自社でいちからクロノグラフムーブメントを内製する設備を持たないブランドが、まずベースムーブメントとして選ぶのが「ETA7750」である。誕生から40年以上も製造され続け、いまもロングセラー記録を更新し続ける名機の特徴と実力を、ウオッチナビ編集部が改めてチェックした。
一時は機械式クロノグラフの半数以上に搭載されるほど市場を席巻
バルジュー社は手巻き時代のコスモグラフ デイトナ(ロレックス)にムーブメントを提供していた名門。同社がクオーツショックの最中に開発したのがキャリバー7750だった。クロノグラフ機構を裏蓋側に配し、その下に自動巻きユニットを追加する手法で、思い切った省スペース化に成功。1973年、名機「バルジュー7750」の完成である。
一方、1856年創業の老舗ETA社は、1926年にフォンテンメロン社、ア・シールド社と共に業界を再編してエボーシュ連合を組織。さらに第二次世界大戦を経て、ヴィーナスやバルジューを取り込み、1984年にスウォッチ グループの中核として現体制に至る。
上はキャリバー7750の自動巻き機構を外した状態。ボタンを押した力で作動カムがスライドし、その先にあるクラッチレバーを動かす。これに伴い振動ピニオンが輪列から受け続けている回転力をクロノグラフ機構に伝え、計測がスタートする構造。自動巻き上げ機構は、回転錘は360度全回転だが、片方向でのみ主ゼンマイを巻き上げる。合理的設計と優れた耐久性、そしてカスタマイズ、モディファイのしやすさにより、多くのブランドにベースムーブメントとして採用されることとなった。
バルジュー7750がETA7750となっても基本設計は継承され、機械式クロノグラフの約半数がETA7750を搭載するという時代もあったほどだ。また複雑時計のベースになるなど、その汎用性と信頼性は抜群だった。しかし、ブランドによってブラッシュアップのレベルが違うのも事実。ブライトリング時計技術部の技術トレーナーである林 繁さんは、ETA7750について、こう語る。
「ETA7750の汎用性の高さは、実績(数量、年数)からも明らかです。メンテナンスする技術者の観点からも高い信頼性は明言できます。クロノグラフとして設計されているため、ゼンマイの力が強いのも長所のひとつですね。片方向巻き上げ式ながらスムーズで巻き上げ効率が良いことも魅力です。なおブライトリングの場合は、様々な独自の工程があり、特に重要なのはゼンマイのトルクチェックと精度調整。100%クロノメーターを実現するため、熟練の技術者が高いレベルで調整しています」
ETA7750系ムーブメント搭載モデル