Journey of Watches Vol.3 – 長野でキラッと輝く時計宝飾の催事「秀宝展」で出会う、時計好きが唸るブランドの数々。そして温かい販売スタッフとの出会い。

あらゆる立場で30年以上も時計業界に関わってきたLouさんによる連載企画。3回目は株式会社ミヤの催事「秀宝展」に赴き、時計を通じた人々の交流について寄稿いただいた。時計販売の裏側にあるショップ側の思いや情熱を知れば、もっと時計店が身近に感じられるに違いない。

「東洋のスイス」にこだわりブランドが集結する催事「秀宝展」

あらゆる職種で長く時計業界に携わってきた筆者が、時計業界で活躍する“人”との出会いを紹介する「Journey of Watches」。
今回は都会を飛び出し、長野市へ。8月8日、9日、10日の3日間、長野の老舗高級ホテル、長野ホテル犀北館で開催された時計宝飾の催事「秀宝展」を訪れた。主催は、長野駅前で時計専門店「ベイシススピーシーズ」と長野市・上田市で「ジュエリー東京」を展開する、創業90年以上を誇る株式会社ミヤである。

長野といえば、特に諏訪地域では戦時戦後、精密機械工業技術を発展させた地域で、特に時計製造では「東洋のスイス」とも呼ばれるまでに発展した日本の近代時計産業と深いゆかりを持つ地域、その長野に根ざした時計宝飾事業を展開する株式会社ミヤの催事には、かれこれ5年ほど、長野に年1回以上は訪れている。

そんな長野での大切な出会いのひとつが、株式会社ミヤの宮本泰成社長との出会いだ。

株式会社ミヤの宮本泰成社長

いつからだっただろうか。気がつけばすっかり意気投合し、今では年に一度のジュネーブ出張の際、焼き鳥を食べながら一杯やることが恒例になっている。

宮本社長と話をしていると、いつもその時計に対するこだわりと審美眼に驚かされる。しかも、それは単に高級時計や有名ブランドを知り尽くしているということではない。どこかに宮本社長ならではのオリジナリティがあり、「この人は本当に時計が好きなのだ」と感じさせられる。

そんな宮本社長の想いが詰まった時計宝飾の催事が、今回訪れた「秀宝展」である。

まず目を引くのが、この催事のメインビジュアルだ。毎回感じることだが、とにかくデザイン性が高い。催事というと、どうしても商品やブランドロゴを並べたビジュアルになりがちだが、「秀宝展」にはきちんと世界観がある。そのビジュアルを見ただけでも、宮本社長の美意識とセンスが伝わってくるようだ。

大きな会場に足を踏み入れると、まず高級インテリアアートの数々が出迎えてくれる。右側には華やかな高級ジュエリーや宝飾品。そして会場の中央から左側にかけてが時計のエリアとなる。

リヤドロのコラボレーション インテリアアートの数々

そこに並ぶブランドの顔ぶれが、実に面白い。
グランドセイコー、IWCシャフハウゼン、ブライトリング、カシオといった王道ブランドはもちろんのこと、「秀宝展」の面白さはここから先にある。

中央には、チャペックやアーミン・シュトロームといった超絶ハイエンドのインディペンデントウォッチが並び、さらにクストスまで展開される。

アーミン・シュトロームの「グラヴィティ」

これだけでも十分に興味深い品揃えなのだが、さらに会場には、普段あまり目にする機会のないミドルレンジのブランドも数多く揃う。

U-BOAT、エイレン、ミルス、ZEROO、レイモンド・ウェイル、エドックス、日本に上陸したてのガガ・ラボラトリオ……。

レイモンド・ウェイルの新作「A.R.T」

時計好きであれば、思わず足を止めてしまうようなブランドの数々だ。王道の高級時計だけではなく、独自の個性を持つブランドまで幅広く取り揃える。この「何が出てくるかわからない楽しさ」も、「秀宝展」の大きな魅力なのだと思う。

I W Cのアクアタイマー・クロノグラフをご成約のお客様の腕元

アイクポッドが再認識させてくれたかつての“面白さ”

そして今回、特に注目を集めていたのが、アイクポッドがかつて2000年代初頭に発表した「マナティー」の復刻版、「ミニポッド」の先行予約だった。

マナティーの進化版『ミニポッド』

実はこの「マナティー」の復刻版を筆者が最初に目にしたのは、先のジュネーブで開催された「Watches & Wonders 2026」期間中のことだった。偶然発見したこのモデルを、その後に予定していた宮本社長との「焼き鳥と一杯」の前に紹介したのである。もちろん宮本社長は、オリジナルの「マナティー」のことをよく知っていた。何故なら宮本社長はこのオリジナルを当時現行モデルとして購入し所有していたからである。そこから話が進み、今回の「秀宝展」での先行予約が実現した。

ミニポッドを先行予約いただいたお客様の腕元

会場で実際に「ミニポッド」が展示され、多くの先行予約が成約していく様子を見ながら、筆者はふと、時計業界における不思議な縁やつながりについて考えていた。

そもそも当時のアイクポッドに注目し、日本に初めて正規輸入を行ったのは、今回「秀宝展」に並んでいたチャペックやアーミン・シュトロームを現在正規輸入しているノーブルスタイリングである(現在、アイクポッドはノモス、ルイ・エラールやドクサの正規輸入元でもある大沢商会が行っている)。そして筆者に「独立時計という世界の面白さ」を教えてくれたのも、このノーブルスタイリングであった。思えばノーブルスタイリングは、2000年代初頭から、現在では世界的に高い評価を得ている高級独立系時計ブランドや独立時計師にすでに注目し、日本に紹介してきた。先見の明を持ち、日本の時計界を牽引してきた存在のひとつである。

ジュネーブで偶然出会った「ミニポッド」が、宮本社長との食事の席で話題になり、それが長野の「秀宝展」で展示され、多くの時計ファンのもとへ届けられていく。

そしてその背景には、アイクポッドを日本で展開し、日本に独立時計という文化を広めてきた人々の存在がある。

時計の世界は広いようでいても、実際は人と人とのつながりによって、驚くほど密接につながっている。今回の「秀宝展」でも、そんな時計業界ならではの“ご縁”を改めて感じることができた。

時計を揃えただけでは成り立たない「時計催事」という文化への思い

さて、「秀宝展」の話に戻ろう。

日本の時計の聖地とも呼べる長野の地で、これほど幅広い時計を一度に堪能できるというのは、時計好きにとって実に贅沢な体験である。都会の喧騒を離れ、善光寺への参拝や長野観光を楽しみながら、個性豊かな時計の数々に触れる。そんな時計旅も、なかなか楽しいのではないだろうか。

会場は多くの時計好きのお客様で賑わい、熱気に包まれていた。しかし、その一方で、どこか温かく、やわらかな雰囲気が漂っている。その理由は、MIYAのスタッフと各ブランドから駆けつけた販売応援スタッフが一丸となり、お客様を迎えているからではないだろうか。

MIYAの催事は、お客様とブランドやメーカーのスタッフとの距離が近い。時計について少し専門的な話を聞くことができるのはもちろん、そのブランドが生まれた背景や、普段はなかなか聞くことのできない話まで直接聞ける。フレンドリーな雰囲気のなかで時計を見て、触れて、そして人と話をする。それもまた、「秀宝展」を訪れる楽しみのひとつなのだと思う。

活躍するメーカー販売応援スタッフの方々とお客様

会場では宮本社長自身も絶えず動き回り、お客様一人ひとりに時計を提案していた。そして、やはり印象的だったのが、ベイシススピーシーズの栗城店長、松井さん、そして石坂さんをはじめとするスタッフの接客である。多くのお客様から信頼され、それぞれの好みやライフスタイルを理解したうえで、的確に時計を提案していく。そこに各ブランドやメーカーのスタッフが加わり、より専門的な情報やブランドの魅力を伝えながら、しっかりとフォローしていく。

単に「時計を販売する」ということではなく、お客様にとって最適な一本との出会いを、店舗スタッフとメーカー・ブランドスタッフが一緒になってつくり上げていく。それは、お客様にとってこの上なく贅沢で、そして安心できる時計選びの体験なのではないだろうか。

また、会場では3日間をかけて一つの作品を仕上げていくライブペインティングも行われ、時計やジュエリーだけではない楽しみを来場者に提供していた。こうした時計以外のアートやインテリアを含めた会場づくりにも、「秀宝展」ならではの世界観が感じられる。

宮本社長とライブペインティング画家の山口佳祐氏

今回の「秀宝展」を訪れて改めて感じたのは、素晴らしい時計が集まっているだけでは、催事の魅力は完成しないということだった。そこには、時計を選び、ブランドを発掘し、独自のラインナップをつくり上げる人がいる。時計のことを知り尽くし、お客様のことを理解したうえで提案する販売スタッフがいる。そして何より、時計を愛し、新しい一本との出会いを楽しみに会場を訪れるお客様がいる。

時計は、人がつくる。そして時計を選ぶのも、人である。

だからこそ、時計を通じて新しい人との出会いが生まれ、そこからまた次の時計との出会いが生まれていく。都会を離れ、長野で出会った時計と人。今回の「秀宝展」もまた、筆者にとって忘れることのできない「Journey of Watches」のひとつとなった。

時計を選ぶということは、もしかすると、その時計の向こうにいる「人」と出会うことなのかもしれない。今回の長野での出会いも、またひとつ、時計の旅を豊かにしてくれた。これからも時計を巡る旅のなかで出会った人や、そこから生まれるご縁を大切にしながら、次回もこの「Journey of Watches」でご紹介していきたい。

Text/Lou
[Lou] 学生時代のカジュアルウォッチチェーンの販売アルバイトから時計の魅力に取り憑かれ、29歳で大手スイス時計グループに入社後は、カジュアルから高級時計まで様々なブランドの事業部長を含む要職を歴任。ファッションの分野でも要職に就いて高級ファッションブランドの時計事業も担当し、営業、販売、マーケティングなど多くの分野で現場を経験。現在は、時計事業のアフターサービス業務を継続しつつ、自身のキャリアと欧米の時計業界との幅広く強固なパイプを活かし、カジュアルウオッチからインディペンデントウオッチまで数々なブランドのコンサルティングを行っている。
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