SEIKOの腕時計には、最高の仲間たちと過ごした思い出が詰まっている――上原大祐(NPO法人D-SHiPS32代表/パラリンピック銀メダリスト)
時間は誰にでも平等。だからこそ1日24時間、その限られた時間をどう使うかが「人生を楽しむ」ための鍵となります。様々な業界で活躍する人物から「時間術」を聞く本連載。第7回はNPO法人D-SHiPS32(ディー シップス ミニ)代表の上原大祐さんにお話を聞きました。
Photos/高橋敬大 Text/赤坂匡介
生まれつき脊椎に障害(二分脊椎)を抱えていた上原大祐さん。性格は、明るく朗らか。「国籍問わず、誰とでも仲良くなれる」のが特技だそう。19歳でアイススレッジホッケーを始め、2度のパラリンピックに出場、2010年バンクーバーパラリンピックの準決勝では、値千金の決勝ゴールを決め、見事チームを銀メダルに導きました。
現在はNPO法人「D-SHiPS32」の代表として、障害のある子どものサポートを行なう一方で、障害者向けの商品開発やアドバイザーとして活動しています。そんな上原さんに日々、どんな時間の使い方をしているのか聞いてみると、そこには「課題をチャンスと捉える」という上原流の思考術がありました。
――上原さんは生まれつき脊椎に障害を抱えていました。その課題と、日々どうのように向き合っているのですか?
みなさん“課題”と聞くと、すごくネガティブに捉えがちですよね。しかし、私の中のテーマは常に、「課題って楽しい」なんです。
私の足は動きませんが、「足が動かないからこそ」できるビジネスもあります。たとえば、障害者向けの商品開発のアドバイザーもそのひとつです。それを見つけることは、私にとって「楽しい」ことなんです。
だから大切なことは、課題を見つけたときに悲観するのではなく、それを“チャンス”と捉えられるかどうかだと思っています。
――そんな上原さんにとって、いちばん好きな時間は何をしているときですか?
子どもたちと触れ合っている時間は好きですね。
現在、代表を務めているNPO法人「D-SHiPS32」では、障害を持つ子どものサポートをしています。その活動では「健常者と障害者が触れ合う機会を創出」しています。それはやはり「知らないから対応できない」ということが多くあると私自身が感じているからです。
また、「車椅子だからできない」と決め込んでしまうことで、実は障害者の可能性を奪っていることもあるんです。本当はできることを、周囲が奪っている。これはいいことではないですよね。
小学校で講演会をしたりすると、終了後に、たくさんの子どもたちが寄ってきます。彼らからすると、車椅子の私が珍しいから、「知りたく」なるんです。障害者への理解を深めるためにも、こうした「知る機会」がもっと増えたらいいなと思いますね。
――NPO法人の代表、商品開発のアドバイザー、さらに講演までこなすとなると、かなりお忙しいのではないですか?
そうですね。最近はかなりスケジュールが詰まっています。ですから打ち合わせは何でもかんでも1時間とはせず、内容によって時間配分を変えるようにしています。
――普段の移動手段は電車ですか? その際、周囲はサポートしてくれるものですか?
電車が多いですね。サポートはあまりないです(苦笑)。電車内には、車椅子のスペースがある車両もあるのですが、みなさんスマホに夢中で私に気付いてくれない、なんてこともよくあります(苦笑)。
――3年後、2020年には東京オリンピック・パラリンピックがあります。東京は国際社会からどう評価されるでしょうか?
パラリンピックは、国民の成熟度を示すと言われています。ロンドンはとても成功したといわれていますが、日本はどうでしょう……、いまのままで難しいかもしれないですね。ぜひこれから、みなさんの意識が高まってくれたらと思います。
仲間と作ったSEIKOの時計は宝物
――今日お持ちいただいた、上原さんお気に入りの腕時計を見せてください。
今日は2つ腕時計を持ってきました。ひとつはデザインと軽いところが気に入っているDIESELの腕時計。
もうひとつはSEIKOの腕時計です。これは私がバンクーバーパラリンピックで銀メダルを獲得した際に、仲間たちと記念に作ったものです。愉快でやんちゃで、私は彼らが大好きでした。
銀メダルは持ち歩けないですが、腕時計ならいつでも着けていられる。だからふとした瞬間に、彼らと過ごした時間を思い出したりします。「元気にしているかな?」と。文字盤の裏に自分の名前も入っているので、世界で1本という点も気に入っています。
――SEIKOの時計に込めた思いを教えてください。
輝かしい栄光を形に残した、なんてことはないんです。なぜなら私たちは、金メダルを獲りに行ったわけですから。しかし結果は銀メダルだった。
それでも最高の仲間たちと過ごせた時間は永遠です。その思い出が腕時計には詰まっています。
私の人生でカナダに勝ったのは人生で一度きりです。バンクーバーのパラリンピックのときだけ。しかもその前年、世界選手権でアメリカのチームと、「来年パラリンピックの決勝で戦おう」と約束していたんです。それも翌年に実現できた。だから本当に、色んな思いが詰まった腕時計ですね。
――今後の目標は?
ひとつは2020年の東京オリンピック・パラリンピックに何かしらの形で関わること。
もうひとつは、私がサポートしている障害を抱えている子どもたちの中から、パラリンピックの舞台に立つ選手を輩出することです。先天性の障害を抱えた子どもの母親というのは、自責の念に駆られ「こんな身体で生んでごめんね」とずっと思っているものなんです。
それがパラリンピックの舞台では、「世界に誇る子ども」の姿がそこにある。親御さんは確実に、自分の子どもを誇れるし、ハッピーになれるんです。その場面に自分が立ち会えたとすれば、こんなにうれしいことはないですね。
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