ウオッチシーズンの幕開けとなるSIHH 2018が1月15日から19日にかけ、スイス・ジュネーブで開催されました。国際高級時計見本市と銘打つだけに、その動向は業界の1年を占うに十分。出展数は前年の30ブランドから35ブランドに増え、とくにエルメスがバーゼルワールドから移るなど話題性も盛り沢山なイベントとなりました。そのなかで注目したブランドの新作と方向性について、ライター柴田 充さんがお伝えします。
「フィフティーシックス」は新しい世代に向けたアプローチ
SIHH 2018を俯瞰すると、全体的に新作点数が減ったように感じられました。それは既存シリーズの付加機能や、素材やカラーリングなどのエクステンションが多く、まったく新しいモデルが少なかったからかもしれません。そんなこともあり、強く魅かれたのが「フィフティーシックス」でした。
厳密にいうとこのモデルも1956年に発表された「リファレンス6073」をモチーフにしています。しかしそれはオリジナルを単に復刻するのではなく、その精神性を受け継ぎ、より現代的にアレンジしています。
モデル名の由来となった1956年といえば、戦後復興から経済成長を迎え、社会は大きく変革し、時計でもダイバーズウォッチやクロノグラフなど新世代のスポーツウォッチが現れ、よりアクティブになったライフスタイルを反映しました。そうした中で生まれたのが「リファレンス6073」であり、まだまだ手巻き式が主流だった時代、ブランド初の自動巻き式を搭載し、新しい世代に向けたアプローチだったことが伺えます。そしてそれは新作にも受け継がれています。
オリジナルはシンプルなラウンドケースながら、ラグにはマルタ十字から着想した独自のカッティングで個性を打ち出しました。これを現代的にアレンジし、さらにオリジナルが楔形インデックスだったのに対し、アラビック数字のセクタータイプを採用しています。都会的で洗練されたデザインは、多様化する現代のライフシーンにも違和感なく溶け込みます。またブランドでは稀少なステンレススチールのケースもシャープな硬質感が漂い、高級感を損なうことなく、新たなファン層を惹きつけること必至です。
「フィフティーシックス」がモダンドレスとすれば、モダントラベラーに位置づけられるのが「オーヴァーシーズ」です。一昨年のモデルチェンジから待望のデュアルタイムが加わり、魅力をさらに増しました。
その他、超薄型にして初の自社開発製造トゥールビヨンキャリバー2160を搭載した「トラディショナル・トゥールビヨン」や、シリーズ初の38mm径ケースが魅力の「パトリモニー 38mm」など今年のヴァシュロン・コンスタンタンは、よりモダニティを追求した新作が揃いました。そこには歴史や伝統の重みを秘めながらも、軽やかに時代を捉える名門の奥深さを感じさせるのです。
セミフラットのボックス風防に加え、ビンテージウォッチでも人気の高い、エレガントなラグデザインはブランドの本領を発揮します。リュウズガードはスポーティさとともに、巻き上げが不要になったリュウズの存在感を抑え、ブランド初の自動巻きの歴史をアピール。控えめながらも細部まで凝ったデザインは、ビジネスからカジュアルまでシーンを問いません。
従来のワールドタイマーに加え、新作ではデュアルタイムが登場。2本の時針の時刻合わせは両方向に動かすことができ、カレンダーは4時位置のプッシュで容易に調整できます。工具を使わずブレスレットからレザーやラバーのストラップに簡単に交換できるインターチェンジャブル機構は旅先での利便性にも優れ、「フィフティーシックス」と2本所有すればまさに大人のコンプリート。
初の自社開発製造の自動巻きトゥールビヨンキャリバーは、ペリフェラルローターを採用し、5.65mm厚の超薄型を実現するとともに、シースルーバックでは美しいメカニズムを隠すこともありません。さらに80時間というロングパワーリザーブも。プラチナのずっしりとした存在感に、優雅なトゥールビヨンの動きはまさに王道の風格が漂います。
オリジナルを生かし、超えていく
自社のアーカイブ復刻はいまやひとつのカテゴリーになりつつあります。とはいえオリジナルをそのまま再現してもビンテージを超えることはできず、そこに新しい技術や時代の感性を注いでこそ復刻するに値する価値が生まれます。
モダンに換骨奪胎することで、オリジナルを生かし、超えていく。そんなデザインコンセプトが今後注目を集めると思います。「フィフティーシックス」はまさにそれを予感させる新作であり、長い歴史に培われたヴァシュロン・コンスタンタンにこそふさわしいスタイルなのです。
ヴァシュロン・コンスタンタン http://www.vacheron-constantin.com/