ミニッツ・リピーター機構とは?――その驚愕のメカニズム(前編)

単に機構の複雑さだけでなく、奏でる音色の芸術的な造詣の深さも要求される「ミニッツ・リピーター機構」。機械や部品、は微細を極め、その組み立ては最高峰の技術が要される。独自のノウハウを基に制作される、驚愕のメカニズムとは?

 

美しい鐘の音とリズムで現在時刻を優雅に奏でる

ミニッツ・リピーターとは、レバーを操作すると内部のゴングをハンマーが叩き、現在の時刻を音色で知らせてくれる機構のこと。ゴングとハンマーは高音用と低音用の2セットが通常は装備され、「時」の数を低音で、「クオーター( 15分ごとの経過数)」を低音+高音の組み合わせ、「分」を高音で鳴らすのが一般的です。

時計には各種のハイコンプリ機構がありますが、機構の緻密さといった工学的な観点だけでなく、音響や音質など芸術的な側面が求められるのがミニッツ・リピーターの特異な点です。

ネジの締め方、ゴングの微細な歪みやたわみ調整など、その製造には独特なノウハウを必要とします。専任の熟練職人だとしても、組み立てや調整に200〜300時間を要するという超複雑機構の秘密を、今回は同ジャンルのパイオニアと称されるパテック フィリップのムーブメントを例にひも解きます。

 

「時」を「音」に変換する創意と技術の進化

レバー操作などで時を知らせる〝チャイム・ウオッチ〞と呼ばれる機構のルーツは、17世紀末まで遡ります。当時は時計内部で青銅製の鐘を打つ方式などが採用されていましたが、18世紀末に環状のリング(ゴング)をハンマーで打つ、現在の機構の源流が登場し、小型化が促進。超高級なオーダーメイド懐中時計などに用いられるようになりました。

1910年にメキシコの貴族レグラ公のために製作された懐中時計。5本のゴングで5つの音階を表現し、ウェストミンスターチャイムを奏でるソヌリやミニッツ・リピーター機構などを搭載。ケースの表裏には、レグラ公の紋章が七宝細工で描かれている

 

そんな懐中時計時代から、革新的な機構や優れた音質で「絶対王者」へと登り詰めたのがパテック フィリップなのです。
1910年には5本のゴングでウェストミンスターの鐘の音のメロディを忠実に再現したレグラ公用の懐中時計を、2000年には従来の約2倍の長さを持ち音質を飛躍的に向上させたカセドラルゴングを発明するなど、このジャンルの革新と進化を主導しました。

従来のゴングの2倍、ムーブをほぼ2周する長さを持つカセドラルゴング。長さを増した分、豊かで力強い音色と長い残響効果をもたらす

 

ミニッツ・リピーター機構は、1970年代に専任技術者の後継が途絶えたためスイス時計界でその歴史が消えかけたが、パテック フィリップが製作技術やノウハウを再構築。1989年からレギュラーコレクションとして復活させた

 

近年は同社をはじめとする超高級メゾンが、音響効果の究極的な向上や、他の複雑機構との融合を実現した超絶モデルを続々と開発。17世紀末の誕生以来、ミニッツ・リピーターは現在も進化し続けているのです。次回は、ミニッツ・リピーター機構について図解で解説します。

 

問:パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL.03-3255-8109
https://www.patek.com/ja/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0

 

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