最高位の美しい旋律が時を告げる――ミニッツ・リピーター機構(後編)

複雑さを極めたミニッツ・リピーター機構。どの部品が、どのように動いて時刻情報を鐘の音色で奏でるのか、後編ではその秘密を図解で解説します。

ミニッツ・リピーター機構とは?――その驚愕のメカニズム(前編)はコチラから!

 

パテック フィリップのミニット・リピーター搭載ムーブメント、Cal.R 27 PS

Cal.R 27 PS QR LU

パテック フィリップのミニット・リピーターモデル(同社では、ミニッツ・リピーターを「ミニット・リピーター」と呼称)の一部に採用されるCal.R 27 PSに、永久カレンダー機構などを追加したグランド・コンプリケーション・ムーブメントが、最上級ブランドに相応しい「Cal.R 27 PS」です。22K製マイクロローター、ジャイロマックステンプなど、高機能と美しさ両立するパーツを数々搭載しています。写真では見えませんが、ムーブのダイアル側に「現在時」のカウント機構が集約されています。

 

ミニット・リピーター機構部分を拡大図解

まず、3つのカムが現在時刻を判別する

ミニット・リピーターが現在時刻を判別するには、まず図⑧⑨⑩3つのスネイルカムが駆動することからはじまります。
⑩アワースネイルカムは12段の歯で「時」を、⑧クオータースネイルカムは4段の歯で「15分毎」を、⑨ミニットスネイルカムは14段の歯でクオーター以降の「分」を担当。それぞれのスネイルカムから歯数を読み取ることで、レバー操作した際にハンマーが何回ゴングを叩くべきか、その回数を判別しています。

 

判別した通りに鐘を鳴らす仕組み

上の3つのカムで読み取られた「叩くべき回数」は、レバー部品などを通じて③アワーラック→⑦クオーターラック→⑤ミニットラックへ伝えられ、その回数だけ④フュージーなどに制御されながら各ラックが駆動します。
アワーとミニットハンマー部品の軸に取り付けられた⑥フィンガーと呼ばれる部品を各ラックが弾くことで、ハンマーがゴングを叩く構造になっています。

 

音色のチューニング

ハンマーがゴングを叩くことで発生する音色は、ゴングの取り付け具合やハンマーの叩く力などで微細に異なるため、専任職人が高度な聴力と音感、熟練した技でこれを微細に調整しているのです。パテック フィリップではアタック(音の出だしの力)、ハーモニー(快い和音)、ピッチ(音の高低)、音の対(音響学的に均等のとれた高低音の組み合わせ)、防音室で記録された音響波形を過去の作品例と比較するなど十数項目を厳格に審査しています。「パテック フィリップに相応しい理想的な音」を実現したと認定されるまで、徹底したチューニングがなされています。

 

ミニッツ・リピーターを理解するうえで欠かせない4つの基礎知識

パテック フィリップ グランドマスター・チャイム Ref.6300 時価
世界最高位と称される伝統機構を進化させた、現代における究極の逸品。グランド・ソヌリやミニット・リピーター、アラームなど5つのチャイム機構を含む20もの複雑機構を搭載。特許取得の反転式ケースでは、前面で時刻表示やチャイム設定など、裏面で永久カレンダーなどの表示機能を持つ。ムーブメントだけで1366点、ケースは214点の合計1580パーツで構成される超絶の複雑時計だ。ケース径47.4mm。非防水。18KWGケース

 

1.リピーター機構の種類

分単位までを知らせるミニッツの他、15分単位までのクオーター、5分単位までのファイブミニッツが伝統的な機能です。また、15分単位ではわかりにくいため、クオーターの代わりに10分ごとの経過数で(30分なら3回)鳴るデシマル・リピーターと呼ばれる種類もあります。

 

2.リピーターとソヌリの違い

リピーターは任意にレバー操作で音を奏でますが、ソヌリは特に操作しなくても毎正時や15分ごとに自動的に鐘が鳴ります。ソヌリには0分・15分・45分・毎正時ごとに時の数とクオーターの数だけ鳴るグランド・ソヌリと、時の数は毎正時のみ、その他はクオーターの数だけ鳴るプチ・ソヌリがあります。

 

3.NGな操作

リピーター機構は時・分針と密接に連動しているので、作動開始~終了30秒後までは、時刻合わせなどの調整作業、スライドレバーの再始動は厳禁です。また、作動時以外でも「針を逆回しする時刻調整」は、各種スネイルカムのズレなどを発生させるのでNG行為だと覚えておきましょう。

 

4.同素材のケースや同じ部品なら、同様の音色を奏でる?

ケースや部品が同一でも、調整の具合などに影響されて、音色は「人の指紋のよう」に個々に異なります。そのためパテック フィリップでは、前述の十数項目のチェックに加えて、最終的にはティエリー・スターン社長自らがモデルひとつひとつの音色を判定し、最終的な合否を決定しているといいます。

 

【総評】

リピーター機構は、精密な部品を工作するというだけでは製造できません。特有のノウハウを熟知し、それを実践できるテクノロジーや時計師が不可欠なのです。パテック フィリップでは1839年以来、リピーターを製造してきた高度な技術とノウハウを背景に、独自の遠心ガバナーを採用して作動中の“ジー”という雑音を極限まで減らし、クリアな音色を実現しています。これらに象徴される最高品質のリピーター機構の研究と開発を、180年に渡って継続しているのです。。

 

<取材協力・撮影提供>
問パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL.03-3255-8109
https://www.patek.com/ja/

 

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