日本が知らないクロノグラフ革命【シンガー/トラック1】

ジュネーブ国際高級時計展(SIHH)の取材中、ジュネーブ郊外で見本見上陸のユニークなブランドを見つけました。ブランドの名前は、シンガー。ポルシェ好きならご存知かもしれませんが、クラシックなポルシェのレストアとモディファイを専門にするシンガー・ビークル・デザイン社の腕時計です。この製品、かなり革新的なクロノグラフムーブメントを搭載していました。

 

ポルシェ好きに知られたブランドが放つ衝撃作

シンガーが手がけた腕時計「トラック1」は、1960年代から70年代にかけて作られたクロノグラフに着想を得て作られました。滑らかな曲面を持つケースにヘアライン仕上げを施し、ユニークな形状を強調。ストラップのアイレットやリューズ、ボタンは、シンガーの手がけるクルマのディテールがモチーフとなっています。

シンガー「トラック1」文字盤のセンターを起点にすべての表示が回転する驚異のセンタークロノグラフ。1960年代のレーシングウオッチに着想を得たというトノーケースの2時と10時位置にプッシャーが配置されている。自動巻き。Tiケース。直径43mm
シンガー「トラック1」文字盤のセンターを起点にすべての表示が回転する驚異のセンタークロノグラフ。1960年代のレーシングウオッチに着想を得たというトノーケースの2時と10時位置にプッシャーが配置されている。自動巻き。Tiケース。直径43mm

こうした美しい仕上げもさることながら、やはり注目はメカニズム。この時計は、センターにクロノグラフの60秒、60分、60時間(!)の積算計を備え、その外周のリングで時間と分を表示します。ちなみにパワーリザーブも60時間と60尽くし。

分積算針はステップ運針するので、クロノグラフ秒針との見間違えることもありません。計測時間が非常に見やすくなっています。肝心の時間は、外周2つのディスクで表示。6時位置の針の指す数字が現在時刻となります。

 

歯車なのに歯がない!? 超小型の革新クロノグラフモジュール

ムーブメントは、時計師ジャン・マルク・ヴィダレッシュが興したムーブメントやモジュールの開発・製造メーカー「アジェノー社」が設計したもの。独創的なムーブメント開発を得意とする同社でさえ約8年の歳月がかかったというだけあり、これまで見たことのない革新的なメカニズムとなっています。

ムーブメントの地板はドーナツ型になっており、中心の開いた部分に極小のクロノグラフモジュールがセットされているのです。動力伝達は水平クラッチ方式ですが、噛み合う2つの歯車の歯をなくす( !!)ことでボタン操作時のズレや針飛びのない高精度計測を可能にしています。

アジェノー社が開発した“アジェングラフ”Cal.AGJ-6361は、ベースプレートのセンターが空いたドーナツ形状が特徴。中央の空間にクロノグラフモジュールをセット
アジェノー社が開発した“アジェングラフ”Cal.AGJ-6361は、ベースプレートのセンターが空いたドーナツ形状が特徴。中央の空間にクロノグラフモジュールをセット
トラック1のクロノグラフのすべては、このモジュールが司るという。前代未聞のコンパクト設計!
トラック1のクロノグラフのすべては、このモジュールが司るという。前代未聞のコンパクト設計!

歯を使わずに摩擦力をもたせる発想、実はスイスを代表するナイフブランドのビクトリノックスのマルチツールにあるヤスリがヒントになったそうです。

トラック1は自動巻きなのですが、シースルーバックからプレートやギアなどの全貌がローターに隠されることなく見渡せます。というのも、自動巻きローターは文字盤側に配置されているからです。これは自慢のメカニズムを存分にみてほしいというアジェノー社の意思表示と言えるかもしれませんね。

 

シンガーは、この第1弾モデルの他にも、世界の地域に合わせた限定モデルも考えているとのことで、すでに“ジュネーブ”エディションは完成していました。この時計もアンティークの風合い漂う14金ゴールドのような色味を、18金の比率で作り上げた特別な素材を使うなど、かなり個性的なモデルでした。

ぜひ日本に本格上陸して、トラック1の“ジャパン”エディションを見てみたいものです。

 

SINGER REIMAGINED http://www.singerreimagined.com/

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