フランスを代表する時計ブランド「ピエール・ラニエ(PIERRE LANNIER)」をご存知だろうか。1977年の創業より親しみやすい価格帯の腕時計を作り続け、1980年代から日本での展開をスタート。現在は人口600人ほどの村にある工場で、1日に800〜1200本ほどの腕時計を製造している。それらはマシンによる作業はもちろんあるものの、どのような時計であっても製造工程に人の手が欠かせないという。
このようにピエール・ラニエはマスプロダクトでありながらハンドメイドも重んじるフレンチブランドとして興味深く、しかも現在のCEO兼社長であるピエール・ブルガンさんはフランスの時計製造協会の代表者でもある。そんなピエールさんがブランドの輸出担当でもある娘のローラさんを連れ立って3年ぶりに来日するとのことで、ウオッチナビ編集部は取材する機会をいただいた。
「私たちは時計を通じてフランス流の『暮らしの芸術』を表現していきたい」
–来日は3年ぶりだと伺いました。
ピエールさん:私はパンデミックが終息してから初めて日本に来ました。ただ、輸出を担当する娘のローラは年に2回は日本に来ていて、次の新作を実際に説明しながら日本の代理店とミーティングを行なっています。
–年2回はハイペースですね。
ピエールさん:現在、私たちは年間に80本ほどの新作を出していますし、その後の展開についても話すことが多いので必要な回数だと思います。ちなみに、10年以上前は1年に300本ほどの新作を出していました。
–300本! それはすごく多いですね。どうして数を絞る判断をしたのでしょうか?
ピエールさん:それまでは低価格のクオーツのみを扱っていたのですが、すごく尖ったデザインも多くて、新作すべてを全店に置いてもらうことが大変だったんです(笑)。だから10年前に私が方針を転換して、機械式時計も取り入れながらもっと新作を丁寧に時間をかけて開発することにしたのです。いまは6名のデザイナーが80本の新作を作っています。ピエール・ラニエにはいわゆる何十年も続くロングセラーはなく、長くても3〜4年で製造終了とする一方で、時代の流れに応じた新作を出し続けています。背後に大きな資本があれば定番品と新作を並行し続けることもできるでしょう。ただ、ピエール・ラニエはファミリービジネスですし、そのようなビッグブランドと肩を並べようとは考えていません。それよりも、フランスの時計ブランドとしてのクリエイティビティやオリジナリティ、そしてフランスの生き様、アール・ド・ヴィーブル(art de vivre=暮らしの芸術)を表現していきたいと考えています。

–ピエール・ラニエのホームページを拝見したら、エリゼ宮の時計をコレクションとして展開されていました。これはどういった経緯で誕生したのでしょうか?
ピエールさん:フランス共和国大統領官邸であり執務室でもあるエリゼ宮殿は、建築されてから300年が経ちました。そのエリゼ宮が有名なフランス企業数社と共同でオリジナル商品コレクションを販売しているんです。その売り上げは“歴代フランス大統領官邸”改修工事資金の一部に充てており、その企業のひとつとしてピエール・ラニエも選ばれたわけです。
–メイド・イン・フランスを代表する時計ブランドとして、いわば政府公認お墨付きを得ているわけですね。

ピエールさん:その通りです。機械式時計だとムーブメントに日本のMIYOTAなどを使っていますが、ちゃんとメイド・イン・フランスの基準を満たす製造体制を整えています。WATCHNAVIの読者のように時計がお好きな方だと隣国スイスのムーブメントを使えば良いのではないかと思われるかもしれませんが、それだと時計が高価になってしまうのです。ピエール・ラニエはフランスの国民的ウオッチブランドとして手の届きやすい価格を維持していく必要がありますからね。こうしたコスト意識を徹底することで、現在の500ユーロ以下の自動巻き時計におけるフランス国内でのシェアは、ピエール・ラニエが約30%を占めることができました。

–フランスを代表するブランドに日本のムーブメントが使われていることは光栄です。
ピエールさん:10年前に機械式時計を強化しようと思ったのは、スマートウオッチが台頭してきたからです。クオーツはおそらく苦しい状況になるかもしれないけれど、機械式時計のような情緒のあるトラディショナルなアイテムはその魅力が見直されていくと考えたんです。その中でも「買い求めやすい価格を維持した大人のための時計を作ろう」というのが、ブランドの方針となっています。うまく軌道に乗せることができたのは、費用対効果の高いMIYOTAのムーブメントのおかげでもありますね。それ以外にも、ピエール・ラニエは新作についても日本からの要望を受けて開発したものがありますよ。こちらのブレスレットはストラップ幅が8mmのもので、日本から長らくリクエストのあった小型サイズを製品にしました。いまはコンパクトな時計の需要が高まっているので、ピエール・ラニエでもラインナップに加えることにしたのです。といっても、小さな腕時計についての要望は、日本からずっと受けていたんですけどね(笑)。
ローラさん:実はこの新作は、私が今回初めて日本に持ってきたの。発売はもう少しだけ先になるので待っててくださいね(笑)。

ピエールさんはフランス時計製造協会の代表も努める
–日本の女性はとくに小さい時計を好むという話は常々聞いています。とても人気が出そうなモデルですね。ところでピエールさんは、現在のフランス時計製造協会の代表でもあるとお聞きしました。現在のフランス時計産業の状況を教えていただけますか?
ピエールさん:私が代表を務めているフランス時計製造協会には約100社が加盟していて、4000人ほどが時計関連の職業に携わっています。国内の時計産業の規模はおよそ42億ユーロです。ちなみにスイスは250億ユーロですから比べる対象にはなりません。だからフランスの時計ブランドは互いに切磋琢磨をしながらも、ともにフランスの時計産業を盛り上げていきたいという思いを共有しています。国外での時計の展示会があればフランスコーナーとして同じスペースにブースを構えますし、日本で同じ代理店が扱っているエルブランなどとも仲が良いんですよ。
国内のトレンドに関してお伝えすると、これはきっと世界的なトレンドだと思いますが、フランスでも時計を作るマイクロブランドや個人作家がとても増えています。クリエイターが直接個人に販売をするD to Cが盛んですし、10月にパリで行われたフランス国内の時計見本市「WE LOVE WATCHES」もとても盛り上がりました。もちろんロレックスに代表されるスイスのビッグブランドは変わらず人気ですが、その一方でもっと個人的な楽しみとして他にはない時計を選ぶ人が増えてきたように思います。
–時計のショーは世界的に増えていますし、日本でも小規模ブランドは増えていますから、作り手と対話しながら自分が良いと思った腕時計を購入する買い手の存在は、確かに世界的なトレンドと言えそうですね。ちなみに時計ブランドの規模でいうとピエール・ラニエはフランスでどれぐらいの位置にあるのでしょうか?
ピエールさん:ジュエリーやライフスタイルアイテムまでカバーするようなビッグメゾンを除けば、私たちはフランスでNo.1の規模だと言えるでしょう。間違いなく言えるのは、私たちの工房がある村が人口比率で最も時計を製造しているエリアだということ。単純計算ですが、年間で一人当たり600本の腕時計を製造していることになります。なにしろ人口600人ですからね(笑)。

インタビュー後記
終始、娘のローラさんと顔を見合わせながら笑顔で取材に対応してくれたピエールさん。その明るい人柄は、ピエール・ラニエの時計にも反映されているようだ。オーセンティックなデザインはもちろん、奇抜な意匠を施したモデルにもフレンチブランドに特有の気品とポジティブな雰囲気が漂っている。
このピエール・ラニエとエルブランの日本における総輸入元である代理店のタパック代表・西田さんに話を聞くと、タパックが日本に展開を始めたのは1988年から。扱いを決めたきっかけは、当時の代表がフランス革命200周年にちなんだ腕時計を探していた際に見つけたからだという。なお、このときピエールさんはすでにブランドに関わっており、西田さんとはともに日本でブランドを盛り上げてきた仲なのだそう。
「私は10年前にブランドの方針転換を決めましたが、その当時といまでは時計業界の状況もずいぶん変わりました。これからはローラがブランドを指揮することになるので、次の時代を見据えたブランドになることでしょう。そのような時代の変化にも柔軟に対応できるところがファミリービジネスの良さですね」(ピエールさん)

筆者としては高級時計の価格高騰が続くなかにあって、2万円台から購入可能なメイド・イン・フランスの腕時計があることはとても興味深い。それ以外にも時計製造におけるフランス代表として企業努力を続けるピエール・ラニエは、これからますます注目を集めそうだ。
問い合わせ先:タパック TEL:03-3354-5341 https://pierre-lannier.jp/ ※価格はすべて記事公開時点の税込価格です。
Text/Daisuke Suito (WATCHNAVI) Photo/Watch : Atsuyuki Shimada, Interview : Keita Takahashi (TRS)
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