セイコーから先日発表された大谷翔平選手(MLBロサンゼルス・ドジャース所属)のためのコンセプトウオッチ、「Seiko Star Time(セイコー スタータイム)」(非売)。前代未聞となる「100万時間の積算計」を搭載する本作はいかにして生まれたのか。開発陣の証言を軸に、紐解いていく。
セイコーが大谷選手へ世界で一本だけの「Seiko Star Time」を贈呈

セイコーが大谷選手をアンバサダーに迎えたのは、2016年のことだった。今年10周年の節目にあたってグローバルアンバサダーへと移行するとともに、大谷選手のためだけのコンセプトウオッチ「Seiko Star Time」が開発された。この腕時計は彼の人生に寄り添って「100万時間(約114年)」を共に歩むという、常識を覆すスペシャルピースとなっている。その開発には、セイコーの中でもトップクラスの知見や技術を持つ人材が集められ、社内でもごく一部しか知らない極秘プロジェクトとして進行してきた。その開発のスタートは、大谷選手自身の時間に対する哲学だったという。
(デザイン担当・檜林さん)「大谷選手の考えとして、一日ごとの細かな時間まで大事にしているというお話がありました。そこから夜空をイメージして、大谷選手がオーダーされた“100万時間を刻む時計”を、『Seiko Star Time』というコンセプトで提案しました」
一日一日の時間を大事に。いかにも大谷選手らしい哲学だが、100万時間という途方もない時間を、どのようにして小さな腕時計の文字盤で表現するかが大きな課題となった。そこで、文字盤上には一般的な時分針ではなく、代わりに星々の軌跡を思わせる複数の「円盤針」が重なり合って時を刻む構造を考案。中央の円盤が24時間で1周し、その外側が1,000時間、さらに外側へ行くほどゆっくりと回転していく仕組みだ。果てしなく続く時間を可視化するため、機構の検証も常識外れの手法で行われた。

↑針ではなく円盤そのものを回すため、トルクの確保と部品の重さがどれほどの障壁になるかは想像に難くない。さらに、腕時計としての実用的なサイズに落とし込むことも求められたため、薄型化や軽量化の限界に挑んだ。
(ムーブメント設計担当・河田さん)「コンセプトとしてとにかく薄くしたいという思いがありました。通常、円盤針には文字盤で使っている真鍮を使いますが、今回はできるだけ薄くするため、反らない硬い素材を採用しています。十分な剛性を持っており、薄くしても反らない材料です。耐久テストも通常では考えられないレベルで実施し、実に約3日間で115年分を動かす検証を行いました。そのため機構の耐久性には、確固たる自信を持っています」

サイドから眺めると、ドーム型のボンベガラス(サファイアクリスタル製)の内側に、円盤針が見事に収まっていることがよく見て取れる。
(ムーブメント企画担当・内山さん)「ムーブメントも外装も一緒に検討することで、構造的に厚みを抑えました。ほとんど一体型のように見えます。ケースバックの出っ張りも抑え、腕時計として常識的なサイズに収めることができました」
大谷選手本人が「普段から使いたい」と希望したこともあり、毎日着用しても負担にならないよう、ケース素材には軽量なチタンが採用されている。また、その仕上げにおいてもセイコーが誇る最高峰の技術が惜しみなく注ぎ込まれている。ケースサイドにも手作業による美しい面構成とヘアライン仕上げが共存。ベゼルは傷に強いセラミック製で、ポリッシュとヘアラインで光と影の美しいコントラストが描き出されている。
さらに、背番号の「17」や星条旗の「50の星」など、大谷選手に由来するデザインコードがいくつも散りばめられているのだ。
(外装設計担当・橋本さん)「ラバーストラップの裏には、大谷選手が現在アメリカのMLBで活躍されていることをヒントとして、星条旗と同じ50個の小さな星を模様としてエンボス加工しています。さらには、大谷選手の存在を表す“大きな星”もあしらうなど、とにかくストーリー性を意識した外装に仕上げています」
文字盤の差し色として入っている「17」には、いわゆる赤ではなく、セイコーのプレザージュなどにも通じる伝統的な朱色に近い赤が選ばれた。さらに、大型リューズの先端にはひときわ目を引くブルーサファイアをセッティング。デイリーユースに安心感のある10気圧防水もしっかり保たれている。
(デザイン担当・檜林さん)「コンセプトを一貫した姿勢で突き通す。これをなんとか実現するために、メンバーが膝を突き合わせながらディスカッションを本当に重ねましたね」
(ムーブメント設計担当・河田さん)「常にアイデアを出し合って続けてきたというのが、ある種、セイコーらしさでもあります。だからこそ、完成まで辿り着けた。この経験を社内で共有し、より良い腕時計を提供していきたいです」
これほどまでに特殊で、パーツ数も一般的な時計をはるかに凌駕する、世界にたったひとつの大谷選手専用モデルの開発を担ったのは、限られた人数の精鋭チームだった。不世出のベースボールプレイヤーが刻む時間を、セイコーの技術者たちが持てる技術のすべてを注ぎ込んで形にした「Seiko Star Time」。それはセイコーのマニュファクチュールとしての底力と、未知の機構へ挑む情熱の結晶と言える。すでに大谷選手の下には届けられているとのことで、試合前後のシーンやオフショット時に、彼の腕元で静かに、しかしながら確実に時を刻み続ける「Seiko Star Time」の姿を確認できることだろう。
〈セイコーウオッチ公式サイト〉https://www.seikowatches.com/jp-ja
Text/WATCHNAVI編集部



