217年前の6月26日は、時計機構の中で最高難度の複雑さで知られる「トゥールビヨン」の特許が認められた日です。発明したのは、時計の歴史を200年早めたとされる稀代の天才時計師「アブラアン-ルイ・ブレゲ」でした。
時計に革新をもたらした大発明
1801年6月26日にアブラアン-ルイ・ブレゲが特許を取得した「トゥールビヨン」は、重力による影響を相殺して機械式時計の精度を格段に向上させる機構です。彼は、生涯を通じて35個のトゥールビヨンを創作したとされていますが、そのうち現存する時計として知られているのは10個もないそうです。
トゥールビヨンがなぜ複雑かというと、機械式時計が正確に時を刻むためのガンギ車、アンクル、テンプといった脱進・調速機を、キャリッジと呼ばれる籠状のパーツに収める必要があるからです。現代では精密加工が行えるマシンがありますが、そのような設備のない時代には、パーツを手作業で作らなければなりません。
時計は、パーツの加工精度によって性能が左右されるもの。トゥールビヨンは、脱進・調速機を収めたキャリッジを回転させることで、それぞれのパーツにかかる負荷を分散させて高い精度を維持することを目指した機構なので、時刻表示がそもそも正確である必要があります。理想の精度を出すためには、部品の加工精度を高めるところから集中して作業を始める必要があるわけです。
ではなぜ、トゥールビヨンが必要かというと、時代はまだ懐中時計の全盛期。ポケットにしまわれたままの時計は、常に縦向きの姿勢でした。この姿勢が長く保たれると、金属でできたひげゼンマイが重力の影響を受けて歪んだり、たわんだりしてしまうわけです。これを解消するためにアブラアン-ルイ・ブレゲが発明したのが、脱進・調速機に回転運動を加えて、重力負荷を分散させるトゥールビヨンだったわけです。
さて、現代のブレゲは記念すべき2018年の6月26日を迎えて、1808年にスペイン王子ドン・アントニオ・ド・ブルボンに販売された「No.1188」、1809年に販売された「 No.1176」、1812年に販売された「No.2567」という3つの歴史的なトゥールビヨンを、チューリッヒのブレゲ・ブティック兼ミュージアムに展示しているそうです。
1787年からの記録が残るオリジナルの台帳にも記されている由緒正しきコンプリケーションの起源、ぜひ見てみたいものです。
腕時計に搭載される現代のトゥールビヨン
トゥールビヨンは、アブラアン-ルイ・ブレゲ以降、複数の時計師が製作に挑戦したそうですが、今も残る製品は多くありません。その事実が、機構製作の難しさを最も明確に表しているといえるでしょう。
一方、パーツの高精度加工マシンが登場し、精密な3D設計のシミュレーションも可能な現代においては、腕時計サイズでもトゥールビヨンを搭載したモデルが様々なブランドから登場しています。アブラアン-ルイ・ブレゲの伝統の正統継承者である現代のブレゲも、もちろん数多くのトゥールビヨンウオッチを製作しています。
2018年に発表したのは、文字盤にグラン・フー・エナメルを採用した「クラシック トゥールビヨン エクストラフラット オートマティック 5367」。トゥールビヨンを搭載しながらムーブメントの厚さを3mm、ケースの厚さで7.45mmにまで抑えた驚異の一本です。
かつての偉人が考案した「ブレゲ針」「ブレゲ数字」が配置されたダイアルは、艶やかな光沢を持つ純白のエナメル。その盤面の開口部からは、217年前に特許を取得した複雑機構トゥールビヨンが見てとれます。
もし、その独特の回転運動を目にする機会があれば、かつての天才時計師の功績も思い出してみてくださいね。
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