<取材・撮影協力>
G-SHOCK
2023年に誕生40周年を迎えた【G-SHOCK】は勢いそのままに、およそ6年ぶりにMASTER OF G「レンジマン」の新作「GPR-H1000」をリリースした。カシオが培ってきた数々のハイテク機能に注目が集まる一方で、理想の実用性やG-SHOCKらしいスタイルを追求したディテールにも目を向ける必要がある。そこには、究極のフィールドウオッチたる証が隠されているのだ。
新レンジマンはG-SHOCK最高峰のコストパフォーマンス性を感じさせる
まず初めに新レンジマン「GPR-H1000」のコストパフォーマンスの高さについて触れておきたい。ずばり6万6000円という価格設定は、値上げが止まらない昨今の時計市場を鑑みれば誠実さを感じさせる。カジュアルウオッチとしては少々高く感じる人も居るだろうが、アウトドアユースに最適化されたセンサー類やスマートフォンとの連携、さらには活動量計といった急速に需要が高まっている機能を備えていることを加味すれば、十分に満足感の高いG-SHOCKだとわかる。
↑カーボン繊維強化樹脂ケースバックに光学式心拍センサーと専用USBコードで充電できるコネクターを備える。レンジマンの象徴であるヤマネコも受け継がれている。
レンジマンの新作「GPR-H1000」は、先代「GPR-B1000」に比べて明らかなサイズダウンと機能追加を実現している。ここでその進化の過程を振り返ってみよう。“陸のMASTER OF G”には、レンジマンの他にマッドマン&マッドマスターが存在し、いずれも1985年に初めて実用化された「マッドレジスト構造」を備えているのが特徴だ。
今回の主役であるレンジマンの系譜は、2013年に初代となる「GW-9400」がデビュー。G-SHOCKで初めてトリプルセンサーを搭載し、その根強い人気からロングセラーを記録している。その後2018年にトリプルセンサー+GPSナビゲーションの「GPR-B1000」が登場。世界初のソーラーアシストやスマホとのリンク機能など、新作「GPR-H1000」のベースとなるサバイバルで機能するナビゲーターというポジションを確立した。いずれもデジタルディスプレイのモデルである。また、アナログモデルとしてはマッドマスターの3機種が現行としてラインナップされており、こちらも好評を博している。
〈陸のMASTER OF Gの現行デジタルモデル〉
〈陸のMASTER OF Gの現行アナログモデル〉
これら陸のMASTER OF Gの開発で培われた技術を持ち寄り、新レンジマン「GPR-H1000」は生み出されたわけである。そのため抜群のパフォーマンスを誇るのは必然。最も機能的に近い先代の「GPR-B1000」との比較を見れば、その進化をより実感できるはずだ。
【新旧レンジマン比較「GPR-H1000」&「GPR-B1000」】
↑左が新作「GPR-H1000-9JR」。右が先代「GPR-B1000-1JR」。縦のサイズは差がないものの、横のボリュームが明らかに違う。ベゼルのメタルの使い方にも相違がある。
↑センサー部分の突出部の関係もあって両モデルはほぼ同じ厚みだが、新作はよりスマートになった。着け心地も快適さが増している。
<新作> GPR-H1000-9JR |
<先代> GPR-B1000-1JR |
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横(3時 – 9時位置) | 53.2mm | 57.7mm | |
縦(12時 – 6時位置) | 60.6mm | 60.3mm | |
厚さ | 20.3mm | 20.2mm | |
重さ | 92g | 142g | |
搭載機能 | ●USB充電+ソーラーアシスト充電 ●Bluetooth ●GPS ●6センサー |
●USB充電+ソーラーアシスト充電 ●Bluetooth ●GPS ●3センサー |
新作「GPR-H1000」と先代「GPR-B1000」を比べると、ダウンサイジングと大幅な軽量化の実現によって装着性が高められていると同時に、より豊富に機能が搭載されていることがわかる。特に「GPR-H1000」は心拍数の計測が可能となり、パフォーマンス向上や健康管理のためのサポートウオッチとしても期待できる。
要所にメタルパーツを採用。適材適所の素材選択がレンジマンのあるべき姿を生んだ
このようにディテール、スペック、そしてプライスにおいても「GPR-H1000」がレコメンドしたくなるG-SHOCKであることは疑いようがない。この革新的なレンジマンの開発を指揮したチーフプランナーの小島一泰さんとデザインを担当した濱上朋宙さんに、プロダクトの自信のほどを今回尋ねた。
筆者は、以前よりも軽量化することを目的に「GPR-H1000」は外装素材にバイオマスプラスチックを多用していると推測。レンジマンの“定番”だったベゼル上のビスが廃止されたことも、軽量化ための工夫だと感じた。しかしこれらには、さらなる深い理由があった。
(小島さん)「レンジマンは、ジャングルや山岳といった過酷な環境でミッションを遂行する“レンジャー”を語源とするように、陸上活動のプロフェッショナルのためのG-SHOCKです。今作の開発時もレンジャーの方に意見をうかがったところ、メタル素材剥き出しの時計は車両など狭い移動空間の中では着用しにくいという声をいただきました。重要な機材や救護者を傷つけてはならない、そうした配慮からのアドバイスです。これをヒントとして前面のベゼルカバーはプラスチック素材をメインで構成することとしました」
(濱上さん)「落下や衝突などの衝撃からモジュール、センサー、GPSアンテナといった精密デバイスを保護することは、ケース左右側面のメタル製大型ガードが担っています。機能を持たせたパーツではありますが、製作現場の協力があって表面の仕上げにもこだわることができました。この特徴的なメタルパーツは、ベゼルを強固にねじ止めする役割りも果たしているため、今作では正面のビス固定は必要ないと判断したわけです」
↑新作「GPR-H1000」のセンサーは、サイドメタルパーツによって保護されている。貫通させているのが特徴だ。
↑先代「GPR-B1000」のセンサーは露出しており、固定されたバーがガード。
メタルガードパーツは左右で製造方法が異なることも明確な理由があるという。これはカシオのCMFデザイン(C=カラー、M=マテリアル、F=フィニッシュ)のレベルを表すものと言える。
(小島さん)「9時側は堅牢な鍛造成形を採用し、繊細なセンサーがレイアウトされている3時側には自由度の高いMIM(メタルインジェクションモールディング)成形を使っています。気圧や温度を計測するセンサー周辺の構造は、水抜けを考慮して内側を貫通させた特殊な作りとなっています。このような複雑な形状をメタルで成立させるため、粉末状の金属を射出成形するMIMが最適だという判断に至りました」
↑3時側にセットされているMIM成形のメタルパーツ。左から[MIM成形後]→[表面への筋目仕上げ後]→[IP加工後(上がGPR-H1000-1JR、下がGPR-H1000-9JR]
↑9時側にセットされている鍛造成形のメタルパーツ。左から[鍛造成形後]→[表面への筋目仕上げ後]→[IP加工後(上がGPR-H1000-1JR、下がGPR-H1000-9JR]
「GPR-H1000」はサバイバルギアとしてのデザインに徹しつつ、鮮やかなイエローの配色やメタルの質感の高さなど、随所にワンランク上のG-SHOCKらしさを感じさせる。そのこだわりはヘッドだけに留まらないようだ。
(小島さん)「ハードな現場で従事されている各方面のプロの方々のリクエストは開発者視点の想像を超えるものばかりで、G-SHOCKを進化させるうえで大変貴重な資料となっています。例えばバンド表面に施した細かい凹凸のテクスチャーは、グローブをした状態でも確実に時計の向きを調整したいという声から着想を得て作られたものです。また素材に関しては、切れにくいカーボンファイバーインサートバンドの採用も検討しましたが、より精密なハートレートのセンシングを追求するために腕馴染みの良いソフトウレタン製としています」
↑独自デザインのテクスチャーを施したソフトウレタンバンドと共に秀逸なのがメタル製の2つ爪バックルと遊環。ジャストフィットのために穴が通常より多く設けられている。
(濱上さん)「もちろんどのG-SHOCKも心地よい装着感を目指していますが、特にハートレート搭載モデルはヘッドのフォルムや重さに合わせたバンドの選択が重要となります。そこで多くのユーザーにフィットするように何度も試作を重ね、このソフトウレタンバンドが完成しました。また、ケースとの繋ぎ目の樹脂パーツ(レンジマンのキャラクター=ヤマネコのシルエットの刻印がある部分)をあえて小型なサイズとするなど、隠れたディテールまでこだわり抜いています」
ヘッドのパーツ展開写真を見ると、メタル、バイオマスプラスチック(モジュールを覆う白いインナーケース。GPS感度をアップさせる処理を施したバイオマスエンジニアリングプラスチックを採用)、ステンレス製シリンダー型パーツ&ボタン、ガスケットなど、各パーツが複雑に組み合わさって形作られていることが理解できる。聞くところによれば、これらの組み立ては手作業とのこと。あらゆるマテリアルの表現力で時計界をリードするカシオの技術力の結晶であり、ショックレジスト、マッドレジスト、そして20気圧防水のタフさの源でもある。
6種類の先進センサーとGPSで「GPR-H1000」は欲しい計測機能を集約
「GPR-H1000」は、センサー付きコネクテッドウオッチに求められる計測機能を厳選し、搭載している点が好印象である。機能操作も直感的にでき、悩まされることはほぼないだろう。9時側の上下ボタンでモードの切り替えができ、高精細かつ高コントラストのMIP液晶上にイラストが大きく出現するためわかりやすく、9時側の中央のボタンで選択という明快さ。さらにUSB充電に加え、ソーラーアシスト充電により、充電量が少なくなっても時刻表示はソーラー発電のみで駆動するので不安が少ない。
(小島さん)「GPSを内蔵しながらマッドレジスト構造を実現した、レンジマンの真骨頂となる自信作です。9種類のアクティビティ(トレッキング、ランニング、バイク、ジムワークアウト、インターバルトレーニング、プールスイミング、オープンウォータースイミング、トレイルランニング、ウォーキング)に対応している他、タイドグラフなども表示可能です。脈々と続くレンジマンのスピリットも感じていただけるセルフマネジメントのためのG-SHOCKが完成しました」
(濱上さん)「GW-9400とGPR-B1000は共にG-SHOCKの歴史に欠かせない名作です。これに続く3代目レンジマンをデザインするにあたり、チャレンジを心掛けました。結果、個性あるサイドメタルパーツと多角ベゼルによって新たなアイコンデザインを作れたと実感しています。この新しいデザインと一緒に、トレッキング向けのデータ計測に代表される新機能を楽しんでいただければ嬉しい限りです」
LED光を照射して体内の血流量の変化を計測し心拍数を測定する「光学式心拍センサー」、行動を解析して歩数などの活動量を計測する「加速度センサー」、プールでの泳法やターンなどを測る他に方位補正にも役立つ「ジャイロセンサー」、フィールドの方位、高度/気圧、温度を把握するための「トリプルセンサー」を搭載。これらにGPSを組み合わせることで詳細なデータが得られる仕組みになっており、CASIO WATCHESをインストールしたスマホとBluetoothで連携してデータ管理や各種設定ができる。
満を持して6年ぶりにモデルチェンジを行ったレンジマンの最新作となる「GPR-H1000」は、開発陣の妥協を許さない姿勢が生んだ魅力多きモデルであり、陸のMASTER OF Gのラインナップはさらに盤石なものとなった。トレッキングやランニングなど、ポストコロナ時代のアウトドアやアクティビティの広まりに打ってつけのG-SHOCKが、今ここに誕生したのだ。
G-SHOCK「レンジマン GPR-H1000-9JR」 6万6000円/クオーツ(GPS+6センサー+ソーラーアシスト充電)。バイオマスプラスチックケース+カーボン繊維強化樹脂ケースバック、ボタンガード/センサーカバーステンレススチール、バイオマスプラスチックバンド。縦60.6×横53.2mm、厚さ20.3mm、質量92g。20気圧防水。
G-SHOCK「レンジマン GPR-H1000-1JR」 6万6000円/クオーツ(GPS+6センサー+ソーラーアシスト充電)。バイオマスプラスチックケース+カーボン繊維強化樹脂ケースバック、ボタンガード/センサーカバーステンレススチール、バイオマスプラスチックバンド。縦60.6×横53.2mm、厚さ20.3mm、質量92g。20気圧防水。
モデルの詳細はコチラ>>>
【GPR-H1000/搭載機能一覧】
• 耐衝撃構造
• 防塵・防泥構造
• 20気圧防水
• USB充電+ソーラーアシスト充電
• スマートフォンリンク(Automatic Connection)
• GPS衛星電波受信機能
• 心拍計測機能
• 血中酸素レベル計測機能 ※
• 歩数計測機能
• 行動解析機能
• 方位計測機能
• 高度計測機能
• 気圧計測機能
• 温度計測機能
• アクティビティ計測機能
• アクティビティログ
• ライフログ
• トレーニング分析機能(Powered by POLAR®)
• 睡眠計測機能(Powered by POLAR®)
• 呼吸エクササイズ(Powered by POLAR®)
• タイドグラフ
• アルマナック(日の出・日の入時刻、月齢)
• ワールドタイム(38都市)
• 機内モード
• ストップウオッチ
• タイマー
• 時刻アラーム4本
• バイブレーション機能
• フルオートLEDバックライト(スーパーイルミネーター)
※ 血中酸素レベル計測機能は、具体的な疾病の診断をはじめとする医療機器としての使用を意図するものではなく、一般的な健康維持のみで使用されることを目的としています。
問い合わせ先:カシオ計算機 お客様相談室 TEL.0120-088925 https://gshock.casio.com/jp/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。
Text/山口祐也(WATCHNAVI) Photo/江藤義典