【時計界の偉人列伝】セイコーを、そして日本時計界の礎を築いた「東洋の時計王」――服部金太郎

服部金太郎(1860年-1934年)は、早くから独立・起業を目指し、時計業界の将来性に目をつけて時計修理技術を磨きました。弱冠17歳で服部時計修繕所を設立。同氏の功績なくして、日本の時計産業を語ることはできない偉人といえます。

 

世間よりも一歩先を歩んだ天性の時計商人

(左)服部金太郎
(右)輸入時計の卸業だけでは飽きたらず、1892年に時計製造工場「精工舎」を設立。掛け時計の製造からスタートした。写真は1909年頃の様子

ペリー来航から7年後の1860年、古道具屋の一人息子として生まれた服部金太郎は、11歳のとき、東京・京橋の輸入雑貨問屋へ丁稚奉公に出ます。勤勉な性格で仕事を覚えるのも早かったといいます。

当時から独立を目指していた金太郎は、近くの時計店が繁盛している理由を知って驚きました。輸入時計の販売だけでなく、客足が少ない雨の日でも時計の修理をやって利益を得ていたのです。

「これなら雨の日でも大切な“時”を無為に過ごさなくてもいい。そうだ、時計屋になろう」。金太郎はそう決心して、日本橋の亀田時計店に転職します。その2年前に明治政府は、太陰暦に代わって太陽暦を正式採用していました。時計が庶民の必需品になるのは時間の問題だったのです。

16歳で上野の坂田時計店に移り、“技術は日本一”といわれた修理や販売を学びます。ですが翌年、店主が時計以外の事業に手を出して失敗し、倒産。自宅に戻った金太郎は、「服部時計修繕所」の看板をかかげ、中古時計の修理・販売を始めました。同時に別の時計店を手伝って懸命に貯金。4年間で150円を貯め、1881年、銀座の裏通りに「服部時計店」を創業します。

当時、東京の時計店は横浜の外国商館から輸入時計を仕入れ、1ヶ月後に代金を支払う信用取引でしたが、西洋の商習慣が浸透しておらず、支払いが数か月遅れることもザラでした。ところが金太郎はどんなに困難でも支払期日を守りました。それが外国人輸入商の信頼を得ることにつながり、取引量は増大、珍しい商品も優先して回してもらえるようになり、創業6年で銀座の表通りに進出を果たします。

 

大戦景気に乗って東洋の時計王と呼ばれるように

ですが、金太郎の目標はあくまで国産時計を作ることでした。1892年には、精巧な柱時計の生産を目指して「精工舎」と名付けた時計工場を設立し、機械加工の天才だった吉川鶴彦の腕を見込んで工場長に抜擢します。その2か月後には、掛け時計の製造に成功しました。

当時の柱時計製造の中心は名古屋で、完成品メーカーは下請けの部品を集めて組み立てだけを行っていました。しかし金太郎は品質を維持するために自社で部品を作り、少し高い価格で売る、という戦略に出たのです。

時代が柱時計から懐中時計へ移るのに応じて、精工舎は1895年、最初の懐中時計「タイムキーパー」を完成させました。しかし残念ながら輸入時計との競争に勝てず、量産化のネックだった部品(主にピニオン)の自動加工機を吉川が完成させるまで、懐中時計事業は15年も赤字を続けました。それでも金太郎が止めなかったのは、「国産の時計事業を世に残したい」という強い思いがあったからです。

1892年の掛け時計に続き、懐中時計の開発に着手。輸入品を研究し、ついに1895年、精工舎初の懐中時計「タイムキーパー」が完成へと至った

第一次世界大戦が勃発すると、ドイツ時計の輸出が止まり、日本の輸出が激増しました。それを見込んで材料を大量に仕入れていた精工舎は、ライバルメーカーが材料不足に直面するなか、大戦景気に乗ってアジア市場で欧米メーカーと覇権を争うまでに成長します。これにより、金太郎は“東洋の時計王”と呼ばれるようになりました。

1913年には国産初の腕時計「ローレル」を発表するなど、そのまま順調に事業を拡大していくかに見えた1923年、本社と精工舎の工場が関東大震災で全焼。62歳になっていた金太郎も、さすがに落胆しましたが、4日後には「昨日は止めるといったが…」と精工舎の再開を宣言して復興に努め、翌年には生産を再開しました。腕時計に「SEIKO」の名称がついたのも、ちょうどこの頃からです。

1932年、今も銀座のシンボルとして親しまれる時計塔(現・和光)が完成。晩年には私財を投じて学術奨励の財団法人も設立し、事業家としても尊敬された金太郎は、時計塔完成の2年後、73歳で生涯を閉じたのでした。彼の死後も、その国産時計に対する情熱と技術は受け継がれ、セイコーブランドを筆頭に“日本製”が世界中で信頼される存在になっていったのです。

1913年、国産初の腕時計「ローレル」を発売。小型時計の製造は当時困難を極め、懐中時計が1日200個製造できたのに対して、30個が限界だったという

 

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