スイスの高級時計ブランド【オメガ(OMEGA)】の快進撃が止まらない。そのキーマンといえるグレゴリー・キスリング副社長の来日に合わせてインタビューが実現。彼が手掛け、すでに傑作との呼び声がある「スピードマスター スーパーレーシング」と「クロノチャイム」(「オリンピック 1932 クロノチャイム」&「スピードマスター クロノチャイム」)について尋ねた。
【オメガ商品開発担当副社長 グレゴリー・キスリング氏】
プロダクトマネージメントリーダーとして第一線で活躍し、2022年からは副社長も兼任することになったオメガ成功の立役者。全モデルのマスター クロノメーター認定化を進め、一方でムーンスウォッチの開発も指揮。
「歴史あるオメガの製品は常に革新的であり、エキサイティングでなければなりません。だからこそ時計以外の分野にも精通したプロフェッショナルが我々のもとには集っており、開発を多角的に行えています。今回の3モデルはとくに自信作ですね」
日差0~+2秒の驚異的精度を実現する「スピレート™システム」を初搭載
グレゴリー・キスリング副社長は、オメガの製品開発のリーダーも担っている。そんな彼に、各々の特徴やオメガにおけるポジションを語ってもらった。
(グレゴリー・キスリング副社長)「世界中のスピードマスターファンに期待いただいているスーパーレーシングですが、量産の道筋がつき、間もなく各国のブティックを中心に入荷が始まります。スピレート™システムは機械式の精度における新時代のアジャストメント。修理部門からはファンタスティックシステムとの評価を得ています(笑)」
↑約10年に及ぶ構想と開発の末に完成したスピレート™システムは、「DRIE(Deep Reactive Ion Etching:深掘りエッチング)」技法によりシリコンウエハーから取った超微細なひげゼンマイ(写真左)や、これを調整するダイヤル式の緩急装置(ひと目盛り0.1秒/日ずつ調整)などから構成。圧倒的精度を実現する
このシステムは優秀な自社キャリバーがあってこそ、と話す。
「スピレート™システムはあらゆる工業的な視点から開発しました。これまで不可能だったシリコンひげゼンマイのタイミング調整を可能とし、さらに職人の技量による差が出ない装置を備えています。すなわち、アフターサービスの負担軽減や量産化を実現しているのです。理論上、既存のオメガ製キャリバーに組み込める設計(Cal.9920は9900がベース)ですから、やがては他のモデルにも採用するかもしれません」
特殊なひげゼンマイ&調速機構が高精度のカギ
オメガ「スピードマスター スーパーレーシング」 Ref.329.30.44.51.01.003 179万3000円
特許技術スピレート™システムを採用し、機械式No.1の精度を可能にした自社製造のキャリバー9920を搭載するスピードマスター最新作。ハニカムパターンのサンドイッチダイアルに、レーシングフラッグを彷彿とさせるミニッツトラックを配する。「シーマスター アクアテラ 15,000ガウス」の10周年を称え、日付にスピードマスターのロゴと同フォントの“10”を用いる。
スペック:自動巻き(自社製Cal.9920)、毎時2万8800振動、約60時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)&ブレスレット。直径44.25mm、厚さ14.9mm。5気圧防水。
ミニッツリピーター&クロノグラフの華麗な結合
一方で、工芸的な視点から開発されたのがクロノチャイムだ。
「オメガは意欲的な挑戦を続け、イノベーションをもたらしてきました。その過程で培った技術が最高峰にあることを証明するべく、6年の歳月をかけて完成させたのがクロノチャイムです」
クロノグラフの計測値をミニッツリピーターで奏でる世界初の技術の実現は、困難を極めた。
「クロノグラフとミニッツリピーターの連動は無論難しかったですが、1932年のオリンピックで使われた懐中クロノと同じ1/10秒カウントができるよう、毎秒10振動とすることが難儀でした。そもそもコーアクシャルはハイビートに適さない設計なのですが、オメガを象徴する脱進機を除外してしまうという選択はなかった。結果、このキャリバーや18Kセドナ™ゴールドの外装、エナメルダイアルなどを作るうえで、新技術を含めて17もの特許が使われています。しかもほとんどの工程がハンドメイドのため、ごく限られた数しか生産できません」
性格の異なる3型だが、いずれも1万5000ガウス耐磁を備えるマスター クロノメーター認定を取得。根幹となる実用性を欠かさぬ点に、伝統を重んじるオメガの姿勢が感じられる。
計測時間をゴングが奏でる世界初のメカニズムに驚嘆
オメガ「オリンピック 1932 クロノチャイム」 Ref.522.53.45.52.04.001 7392万円
世界初のミニッツリピーター腕時計(1892年)と、第10回オリンピック・ロサンゼルス大会の計時用ポケットクロノグラフ(1932年)に触発されたナンバードエディション。925シルバー製インナーベゼルとサブダイアルのギヨシェ彫りは、チャイムの音波を視覚的に表した「エクスクルーシブ アコースティック ウェーブ」模様だ。
スペック:手巻き(自社製Cal.1932)、毎時3万6000振動、約60時間パワーリザーブ。18Kセドナゴールドケース(シースルーバック)、アリゲーターストラップ。直径45mm、厚さ16.9mm。3気圧防水。
宇宙を想起させる青を纏うスピードマスターが奏でる
オメガ「スピードマスター クロノチャイム」 Ref.522.50.45.52.03.001 7920万円
「オリンピック 1932 クロノチャイム」と同じく、オメガ史上最も複雑な設計とされるキャリバー1932を搭載。ブルーのアヴェンチュリン“グラン・フー”エナメルのダイアルとベゼルを備えるほか、第2世代スピードマスター「CK2998」に由来する意匠が特徴だ。
スペック:手巻き(自社製Cal.1932)、毎時3万6000振動、約60時間パワーリザーブ。18Kセドナゴールドケース(シースルーバック)&ブレスレット。直径45mm、厚さ17.3mm。3気圧防水。
問い合わせ先:オメガお客様センター TEL.03-5952-4400 https://www.omegawatches.jp/ja/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。本記事は『ウオッチナビ Vol.92』より抜粋・編集しています。
構成・文/山口祐也(WATCHNAVI編集部) 撮影/高橋敬大(TRS)
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