドとして認知されるようになりました。そこで彼は、コレクションの再構築と合わせて、時計の背景がわかるようなファミリーネームを与えることにしたのです。そうした理由から1939年当時に『リファレンス325』と呼ばれていた時計を1990年代に復刻する際に、初めて“ポルトギーゼ”という名が与えられたのです」

時計の開発背景については、よく知られた通りだ。きっかけは、ふたりのポルトガル商人がIWCに製作を要請したことである。そしてこの高精度ポケットウオッチ用キャリバーを搭載した大型の腕時計は、IWCの創業125周年の節目となる1993年に復活を遂げた。

ポルトギーゼの変遷


↑〈1939年〉ふたりのポルトガル商人からの要請を受けてIWCが開発した初代ポルトギーゼ(Ref.325)。ポケットウオッチ用のCal.74が、当時としては規格外となる直径41.5mmケースに収まっている。

創業125周年の節目に復活を遂げて以降、ポルトギーゼのコレクションは様々な機構と共にその数を増やしてきた。復活から約30年にわたる現行モデルの系譜を追うと、改めて1939年の初号機のデザインの完成度が伝わってくる。

 

 

「ジュビリーの記念として復活を遂げたポルトギーゼは丈夫で高精度、高品質。ラウンドケースで控えめなデザインなど、あらゆる点で好評を博しました。これを受けて1995年にはミニッツリピーターなどのコンプリケーションが加わっていくことになるのですが、それらも基本デザインが変わることはありませんでした。またその後、1998年にはクロノグラフ、2000年には5000系キャリバー搭載など、さまざまなモデルが進化を繰り返しながら出てきて、2024年には新たなる最高峰『エターナル・カレンダー』にまで到達しています」


↑IWCシャフハウゼン「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー 」 Ref.IW505701/2024年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)にて、最優秀賞にあたる「金の針賞」を受賞。

 

ポルトギーゼ・エターナル・カレンダーのほかにもウオッチズ&ワンダーズ 2024新作はポルトギーゼが主役となった。この大舞台でIWCはコレクションに新たなカラーを追加。1日のうちに移ろいゆくシャフハウゼンの風景を文字盤に落とし込んだ「シルバームーン」「デューン」「ホライゾンブルー」「オブシディアン」の4つのテーマカラーを披露した。そしてアラビア数字とリーフ針、幅の狭いベゼルなどの特徴を持つ大定番の新境地を切り開いたのだ。


↑アリゲーターストラップの印象が強いポルトギーゼに、2020年からブレスレットの選択肢が増えた(写真は発表当時のモデル)。現在はレザーストラップ以外の素材バリエーションも多く、布やラバーほか紙を原料とするTimberTexなどが様々な色から選べる。

 

搭載する自社製キャリバーについては、2000年の発表5000系の流れを汲む5 2000系キャリバーを筆頭に、複数のシリーズを使い分ける。これら内部機械を見ても、バリエーションの豊かさに驚かされる。

「IWCにとって品質、精度はいつの時代も最優先事項。ムーブメントにも自信を持っていますので、ぜひ詳細にご覧ください。日本語に“カイゼン(=改善)”という言葉があるように、IWCはブランドの規模拡大に伴って製造本数が増えたとしても、作業のプロセスを検討し続けることで、品質を犠牲にすることなく必要な本数を作り続けています。これはマニュファクチュールの利点であると同時に、IWCの得意とするエンジニアリングそのものと言えるでしょう」

シンプルな3針からヨットクラブのようなスポーティテイスト、果てはグランド・コンプリケーションまで、あらゆる機構をも取り入れる懐の深さもまた、ポルトギーゼの魅力である。


IWCシャフハウゼン「ポルトギーゼ・オートマティック 42」 Ref.IW501702 196万3500円/進化した自社製52000系キャリバー搭載の自動巻きモデル。7日間パワーリザーブの巻き終わり1日分のレッドサインがなくなり、よりシックな印象になった。SWISS MADEの文字もレイルウェイパターン上に収まる。ステンレススチールケース。直径42.4mm、厚さ12.9mm。

 


IWCシャフハウゼン「ポルトギーゼ・クロノグラフ」 Ref.IW371624 123万7500円/新型で追加された“デューン”文字盤により新たな魅力を漂わせる定番クロノグラフ。緻密なクロノグラフ秒スケールの記されたフランジまで同色に揃え、金色の針とインデックスを合わせて高貴な雰囲気に仕上げた。ステンレススチールケース。直径41mm、厚さ13mm。

 


IWCシャフハウゼン「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 44」 Ref.IW503702 693万円/ブラック文字盤が印象的な複雑時計の最新世代。南北両半球に対応したダブル・ムーンフェイズと西暦4桁表示の永久カレンダー、7日間パワーリザーブなど、IWCならではのスペックは健在。18ct Armor Gold®ケース。直径44.4mm、厚さ14.9mm。

 

「インヂュニア(INGENIEUR)」―― 甦ったエンジニアリングの象徴 感性に訴えかける細部

IWCのエンジニアリングを語るうえで欠かすことのできないモデルが「インヂュニア」である。このモデルの歴史は、1955年発表の「リファレンス666」に遡る。デイト表示付きのシンプルな3針時計に耐磁シールドを組み込んだそれは、1967年に「リファレンス866」としてスポーティに変化を果たす。だが、IWC首脳陣はこの耐磁構造を持つ時計に新たな可能性を求めたのだという。

「ジェラルド・ジェンタとの関係について、今年になって新たにわかったことがあります。当時IWCのCFOを務めていた人物のファイルが私の手元に届き、そこにはプロダクト戦略についての議事録が詳細に記されていたのです。1969年にIWCの幹部はニューインヂュニアのプロジェクトを立ち上げていました。サプライヤーにも協力を募ったものの社内の評価でOKが出ず、当時のダ・ヴィンチを手がけたデザイナーにも依頼したのですが、これもうまくいかなかったようです。そこでマーケティングディレクターのアレクサンドル・オッドが独自に調査を開始。今でいうところのラグジュアリースポーツウオッチを他社が出したのを知り、当時の大手ケースメーカーのピクレに問い合わせ、デザイナーがジェラルド・ジェンタであることを突き止めたのです。そして彼と実際に会い、“IWCが未来志向のブランドである”とジェンタが認めて意気投合。ステンレススティールを使った時計という点でも彼とは相性が良く、1972年から73年にかけてプロジェクトがスタートすることになりました。1975年、オッドは翌年のバーゼルフェアでの発表を見据え、独断で500本を発注していたそうです」

インヂュニアの変遷


↑〈1976年〉文字盤に「INGENIEUR」と記された1955年の初号機のスタイルを、巨匠ジェラルド・ジェンタが劇的に変化させた「インヂュニア SL」(Ref.1832)。今なおコレクター垂涎の一本である。

最新世代に至るインヂュニアの変遷を4本のモデルで検証していく。2017年には、「リファレンス666/866」のデザインコードが引用されたが、基本的には「インヂュニアSL」のスタイルが引き継がれてきた。

 

 

インヂュニアは、ジェラルド・ジェンタの手がけた時計の中でも特別な位置付けにあったと、セイファー氏は続ける。

「ジェンタのようなアーティストであれば、自分の作品に手を加えられることを嫌がるものです。ただ、インヂュニアについてはIWCが要求した軟鉄製の耐磁シールドやショックアブソーバーを組み込むことも了承してくれた、と。きっと外部の指示に初めて従ったのではないでしょうか(笑)」

1970年代は、貴金属に続くラグジュアリーウオッチの素材としてステンレススティールが使われ始めた黎明期だが、同時にクオーツ時計が台頭してきた時期でもある。それでもIWCとジェンタは将来を見据えて新たな機械式時計にチャレンジした。そしてその結果は、2023年の最新世代の大ヒットからも明らかだろう。


↑最新インヂュニアの展開図。アイコニックなベゼルは全品で位置を揃えられるビス留めに変更。ラグからラグまでの長さは装着感に配慮して45.7mmと短い。耐磁構造の伝統を継承し、ユニークなグリッド文字盤を含む軟鉄製シールドにCal.32111が格納される。

 

「形態は機能に従う」とは、バウハウスの理念であり、あらゆる場面で語られることの多い言葉。IWCも新生インヂュニアの新作披露に合わせ「Formund Technik(=フォルムと技術)」を掲げることで、ジェンタデザインの優れた造形と自らのエンジニアリングを世界に再発信していた。世にラグジュアリースポーツウオッチは多かれど、真に頑丈さとラグジュアリーさも兼備したインヂュニアのような存在は、極めて稀と言えるだろう。


IWCシャフハウゼン「インヂュニア・オートマティック 40」 Ref.IW328903 177万6500円/発表当時に話題を集めた“アクア”ダイアルのインヂュニア。カレンダーディスクも同色で揃え、個性を際立たせた。本機のみブレスの中コマをポリッシュにするなど、スペシャル感のある一本だ。自動巻き。ステンレススチールケース。直径40mm、厚さ10.7mm。10気圧防水。

 


IWCシャフハウゼン「インヂュニア・オートマティック 40」 Ref.IW328901 177万6500円/個性あふれるグリッドやアプライドインデックスにより立体感を持たせた定番色のブラック。ブレス一体型ケースにベゼルを固定するための5本の多角ネジの採用は、リューズガードに並ぶ大きな変更点だ。やや太めに設計された針とインデックスは視認性に優れる。スペックはRef.IW328903と共通。

 

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◆IWC銀座ブティック / 0120-261-868 / 東京都中央区銀座6-6-1
◆IWC大阪心斎橋ブティック / 0120-271-868 / 大阪府大阪市中央区西心斎橋2-2-3
◆IWC大阪うめだ阪急ブティック / 06-6313-7727 / 大阪府大阪市北区角田町8-7 阪急うめだ本店6階
◆IWC名古屋ブティック / 052-953-1868 / 愛知県名古屋市中区錦3-24-17 BINO栄 1階
◆IWC神戸ブティック / 078-333-1038 / 兵庫県神戸市中央区三宮町3-1-4
◆IWC新宿ブティック / 0120-281-868 / 東京都新宿区新宿3-17-2
◆IWC表参道ブティック / 03-4570-4455 / 東京都港区北青山3-5-25 青山Sceneビル

 

問い合わせ先:IWCシャフハウゼン TEL.0120-05-1868 https://www.iwc.com/jp/ja/secure/contactus.html
公式サイト:https://www.iwc.com/jp/ja/

※価格は記事公開時点の税込価格です。

Text/水藤大輔(WATCHNAVI) Photo/岡村昌宏(CROSSOVER)

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