ハイブランドの新星クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーGMが語る「マリンクロノメーター」にこだわる理由

クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーは、ショパール率いるカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏が発起人となって誕生し、2015年にファーストウオッチを発表しました。偉大なる時計師の遺産は、どのようにして現代に甦ったのか。ブランドのジェネラルマネージャー、ヴァンソン・ラペール氏に話を聞いてきました。

 

マリンクロノメーターの名手だった時計師フェルディナント・ベルトゥー

クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーのジェネラルマネージャー、ヴァンソン・ラペール氏。

–フェルディナント・ベルトゥーは、18世紀に活躍した時計師の名前だと伺いましたが、実際にはどのような人物だったのですか?

「彼は、パリを拠点に活動をしていました。1750年以降に精力的に活動し、均時差と閏年の表示を持つ永久カレンダーの制作で科学アカデミーからマスター ウォッチメーカーの称号を得ています。彼のワークショップには、時計界で最も有名な時計師であるアブラアン-ルイ・ブレゲも10年在籍していたんですよ。
ベルトゥーが面白いのは、自分の開発の成果を惜しみなく広めようとしたこと。1759年に発表した自著は時計初心者にもわかる内容でまとめられており、その後19世紀まで数か国語で翻訳されるほど広まっていきました。
この頃には、ベルトゥーは当時の航海に欠かせなかったマリンクロノメーターを手がけ、フランス海軍の御用達と認められるようになります。そして、ルーブルの中にマリンクロノメーターのワークショップを開設する、という栄誉を手にしたのです」

ラペール氏が来日と合わせて持ち込んだフェルディナント・ベルトゥー1775年製の懐中時計No.3。

–そのような由緒正しきマリンクロノメーターが、今になってショイフレ氏の目に止まったわけですね。

「その通りです。彼は、ショパール所有のミュージアム「L.U.CEUM」にマリンクロノメーター専用の展示コーナーを設けるほどの愛好家。彼がオークションの情報を見ているときに目をつけたマリンクロノメーターこそ、フェルディナント・ベルトゥー銘のものだったのです。
その後、ベルトゥーのことを調べ上げていく過程で、ショパールの拠点であるフルリエの近くにアトリエを構えていたことを知り、さらに運命的なものを感じたのでしょう。
最も驚いたのは、200年以上もフェルディナント・ベルトゥーの時計が、これまでリバイバルされたことがないということ。これは奇跡としか言いようがありませんでした。そこでショイフレ氏は2006年にブランド名の使用権を取得し、その名に相応しいタイムピースを模索し始めたのです」

 

目指したのは最高峰の腕時計版マリンクロノメーター

–現在発表されている腕時計はいずれも非常にユニークなデザインですが、何かモチーフがあるのでしょうか?

第1弾ムーブメントCal.FB-T.FCを搭載したコレクション。左からRef.FB 1.1/税抜2707万円(18KWG+チタンケース/50本限定)、Ref.FB 1.2/税抜2707万円(18KRG+ブラックセラミックケース/50本限定)、Ref.FB 1.4-1/税抜2335万円(チタン/20本限定) 手巻き。直径44mm/厚さ13mm。30m防水。

「クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーのファーストウオッチは、現在、フルリエの時計博物館に常設展示しているマリンクロノメーターNo.6にインスピレーションを得ています。私たちが目指したのは、“フェルディナント・ベルトゥーが現代の技術で作り上げた腕時計マリンクロノメーター”です。
高精度は必須条件なので、私たちは時計に定力装置付きのフュゼ・チェーンや秒針付きのトゥールビヨンを考案しました。チェーンだけで790個のパーツとなり、装置全体では1120個以上に及びます。そしてそれを格納するムーブメントは、ブリッジを使わずに6本の柱で支える設計。こうした複雑なメカニズムを作るために新しい技術を開発し、4つの特許を取得しました。

かつてのフェルディナント・ベルトゥーの時計にも使われていたチェーンフュゼ機構を、現代技術で腕時計に搭載。

非常にユニークな構造を持つムーブメントは、その動きを8角形ケースのサイドから見られます。このアイデアは、かつてフェルディナント・ベルトゥーだけがマリンクロノメーターに設けていた開閉式の調整窓が発想の原点となっています。
ニッケルシルバーのダイアルは、一回だけサンドペーパーをかける完全に水平なヘアライン仕上げ。たった一回で私たちが作るハイクラスの時計に見合うように仕上げきるため、職人は細心の注意を払って作業に当たります」

–そうした作業には少なからずショパールの施設も関わっているのでしょうか?

「ショパールはハイエンドタイムピースの製造に長けたブランドでもありますし、私たちが設備を整えるのも時間がかかりすぎるので、一部のパーツ製作にショパールのリソースを使っているのは事実です。ただし、エンジニアは完全にクロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーのスタッフであり、作業工程やその難易度はショパールの工房でも圧倒的にハイレベルなものとなっています。
私たちは量産するよりも少量生産の時計に持てる技術の全てを投入していくブランド。そのハンドクラフトの希少性が愛好家の方に伝わるよう、1本1本を時間をかけて大切に作り上げていくのです」

複雑なケース構造の展開図を手に力説するラペール氏。一つひとつのパーツを完全に仕上げ、それを一体化させることでマリンクロノメーター由来の個性的なケースを作り上げている。

 

最新作で改めてアピールした独創性

左からCal.FB-T.FCを搭載したRef.FB 1.3/税抜3158万円(プラチナケース/50本限定)、Ref.FB 1R.6-1/税抜2929万円(3浸炭ステンレススティールケース/20本限定)、Ref.FB 1R.5/税抜3075万円(パティナブロンズケース/5本限定)。Ref.FB 1R5は、レギュレーター表示機構を備えたCal.FB T.FC.R搭載の新作だ。

–今年はSIHHでレギュレーターウオッチを、バーゼルワールドではわずか5本の限定モデルを発表しましたが、これを製作した経緯を教えてください。

「SIHHで発表したレギュレーターは、フェルディナント・ベルトゥーの作品No.7がモチーフ。パワーリザーブの表示や、トゥールビヨンでのセンターセコンド針など、愛好家の方にこそ伝わるユニークなメカニズムで作られています。
そして、これを限定仕様にしたのが、バーゼルワールド発表作。緑青を帯びたケースは、1785年にベルトゥーのマリンクロノメーターを積んで航海に出て、1788年にオセアニアの海に消えたラ・ペルーズ伯の沈没船で発見された六分儀に由来します。限定数の5本は、沈没した際に失われたとされる5つのマリンクロノメーターへのオマージュでもあります」

–最後に、なぜSIHHとバーゼルワールドの2つに出展したのか。その理由を聞かせてください。

「まず、クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーは素晴らしいウオッチブランドなので、ぜひ多くの人に見て欲しいという思いがあります。SIHHとバーゼルワールドでは、ブースに訪れる人々の層も全く違うので、その全く性質の異なる時計関係者に披露することが重要だと思いました。今年は、この2つのイベント以外にもドバイとメキシコの見本市にも出展するなどして、まずはブランド認知を進めたいと思っています。
私たちの製品は少量生産ですし展開店舗も全世界で10もありません。こうした希少性を理解していただける方と新しく出会えることが、現在の私たちの楽しみになっています」

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