【時計業界大再編】リシャール・ミルとオーデマ ピゲがSIHH(ジュネーブ国際高級時計展)の撤退を決定
高級時計の世界には、スイスで開催される2つの重要なイベントがあります。ひとつは、3月に開催される世界最大の新作見本市「バーゼルワールド」。そして、もうひとつが1月にジュネーブで開催される「ジュネーブ国際高級時計展」、通称SIHHです。この2つの重要イベントが来年以降大きく様変わりしていくようです。
スウォッチ グループは2019年のバーゼルワールドの出展を見送り
「バーゼルワールド」は、毎年3月にスイスのバーゼル市で行われ、長らく来場者が10万人を超えていた世界最大の時計見本市です。一方で、2018年の開催は出展者数と会場規模が大幅に減少していました。場内の賑わいは例年通りのようでしたが、狭くなった会場に対しての印象なので、実際はかなり来場者も減っていたのではないかと思います。バーゼルワールドの運営サイドも明かしたくないのか、今年に限って最終的な来場者数を公表していない様子ですし、その責任を取ってか代表者も変わってしまいました。
そんな状態のバーゼルワールドに、さらに追い討ちをかけるように今度は世界最大の時計グループであるスウォッチ グループが来年のバーゼルワールドの出展を取りやめるというニュースが。会場の中心となるホール1の地上フロアのど真ん中に構えていた、オメガ、ブレゲ、ブランパン、ロンジン、グラスヒュッテ・オリジナル、ジャケ・ドロー、ハミルトン、ラドー、といったブランドのブースがゴソッと抜けた後をどうするのかが、運営サイドの大きな課題となっています。そして、もうひとつの時計見本市であるSIHHもまた、2ブランドから撤退の情報が届きました。
情報発信の多様化と販売チャネルの絞り込み
SIHH(正式名称:Salon International de la Haute Horlogerie Genève)は、1991年からカルティエを筆頭とするリシュモン グループが中心となって開催しているイベントで、2018年には過去最大の35ブランドが出展しています。ジュネーブ国際高級時計展という名に相応しく基本的には招待制ですが、2017年から最終日を一般開放デーにするという試みがなされ、翌年にはソーシャルネットワークを意識したブース作りをするブランドも増えました。またメインブランドにエルメスが加わったほか、独立系の小規模ブランドの出展スペースを設けるなど、拡大路線を続けています。
そうした傾向がある中で、リシャール・ミルとオーデマ ピゲが2019年の出展を持ってSIHHから撤退するとのこと。この2社はリシュモン グループではないのですが、グループ外でもSIHHに残るブランドがあるため、SIHHの方針転換というわけではなさそうです。
2社からの発表に共通しているのは、新たな顧客とのコミュニケーションの形を探していくということ。そもそもバーゼルワールドもSIHHも、基本的には新作時計の買い付けの場として必要とされてきたイベントでした。ルイ・ヴィトンがどちらにも出展していないのは、ブティックでしか製品を扱わないため、出展する意味がないからなのです。
リシャール・ミルは、初出展時からブランド認知度が飛躍的に高まったうえ、限られた製造本数に対してこれ以上の販売店を増やす必要がなくなったため、SIHHに出展する意味が薄れてきたようです。加えて、SNSなどでピンポイントに情報発信できる環境も整ったいま、世界中に広く新作情報を出すよりも各国の顧客にピンポイントで情報をアナウンスする方が、これからのブランディングにあっていると判断したのでしょう。
一方のオーデマ ピゲは、最近になってスウォッチ グループと非磁性合金Nivachronひげゼンマイを共同開発したというニュースもあるので、SIHH撤退の真意が色々とあるかもしれません。もしかしたら、SIHH、バーゼルワールドに続く、スウォッチ グループ主導のイベントが生まれるかもしれませんね。
バーゼルワールドは、リーマンショックがあってもなお高額な出展料を提示し続けてきたこと(噂では約1週間のためだけに大豪邸が立つほどのコストがかかる、とも)に不満を覚えるブランドに対し、運営側のケアがなかったことが規模縮小の大きな要因と言われています。新しい代表者がどのような立て直しの施策を打つのか、来年のバーゼルワールドは要注目です。そして、その翌年のSIHHでは、オーデマ ピゲとリシャール・ミルに代わるブランドが参加するのか、はたまた独立系の小規模ブランドがさらに拡大していくのか……。
一定の膨張が止まれば、今度は収縮に向かっていくのは、宇宙の理と同じこと。時計産業も永続的な膨張も収縮もないわけですから、この転換期を経た先にどのような未来が待ち受けているのか、時計専門媒体として今後も注視していきたいと思います。