まるで工業都市のミニチュアのような「フリーク」25周年を祝う驚愕タイムオンリーウオッチ【WATCHES & WONDERS GENEVE 2026新作】

世界最大の新作時計見本市「WATCHES & WONDERS GENEVE」は、スイス・ジュネーブで2026年4月14日〜20日に開催。ここで発表された新作から、注目すべき腕時計を取り上げていく。本稿では、毎年本展で超弩級の1点突破を披露するユリス・ナルダンの新作をWATCHNAVIの視点でチェックする。

時計界に革新をもたらした「フリーク」誕生25周年を記念した“全部入り”

ムーブメント自体が分針となり、時針ディスクとともに時刻を表示する驚愕モデル「フリーク」が、2001年に当時のバーゼルフェアで発表されてから今年で25年が経った。独自のエスケープメントの開発やリューズレスメカニズム、そしてシリコン素材の世界初採用など、前代未聞のスペックによってその後の高級時計界に革新をもたらしてから四半世紀の間もユリス・ナルダンは研鑽を積み、ついに完成したのが最新作「スーパーフリーク」である。

ユリス・ナルダンの2026年ウオッチズ&ワンダーズ新作「スーパーフリーク」。

このモデルに組み込まれたユリス・ナルダンの特許技術は実に35に及ぶ。組み立てには高級時計製造のエキスパートが揃う同社工房の中でも卓抜技術を有する5名のみが作業にあたり、50本を限定製造していく。ムーブメントは1度パーツを組み上げて動作などを確認したのち完全に分解し、微細な粒子まで完全に除去したうえで最終調整を行いながら組み上げる“二度組み”の工程を経るため、ひとつの時計を完成させるには60時間以上もの手作業を要するという。完成した個体は、それを熟知している担当職人がアフターサービスまで行うという念の入りようだ。

10度の傾斜を持つトゥールビヨンを組み上げる職人の作業風景。

これら組み上げられるパーツの構成部品の70%以上もまた、手作業によって完全に仕上げられている。しかも加工しやすい真鍮ではなく、難削材であるチタンを選択しているために通常よりもはるかに多くの時間がかかることは想像に難くない。そのようにして磨き抜かれた金属の集合体を上層と下層で仕切るクリアブルーのアワーディスクには、これまでにない新素材ナノシタル(R)を採用。これは多くの天然宝石に含まれる主要な2つの酸化物である二酸化ケイ素と酸化アルミニウムをベースにした高温組成によって製造された素材といい、トパーズやサファイア、ルビーに近い比重を持ちながら、標準的なガラスを上回る硬度レベルを備えた多結晶性素材とのこと。耐久性にも優れるハイテク素材にして冷たさも感じられる特有の色彩は、まさに海洋とともに歴史を歩んできたユリス・ナルダンの伝統を体現するかのようだ。

アワーディスクの上層に組み上げられるパーツ群。左下にあるクリアブルーのディスクが新素材となる「ナノシタル」。

さらに内部へ視線を潜り込ませると、ユリス・ナルダンのシリコン研究所「シガテック」にて開発・製造されたシリコンパーツが組み込まれたダブルトゥールビヨンのエスケープメントを見ることができる。2つのテン輪、2つのひげゼンマイ、そしてダイヤモンドコーティングを施したシリコン技術により2007年に特許を取得した「DIAMonSIL」脱進機2点など、合計10個のハイテク素材が組み込まれた時計精度の要となるこれら装置により、「スーパーフリーク」は毎時1万8000振動で正確な時を刻むのである。

自軸を中心にムーブメントが回転するカルーセル(回転木馬)ムーブメントは「フリーク」最大の特徴。分針の矢印の根元にドラム型の秒表示を備えている。

だがさらにユリス・ナルダンは、このような複雑な構造にさらなる調和をもたらすべく2つの偉業的技術を考案。ひとつは世界最小のディファレンシャル機構で、ミクロン単位の精度で製造された8個のセラミックボールベアリングを含む69個の部品をわずか5mmのサイズに収めている。もうひとつが世界最小のジンバルで、こちらは先述のディファレンシャル機構と秒表示がカルーセルムーブメントの対極にあることから、これらの完璧なエネルギー伝達を可能にするべく考案された、わずか4.8mmの機構(2本の伝達軸の全長は12mm)である。2つの傾斜したトゥールビヨンの速度を平均化すると同時に、ジンバル機構へエネルギーを伝達するためのディファレンシャルと、それらを含む複雑な可動式機械構造の制御を司るジンバル機構の相互作用により、「スーパーフリーク」はダブルトゥールビヨンという複雑機構を超越した精度安定性を獲得したのだ。

写真の右下に見える装置がディファレンシャル機構。そこからムーブメントを貫くように伸びるのがジンバル機構となる。

だが、見た目も構造も圧倒的なコンプリケーションであるものの、この時計が示すのはあくまでも時分秒のみ。これもまた25年前の初代「フリーク」が時分針のみを示す時計であっても時代を変える一本であった歴史を踏襲している。さらにいえば、ユリス・ナルダン180年の歴史や、その名を一躍世界に広めた船舶用置き時計「マリンクロノメーター」製造の伝統にも通じている。いわば「スーパーフリーク」は、あらゆる姿勢にさらされても高精度を維持し続ける役目を、現代の持てる最新技術によって作り上げた究極形態と言えるだろう。

「スーパーフリーク」のパーツ展開。多くのパーツが王道の機械式時計に使われるものとは異なる形状となっている。極小機構は、長年のイノベーションパートナーであるマイクロカスタムシステムの専門企業MPS社と共同開発。

ちなみにディテールが凄すぎるゆえに見逃してしまいそうになるが、「スーパーフリーク」は自動巻きダブルトゥールビヨンとしても世界初。ムーブメントの巻き上げ(ベゼルで主ゼンマイの巻き上げ)を行うケースバックからは、独自の巻き上げ機構「グラインダー」テクノロジーの進化版を見ることができる。わずかな手首の動きさえもエネルギーに変換する装置によって、パワフルなメカニズムを駆動させながら約3日間ものロングパワーリザーブも確保するための、安定したエネルギー供給と蓄積を実現したのである。

わずかな動きさえもエネルギーに変える「グラインダー」巻き上げ機構は、アームが4本に改良されてさらに高効率巻き上げが可能となった。

総部品数511個からなる新型キャリバーUN-252をルーペで覗けば、視界に広がるのはまるで近未来の工業都市のよう。ほぼすべてのパーツが稼働しながら時を刻み続ける姿に、機械式時計の新たな地平を切り拓き続けてきたユリス・ナルダンの矜持を見た。

ユリス・ナルダン「スーパーフリーク」Ref.2520-500LE-3A-BLUE/3A/5594万6000円 自動巻き(キャリバーUN-252)、毎時1万8000振動、72時間パワーリザーブ。18Kホワイトゴールドケース(シースルーバック)。ラバー製バリスティックストラップ。直径44mm。総厚16.54mm。30m防水。世界限定50本。

問い合わせ先:ソーウインド ジャパン TEL.03-5211-1791 https://www.ulysse-nardin.com/jp_jp/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。

Text / Daisuke Suito (WATCHNAVI)

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