バンカーからオーナーへ転身した新興時計ブランド【レゼルボワール】CEOのパッションとヴィジョン

11月下旬に来日した、レゼルボワールCEOのフランソワ・モロー氏にインタビューを実施した。このブランドは、2017年にデビューコレクションを発表して以来、多くのタイムピースを展開しており、栄誉あるジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリにも何度もノミネートされている実力派。その誕生の背景と、今後の展望について話を聞いた。

25年間の銀行家としての生活に終止符を打ち時計ブランドを立ち上げる

航空計器を手にインタビューを受けるレゼルボワールCEOのフランソワ・モロー氏。計測機器に魅了され、自らの情熱を体現するために銀行マンから時計業界に参入した。1930年代に誕生した燃料タンク「ジェリカン」に由来するユニークな形状のブランドロゴも、同氏が考案したもの

今回の来日の直前に、モロー氏は香港で開催されたオークションにおける自社製ユニークピースの行く末を見届けてきたという。オークションハウスのフィリップスがつけた予想落札価格は7万香港ドル(140万円※1香港ドル=20円で換算)程度。対して落札価格は25万香港ドル以上(約500万円)にもなったそうだ。その時計は、香港を拠点にアジアで影響力のあるコンセプトストア「The Lavish Attic」の11周年を記念したもの。文字盤には、アーティストのフィリップ・ジャクィン・ラヴォによるパンダが手描きされ、その手に持つ竹がブランドのアイコンである240度の角度でレトログラード運針を行う。落札額の一部は、香港のラグジュアリーウオッチメイキングのパイオニアが主宰するアルバート・ハウズマン財団に寄付され、後進の育成などに役立てられることとなる。

まだ創業から10年足らずの新興ブランドであるものの時計界での注目度は高く、コレクション展開も精力的。そのクリエイティビティの源泉となっているのが、CEOであるフランソワ・モロー氏である。彼は、1990年代から銀行家として活躍し、そのうちの3年間は日本でHSBCにも勤めていたとのこと。以前、ジュネーブで彼に会った時に「日本の生ビールは世界一おいしいね(笑)」と、満面の笑みで語っていたのが今も印象に残っている。

「子どもの頃から車などの乗り物や計器類、そして時計にとても興味がありました。働くようになったあとはさらに飲食や旅などへ趣味の領域が広がりました。とにかく色々な物事が好きなのです。その中でも時計だけは特別でした。レゼルボワールをはじめる前から、私はたくさんの腕時計を所有してきました。ただ、ある時から『自分の欲しい時計がない』と思えてきたのです。そこで2015年に銀行業界を離れ、ブランドの立ち上げ準備に取り掛かることを決意しました」(フランソワ・モロー氏)

レトログラードにこだわる理由は「メーター」への偏愛

モンツァ デザインとコラボレートしたモデルの新作「MONZA Design 325Y」 95万1500円(予価) 自動巻き(キャリバーRSV-240 ※ラ・ジュー・ペレ製G100ベース)、毎時2万8800振動、約56時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース。直径43mm。ラバーストラップ(標準はステンレススチールブレスレット)。5気圧防水。専用ボックス内に交換用ラバーストラップと交換に必要なツール類などが付属する。来春発売予定

基本的にレゼルボワールの時計は、すべてモロー氏のアイデアが元になっている。

「356スピードスターやモンツァ、その他クラシックカーなど、多くの自動車の計器からインスピレーションを受けています。それだけでなく、航空機や潜水艦、ダイビングのマノメーター(差圧計)など、あらゆるフィールドの装備品となる計器やメーターのすべてが好きで、それを腕時計で表現してきたのです。一方、私はコミックも好きなので『ブレイク&モルティマー』や『ポパイ』といった作品ともコラボレーションしてきましたし、水中写真家・冒険家のグレッグ・ルクールなどの個人やレースチームといった団体とのパートナーシップから時計を製造することもあります。作りたい時計のイメージは無数にありますね」

レトログラード・ミニッツ、ジャンピングアワー、パワーリザーブ残量表示を有する、レゼルボワール特許取得のモジュール。60分経つごとに分針が瞬時にゼロ位置に戻ると同時に小窓で示された時間を示す数字が切り替わることで現在時刻を示す

まさに衰え知らずの想像力だが、一方で近年は新作を作りすぎたという反省も述べていた。

「具体的な年間製造本数などはお伝えできないのですが、今あるコレクションの製造を軌道に乗せることを優先するため、これから先しばらくは発表する新作を1年1型だけに絞ろうかと考えています。とはいえ、何かの乗り物のコックピットに座って操縦者の気分を味わってしまうとまた新たな想像力が働いてしまうと思いますけどね。ただ、エリア限定のような特別モデルは必要に応じて引き続き手掛けていく予定です。たとえば最近だとドバイの有力店であるセディキのために『ポパイ』の限定モデルを作りました。とても好評だったので、すでに次作の計画もありますよ」

コミックにインスピレーションを得た2本。左「ブレイク&モルティマー “By Jove !!!”」 59万5100円 自動巻き(キャリバーRSV-240 ※LJP G100ベース)、毎時2万8800振動、約56時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース。直径41.5mm。カーフストラップ。5気圧防水。専用ボックス付属。 右「レゼルボワール×オリーブ・オイル」87万3400円(予価) 自動巻き(キャリバーRSV-240 ※LJP G100ベース)、毎時2万8800振動、約56時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)。直径39mm。レザーストラップ。専用ボックス付属。世界限定300本。来春発売予定

2025年は新作の発表本数を厳選する予定

2017年に発表したコレクションの時点で「車」「航空」「マリン」の3つのシリーズを発表していたレゼルボワールは、モロー氏の言う通り多彩なタイムピースを展開してきた。特許取得のレトログラードモジュールを組み込んだムーブメントのベースも、これまでのETA製からラ・ジュー・ペレ製へと移行。専門メーカーであるテロス社と協業し、複雑機構の代名詞であるトゥールビヨンも開発するに至った。さらに同じラ・ジュー・ペレ製ムーブをベースにしたクロノグラフ「ソノマスター」も発表。創業当初からブランドを知る筆者も、今回のインタビューにあたっての事前リサーチで改めてそのコレクションの多さに舌を巻いた。そしてそのいずれもがモロー氏のあらゆる興味の原体験である“メーターの動き”を表現するレトログラード機構を搭載する徹底ぶりだ。

伝説の戦闘機P-51マスタングをオマージュした新作クロノグラフコレクション。秒と日付の2つをレトログラード運針で表示する。「エアファイト クロノグラフ」100万6500円 自動巻き(キャリバーRSV-Bi120 ※LJP L1C0ベース)。毎時2万8800振動、約60時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース。直径43mm。キャンバス&レザーストラップ。NATOストラップ1本付属。5気圧防水。

レトログラードという特殊機構を備えて100万円以下という価格設定は、現代の高級時計界にあってかなり戦略価格と言えるだろう。折しも先日のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリでは、日本の大塚ローテックが同じレトログラード機構を搭載した腕時計でチャレンジ部門のグランプリに輝いたばかり。機械式時計の動きの楽しさが味わえる要注目の特殊機構を、ぜひレゼルボワールで体験してみてはいかがだろうか。

 

TEXT/Daisuke Suito(WATCHNAVI) PHOTO/Kazuyuki Takahashi(PACO)

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