<取材・撮影協力>
カシオ計算機
時計愛好家にとって、まさに朗報である。2025年7月11日(金)、カシオの腕時計ブランド「エディフィス(EDIFICE)」より、ブランド初となる機械式時計が登場する。カシオはこれまで、G-SHOCK、オシアナス、プロトレック、そしてエディフィスなどのブランドを展開してきたが、いずれもクオーツ式やソーラー駆動が中心であり、機械式ムーブメントを搭載したモデルは存在しなかった。したがって、今回の新作はカシオにとっても初の機械式時計であり、同社にとって新たなチャレンジとなるわけだ。
新作「EFK-100XPB/EFK-100YCD」の開発にあたり、中心的な役割を果たした若き2人のキーパーソンへのインタビューが今回実現した。彼らの語る開発過程からは、細部にまでこだわり抜かれた設計思想、徹底した市場調査に基づく製品戦略、そしてカシオが次なるステップへと進む意志が明確に浮かび上がってきた。きっと、カシオの時計作りにおける転換点となるだろう。
フォージドカーボンを用いながら、手に取りやすい価格帯の機械式時計が誕生
まずはエディフィスについて触れておきたい。「Speed and Intelligence」をコンセプトに掲げ、モータースポーツの世界観を反映したデザインと素材使いを特徴とするブランドとして、2000年にヨーロッパを中心にリリースが始まった。そしてF1チームのサポートなどモータースポーツの現場で得た経験や知見、カシオの最先端技術を反映し、アナログ時計を独自の手法で進化させてきた。現在そのラインナップは、モータースポーツを全面に押し出したハイテクなモデルと、スポーティさとエレガンスを両立したモデルが存在する。
最新作となる「EFK-100XPB/EFK-100YCD」は、“後者”のテーマに沿って開発され、エディフィスとして初めてメカニカルムーブメントを搭載したモデルとなっている。さらにダイアルには高級スポーツカーなどにも用いられる軽量かつ高強度なフォージドカーボンを採用している(「EFK-100XPB-1AJF」および「EFK-100YCD-1AJF」)。
フォージドカーボンは、カーボン繊維がランダムに混ざり合うことで個体ごとに異なる模様が浮かび上がる素材。それゆえにひとつとして同じ表情を持たない、唯一無二のダイアルが形成されることとなる。なお「EFK-100XPB-1AJF」においては、ダイアルのみならずケースにも同素材を採用しており、ブラックを基調とした独特のデザインに加え、優れた強度と軽量性を兼ね備えている。
さらに注目すべきは、その完成度に対して驚くべきコストパフォーマンスを実現している点だ。高級感と機能性を両立しながらも、手の届く価格帯に設定されており、機械式時計の新たな選択肢として大きな注目を集めるのは間違いがない。
◆開発者インタビュー◆
ヨーロッパで認められた本格時計。さらなる飛躍の一手は「機械式ムーブメント」の搭載
「EFK-100XPB/EFK-100YCD」の開発に関する取材に応じてくれたのは、エディフィスのブランドマーケティングを担当する中尾雄太郎さんと、デザインおよび設計を手がけた高谷知尚さんである。いずれも若手ながら、確かな視点と情熱を持ち、カシオに新たな風を吹き込む存在だ。
(左)カシオ計算機 営業本部 時計統轄部 ブランドマーケティング部 ヘリテージ戦略室 中尾雄太郎さん/2014年、カシオに新卒入社。3年にわたってドイツに駐在し、カシオの欧州市場における商品戦略を担当。この経験や本社へのフィードバックが評価され、「EFK-100XPB/EFK-100YCD」のマーケティングに携わる。
(右)カシオ計算機 羽村技術センター 時計BU 商品企画部 第二企画室 高谷知尚さん/中途入社した2022年7月からエディフィスの商品企画を担当。カシオで本格的な機械式時計を作りたいとの目標を、「EFK-100XPB/EFK-100YCD」で実現する。趣味は時計収集やクルマのリサーチなど。
時間を知るツールとしてだけじゃない、特別な価値を持つ腕時計とするために
(高谷さん)「グローバルな視点でマーケティングを見たときに、ここ数年間だけでも腕時計の価値が大きく変化していると認識しています。コロナも影響し、たとえばヘルスケア意識の高まりによってスマートウオッチの性能がどんどん進化して、需要も伸びました。その一方で、アナログ時計はより情緒的な、ピュアな価値基準が醸成された印象です。とくに機械式時計は、その傾向がはっきりと表れていると感じていました」
その中で、エディフィスで機械式時計を作ってみようと思ったきっかけはどのようなものだったのだろう。
(高谷さん)「エディフィスを選んでいただく方の多くが、クルマ好きやモータースポーツファンでいらっしゃいます。そういった方々は、自分の乗っているクルマをただ移動するだけのツールとして捉えず、こだわりや愛着を持たれていらっしゃいます。シフトチェンジが必要なマニュアル車はオートマチック車に比べて不便だけれども、あえてそちらを選ぶことに価値があるのです。腕時計に対する価値観も同じで、機械式はクオーツやスマートウオッチに比べて劣る部分もあるけれど、機械式でしか味わえない価値があります。これはエディフィスに求められている価値と重なると感じ、企画を練ってきました」
その構想から完成までに2年以上の歳月を要し、「EFK-100XPB/EFK-100YCD」はついに形となった。カシオ初の腕時計として1974年に発売されたクオーツ式の「カシオトロン」以来、同社は一度も機械式時計を手掛けてこなかっただけに、社内での企画承認には相当な困難が伴ったと推察される。しかしながら、若手エンジニアの斬新なアイデアを受け入れ、挑戦の機会を与えたカシオの柔軟性と懐の深さは、同社のカルチャーを表している。今回のプロジェクトは、新しい製品開発にとどまらず、次なるステージへの第一歩を暗示するものといえる。
(高谷さん)「EFK-100XPBを開発するにあたり、機械式時計としての価値を高める一案として、フォージドカーボンケースを採用することにしました。この素材にしか出せない一本一本が異なるパターンは、神秘的な魅力となりますし、自分だけの時計という価値を生みます。とはいえ、フォージドカーボンは製造にコストがかかるため、最終的な価格設定との折り合いが非常に難しい点でした。やはり、多くの方に親しみを持っていただける腕時計として作りたかったのです」
(中尾さん)「フォージドカーボンは、2023年11月のG-SHOCK誕生40周年モデル(GCW-B5000UN)の時に、ベゼルとバンドの素材として使用しました。また、マッドマスターGWG-2000シリーズのベゼルでも採用しています。これらで培った技術を用いながら、EFK-100XPBではケース全体をフォージドカーボンとすることが初めて叶いました」
長く使える機械式時計だからこそ、飽きさせないディテールや美しさを追求した
アンダー10万円で、フォージドカーボンケースの本格時計は筆者の記憶にはない。驚きのプライスは、どうやら綿密な戦略のうえに設定されたもののようだ。
(中尾さん)「今回は、プライスをプロジェクト始動時から意識してきました。ヨーロッパにおいて1000ユーロ以下、日本ならば10万円以下の時計市場に、一石を投じるようなモデルを作りたかった。いま、この価格帯でクオリティが高く、ユニークな腕時計を探している若者が多く、初めて購入する機械式時計を探している方も潜在的に多くいらっしゃいます。好みもありますがまずは見た目が良く、10気圧防水、サファイアガラス風防、さらにシースルーバックの条件を満たしている腕時計は意外と少ないのです。それを、300ユーロ前後(日本円で5万円前後)で実現することを目指し、プロジェクトを進めてきました」
(高谷さん)「5万円くらいの腕時計を見渡したとき、欲しいモデルが見つけられなかったことも理由です。なぜなら、その価格帯は各社エントリーモデルとして中上位ラインとの差をつけていることが多く、機械式時計としての魅力を損ねてしまっているからです。ならば自分たちが作ってやろうという意気込みで、当初から臨んできました」
今回、カーボンケースモデルのEFK-100XPBに話題が集中しているが、筆者はEFK-100YCDのクオリティにも驚かされた。ステンレススチールの外装は美しく磨き上げられており、高級感とユーザビリティの両面に優れている。時計好きである高谷さんの理想と想いが込められていると感じた。
(高谷さん)「限られたコストの中で限界までこだわり抜き、フォルムも磨きもクオリティを一層上げました。5万円のマーケットには競合も多いのですが、その中でも光る存在の機械式時計となっているはずです」
(中尾さん)「マーケットの調査を徹底し、この価格帯であらゆるニーズに応えられる要素を満載したメタルの機械式時計が完成したと自負しています。第一に、初めての機械式時計として選んでもらえるモデルであること。第二に、複数本をコレクションされている方も気軽に楽しんでもらえる機械式時計であること。この両方の需要を十分に満たす仕上がりになっているはずです。また、腕時計型ウェアラブルデバイスに対抗できる価格設定も意識しました。そのようなクオリティとプライスのバランスの良さから、ヨーロッパではこれまで取り引きのなかったショップでも販売されることがすでに決まっています」
販売網は世界へと広がり、現在ではオンラインショッピングでも購入できるなど多様化が進んでいるとはいえ、それなりに高価な腕時計は、その本質である質感やデザインを実際に触れて試着してこそ真価がわかるものである。機械式時計であれば、なおさらだろう。そして店頭スタッフとのコミュニケーションを通し、購入か否かの判断が下される。「EFK-100XPB/EFK-100YCD」は、そのような王道的な購買の流れが自然とイメージできる。
(高谷さん)「どの世代にもあてはまることだと思うのですが、想いを込めたモノや高額な製品を買う際には、大半の方が様々なメディアでリサーチされるのではないでしょうか? もちろん腕時計もその対象でしょう。ですが、あふれる情報に溺れてしまい、疲弊し、結果的に購入まで至らず、あとで後悔することも方もいらっしゃいます。実際、私もそうですし(笑) そういう方でも、真っ先に手を伸ばしていただける腕時計を目指しました。まずは店頭で試していただきたいです」
「EFK-100」シリーズのステンレススチールモデルには、ブルー・グリーン・シルバーのダイアル違いのバリエーションもラインナップ。これらのカラーダイアルは、電気鋳造によりフォージドカーボンの質感を表現したデザインとなっている。各4万9500円。
腕時計の高騰化が顕著となる中、スマートフォンやスマートウォッチの登場により、腕時計を持たない層も増えている。コロナ禍による経験も、その傾向に影響を与えた。とはいえ、人間はやはりリアルな体験を求めるし、自身を満たしてくれる“想いを重ねるモノ”を必要とする。それはデジタルツールでは得がたく、むしろアナログツールの方が共感を得やすい。カシオが明確なコンセプトのもとに開発した「EFK-100XPB/EFK-100YCD」は、安易な構想から生まれた機械式時計ではなく、そうした価値観を共有できるコレクションとして生み出されたのだ。
エディフィス「EFK-100XPB-1AJF」 7万4800円/自動巻き、毎時2万1600振動、約40時間パワーリザーブ。フォージドカーボンケース(シースルーバック)、ウレタンストラップ、サファイアガラス風防。直径40mm、厚さ12.5mm。質量87g。10気圧防水。
エディフィス「EFK-100YCD-1AJF」 5万5000円/自動巻き、毎時2万1600振動、約40時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)&ブレスレット、サファイアガラス風防。直径39mm、厚さ12.5mm。質量148g。10気圧防水。
「EFK-100XPB/EFK-100YCD」コレクションの詳細はコチラ>>>
さらに、同様のメタル外装を使ったクオーツクロノグラフも登場! ベゼルにセラミックを採用する!!フォルムと仕上げにこだわったステンレススチール製のケース&ブレスレットを採用したうえに、高級感あふれるセラミックベゼル、光で駆動するソーラー充電システムを搭載した多針クロノグラフ「EFS-S650YD」も同時にリリースされる。艶やかなベゼルは傷に強く、美しさを長く継続することが可能。こちらも、ミラーとヘアラインの仕上げを使い分け、洗練された造形美を演出するモデルとなっている。カラーは、ブルーとグリーンがラインナップ。
「EFS-S650YD」コレクションの詳細はコチラ>>> |
問い合わせ先:カシオ計算機 お客様相談室 TEL.0120-088925 https://www.casio.com/jp/watches/edifice/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。
Text/山口祐也(WN編集部) Photo/吉江正倫、鈴木謙介(インタビュー)